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2021年2月25日号 1面

株価一時3万円超え
金融緩和による政策効果

「濡れ手にアワ」の大企業
国民との格差ますます開く

 日経平均株価が二月十五日、三十年半ぶりに三万円を超えた。
 米国市場でも十六日にダウ工業株三十種が終値で最高値を更新するなど、株価は昨年末から世界的に大きく上昇している。
 一月七日、新型コロナウイルスの感染拡大で再度の「緊急事態宣言」が発出されて以降、日本の実質国内総生産(GDP)は約三兆円、個人消費は四・二兆円も減少したと推定される(大和総研による)。世界の実質GDPも、二〇二〇年だけで四・二%以上低下したと推計されている。
 膨大な中小零細企業が倒産・休廃業に追い込まれ、失業者は急増、大多数の労働者が所得減少に追い込まれている。
 実体経済と各国国民の深刻な実情を鑑みれば、株価が上昇する余地などないと考えるのは当然である。  だが、株価は二〇年三月に大きく下がって以降、大幅に上昇している。とくに昨年末以降の上昇は急激である。コロナ感染者が増え、勤労国民が困窮すればするほど株価が上昇するというパラドクスで、「格差」はますます開く。
 マスコミは「IT(情報技術)企業が株価を引っ張った」「ワクチン開発ニュースが影響した」などと言うが、的外れである。
 株価上昇の理由は、各国政府による膨大な景気対策と、それを支える中央銀行による大規模な金融緩和政策である。
 トランプ前政権が一兆ドル(約百八兆円)規模の経済対策を行ったのに続き、バイデン新政権も一月中旬、一兆九千億ドル(約二百兆円)規模の景気対策を打ち出した。菅政権も、十九兆円規模の二〇年度第三次補正予算を成立させた。
 財政出動は、中央銀行が国債購入で国家財政を支えているからこそ可能になっている。
 米連邦準備理事会(FRB)は昨年三月、政策金利の誘導目標をほぼ〇%まで切り下げ、量的緩和政策も復活させた。欧州中央銀行(ECB)も二度に渡って緩和政策を実施、資産購入の特別枠(PEPP)を一兆八千五百億ユーロ(約二百三十兆円)にまで拡大させた。マイナス金利(▲一%)での銀行への貸し出し(TLTRO)も行っている。日銀も「異次元緩和」に政策を積み増し、上場投資信託(ETF)買い入れを年十二兆円に倍増させるなどの措置をとった。
 すでに日銀は日本市場に置いて株式購入の筆頭に踊り出、日銀のETF保有額は時価約四十五兆円を突破、東証一部上場企業の時価総額の六%を超える規模にまでになっている。
 リーマン・ショック以降の緩和政策で、すでに投機マネーは市場を席巻していたが、コロナ禍でマネーはますますあふれ出すことになった。金融機関、投資家はこのマネーを使い、株式をはじめとする投機をあおっているのである。
 FRBの資産規模はコロナ禍以前の約一・五倍、リーマン・ショック前から約九倍にも拡大している。日銀の資産規模も、一二年のアベノミクス以降、ほぼ倍増している。資産規模の対GDP比では、先進国中央銀行中で最大である。
 中央銀行の資産規模の拡大は、市場におけるマネーの増大とほぼ同義である。
 この下での世界的株価上昇は、まさに「官製市場」化のなかでつくり出された巨大なバブルにほかならない。リーマン・ショックという「バブル崩壊」後、各国支配層・中央銀行は「新たなバブル」をつくり出すことで危機脱出を図った。コロナ禍にみまわれ、その「手口」をさらにエスカレートさせることに追い込まれているのである。
 バブルはいずれ崩壊する。世界経済を破局に導く「爆薬」は、ますます巨大化しつつある。  (O)
ソフトバンクG=四半期で3兆円の利益
JT=手厚い配当の一方で大リストラ
 金融緩和によって、わが国大企業は資金調達が用意となり、また子会社などからの株式配当で大いに潤っている。
 一例をあげよう。
 ソフトバンクグループは、主力の携帯電話事業だけでなく、傘下の二つの投資ファンドによって、第3四半期(十〜十二月)純利益は三兆五百五十二億円と、国内企業として過去最大となった。ファンドが二兆七千二百八十七億円の黒字を稼ぎ出したことと、本体の株価売却益が背景である。
 まさに、三月以降の株価上昇の恩恵を十分に受けた格好である。
 同社ファンドの保有株式価値は、約一・一兆円の投資に対して時価資産規模は約三兆円と二・六倍にも膨らんでいる。
 孫会長は自社を「金の卵製造業」などと誇ったが、卵を大きくしているのは、中央銀行の金融政策なのである。
 また、大企業は投資家への配当を増やしている。これも、株価上昇の構造的一因である。
 例えば、日本たばこ産業(JT)の配当性向(銀行預金の利息に相当)は約八%で、上場企業中で第七位である。今年度も、一株あたり百五十四円を配当した。一株あたりで、何と純利益の約八八%を配当に回していることになる。
 JTは前期まで十六年連続で配当を増やす(増配)など、株主への還元に「熱心」である。
 JTは一方で、九州工場(福岡県筑紫野市)の閉鎖と人員削減計画を発表した。長年にわたって利益を労働者に還元せず工場閉鎖と首切りを仕掛けるとは、断じて許しがたい。
 このほかカシオ、曙ブレーキ、佐世保重工業、東芝などもリストラを発表している。
 大企業の無慈悲な策動も、金融緩和政策をはじめ政府の後押しで可能になっている。勤労国民との「格差」はますます開いている。


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