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2021年3月5日号 2面・解説

バイデン政権「人権」口実に
中国への干渉強化

威信失墜の挽回は不可能

 バイデン米大統領は二月十六日、対話集会で中国に言及し、「人権」問題で「代償を払うことになる」と発言した。すでにバイデン大統領は「外交演説」で中国を名指しし、「最も深刻な競争相手」などとした。ここで言及したのは主に経済問題であったが、今回は「人権」問題である。バイデン政権は、中国への対抗になりふり構わぬ姿勢を露骨にさせている。
 バイデン大統領による対話集会は、就任後初めてである。しかもこの模様は、米国「三大ネットワーク」の一つであるCNNで、しかもゴールデンタイムに放送された。米国の新任大統領にとって、就任後百日間が重要であるとされている。
 バイデン政権はそれを意識し、この集会を重要なものと位置づけ、米国民全体にアピールしたかったのである。最初に訴えたのは一兆九千億ドル(約二百三兆円)規模の経済対策だが、「人権」問題への言及も同様に、国内向けの政権浮揚策の一つである。

「人権」で攻勢強める
 対話集会でバイデン大統領は、中国・新疆ウイグル自治区の現状について「国際社会と協力して中国に人権を守らせる」とぶち上げ、「中国は報いを受ける」とまで述べた。
 ブリンケン国務長官も、ウイグル問題を「中国政府によるジェノサイド(民族大量虐殺)」とまで決めつける発言をしている。
 すでにバイデン大統領は、十日、習近平・中国主席との電話会談で、「中国の高圧的で不公正な経済的慣行、香港での取り締まり、新疆ウイグル自治区での人権侵害問題、台湾などへの圧力強化が根源的な懸念事項と強調した」という。
 対話集会での発言はこれらに続くものである。
 台湾問題でも、バイデン大統領は自らの就任式に台湾の蕭・駐米代表を招いた。ソン・キム国務次官補代行(東アジア・太平洋担当)も十日、蕭代表と会談した際、「先進的な民主主義を掲げ、重要な経済・安全保障のパートナーである台湾との関係を深める」と表明している。
 さらに、サキ報道官は二十五日、二〇二二年に予定されている北京冬季五輪への参加は「最終決定していない」と述べた。ウイグル問題などを口実に、ボイコットする可能性に言及することで、中国をけん制するものである。
 バイデン新政権は国防総省にタスクフォースを設立し、四カ月以内に対中国を軸に米軍の態勢や軍事作戦、同盟国の役割などについての提言をまとめる予定である。

前政権からの「転換」か?
 バイデン政権の狙いは、「人権」を掲げることで中国の内政問題への干渉を強化し、揺さぶり、台頭を抑え込むことである。
 トランプ前政権は、リーマン・ショック以後の危機の深まりと国内矛盾の激化を背景に登場した。トランプ政権は中国への攻勢だけでなく、欧州や日本を含む同盟国にもさまざまな負担を求めた。衰退ゆえに、同盟国に「加減」する余裕を失っていたのである。
 こうした「米国第一主義」は歴史の歯車を逆回転させようとするものであった。それは、米国による世界支配を再確立させるどころか、同盟諸国の不信と不満を高め、米国の国際的影響力をさらに失墜させることとなった。米国内でも、トランプ政権の「金持ち減税」などで「格差」はさらに拡大、人種差別に抗議するデモの拡大など国内矛盾はいっそう激化した。これらは、コロナ禍によっていちだんと厳しいものとなった。議事堂突入事件に見られるように、米国はもはや内戦状態に近い。
 もはや、米国が単独で中国を抑え込むことができないことは誰の目にも明白となった。
 米帝国主義は、この衰退を巻き返し、中国を本格的に抑え込むため、戦略調整を迫られたのである。「自国利益を最優先させる」という点ではトランプ政権と同じであっても、同盟国をひきつけ、協力させて、中国やロシアに対処せざるを得なくなったのである。これは、単純な「トランプ以前への回帰」ではない。
 こうした経過から、バイデン政権は「民主」「人権」といった「大義」を掲げることで、同じ「価値観」を持つ欧州諸国をひきつけ、国際政治上の主導権を確保することを狙っているのである。世界保健機関(WHO)からの脱退表明の撤回や、気候変動対応のための「パリ協定」への復帰なども、同じ脈絡にある。ワクチン供給の国際的な枠組み「COVAX」へのも参加も表明した(自国企業の利益確保という面もある)。
 ただ、地球環境問題で中国との連携を表明するなど、対中政策が「敵視一辺倒」でないことには留意スべきであろう。米国は中国への攻勢を強化する一方で、この局面では、緊張が極度に激化することまでは望んでいない。
 中国は、「中国の内政問題で主権にかかわる」「米国は中国の核心的利益を尊重し、慎重になるべきだ」と、バイデン政権を強くけん制した。併せて「(米中は)重大な国際・地域問題について深く意思疎通することができる」と、対話を呼びかけた。

一部同盟国離反の可能性も
 米国が「人権」などを掲げることは、他方で「コスト」を伴う。
 一例は、イエメン内戦への支援問題である。
 イエメンでは一五年以来、ハーディー政権派、フーシ派ら三派による内戦が続いている。
 米国は、フーシ派は「イランの支援を受けている」などとして、ハーディー政権派を支援するサウジアラビを中心とする連合軍への軍事支援を行っている。
 だが、連合軍による爆撃や制裁行動は、八万五千人以上が餓死し「世界最悪の人道危機」といわれる状態を引き起こしている。この惨状は、欧米を中心に激しい批判をあびている。
 米国が「人権」を掲げる以上、その標的を中国やロシアのみにとどめることは「二重基準」の批判を招きかねない。
 バイデン大統領が一月の「外交演説」で、「(イエメン内戦での)連合軍への支援中止」を表明せざるを得なかったのには、こうした事情がある。
 一八年にトルコでサウジアラビア人記者が殺害された事件について、サウジアラビア皇太子が「拘束または殺害を承認した」との調査報告書を公表したことも同様である。バイデン政権は、欺まん的に皇太子を除外したものの、サウジ元高官ら数十人への制裁措置を発表せざるを得なかった。
 サウジアラビアは「容認できない」と反発したが、こうした米国の態度に不満を募らせることは必定である。一九年、プーチン・ロシア大統領は十二年ぶりにサウジを公式訪問した。ロシアはサウジに地対空ミサイルなどを提供することで合意した。
 原油生産量などをめぐって対立することも多い両国だが、ロシアは中東での影響力強化を、サウジは対米関係の相対化をもくろんで接近しているのである。
 米国による中東支配は、イスラエルとサウジアラビアという「二本の柱」なしには成り立たない。その一方が動揺しているのである。
 米国が「協調」を呼びかけても、諸国は従来以上に米国を信用できない。もはや「トランプ以前」には戻り得ないのである。

「人権外交」の破綻は必至
 バイデン政権の掲げる「人権外交」は、こうした諸矛盾を世界中で激化させ、米国の世界戦略を掘り崩す要素をはらんでいるのである。
 米国において「人権外交」を掲げたのは、バイデン政権が初めてではない。一九七七年に登場したカーター政権は、ベトナム戦争の敗北とウォーターゲート事件によって失墜した国威を回復させるためにこの手段を使った。南アフリカの「アパルトヘイト」(人種隔離政策)への制裁、アルゼンチンなどの軍事独裁政権に対する援助停止などだが、中心はソ連への対抗である。
 だが、カーター政権の「人権外交」はイラン革命などによって破綻した(米国はパーレビ王制への支持を続けた)。
 この当時と比較すれば、米国はさらに大きく衰退しており、中国が国際政治・経済両面で登場している。欧州諸国は統合を強め、東南アジアなど新興諸国も台頭して自主性を強めている。米国中心の世界経済の危機は深まり、資本主義は末期症状を呈している。技術革新も急速に進展、生産様式の変革期、すなわち「社会革命の時代」が到来している。
 バイデン政権の策動も、米国の衰退を押しとどめることは不可能であろう。
 このような米国に従い、「自由で開かれたインド太平洋」などと言い、共に「人権」などの旗を振ることは、わが国の将来の利益にはならない。労働者階級は米国とその追随者の宣伝を信じてはならないのである。(O)


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