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2021年2月5日号 2面・解説

バイデン大統領就任式

内戦的危機の打開は困難

 米国の第四十六代大統領であるバイデン氏の就任式が一月二十日、行われた。就任式は「戒厳令下」ともいえる異例の状況で行われた。先の、トランプ支持者による連邦議会議事堂の占拠事件と併せ、米国は「内戦」ともいえる状況にある。当面、コロナ対策と経済政権を急ぐ新政権だが、階級矛盾の深刻化を前に、前途多難である。
 大統領就任式は、約二万五千人の州兵が周囲を封鎖する厳戒態勢のなかで行われた。ワシントン以外でも、全米五十州で武装反政府デモが行われた。
 前任のトランプ大統領は百五十二年ぶりに就任式への参加を拒否、選挙後唱えた「不正」の主張は公式に撤回されないままである。
 何より、就任式のわずか四日前には、トランプ支持者らが連邦議会議事堂を包囲し、一部が議事堂へ突入した。警官一人を含む五人が死亡、夜間外出禁止令が発令される異常事態となった。
 「日経新聞」が「準内戦」と書くほどの事態である。  こうした「異例さ」は、米国の抱える階級矛盾の深刻さ、社会的「分断」の深さを示すものとなった。
 就任直後、バイデン政権への支持率は六七%であったという(ワシントン・ポスト)。トランプ前大統領を上回っているが、十二年前のオバマ政権(八四%)には遠く及ばない。何より、バイデン氏を「正式な勝者」と認める共和党支持者は約二割にとどまるという。
 バイデン新大統領は「米国の団結」を掲げ、「全ての米国民の大統領」になると宣言した。これは、米国の社会「分断」、党派対立が著しく激化していることの証左である。

危機の深化とコロナ禍
 そもそもトランプ前政権は、リーマン・ショック以降急速に拡大した国内矛盾を背景に登場した。「米国第一」を掲げて責任を中国など外国に転嫁し、「ラストベルト地帯」などの衰退する地域の有権者、とくに白人労働者層をひきつけたのである。むろん、これは政治的欺まんであった。
 トランプ政権が実際に行ったことは、金持ち優遇の大型減税や中国への制裁を中心とする対外関係の強硬策、軍備拡大などであった。これは国内産業の復活には結びつかず、米国の国際的孤立はいちだんと深まった。
 政治的威信もさらに低下した。財政赤字もますます膨らんだ。
 さらにコロナ禍は、貧困層をより悲惨な状態にたたき込んだ。
 米国での新型コロナウイルスによる死者数は世界最悪で、すでに四十万人を超えている。この死者数は、第二次世界大戦における米国の死者数とほぼ同じである。  昨年十二月の米失業率は六・七%、完全失業者は一千万人以上と、コロナ前のほぼ二倍で高どまりしたままである。失業者の再就職はいちだんと難しくなっている。生活保護(フードスタンプ)受給者は四千二百万人を超え、リーマン・ショック後の一三年八月(約四千三百万人)にほぼ並んでいる。
 家賃を払えず家を追い出される人びとが急増、コロナ禍以降、申請された住宅退去処分だけで約十六万二千件を超えている。町にはホームレスがあふれているが、トランプ政権下で決められた住宅支援策は財政枠が尽きかけている。ある調査期間は、今後、四千万人が立ち退きを迫られると予想している。ホームレスのコロナ死亡率は、そうでない人に比べ八割近くも高いとされる。
 また、黒人層の失業率は平均より約一〇ポイントも高い。サービス業での雇用が多い女性に犠牲が集中している。昨年十二月には、男性労働者の雇用が一万六千人増加した一方で、女性の雇用は十五万六千人も減少している。
 銃犯罪、薬物中毒なども社会的危機を深めている。
 全国で続く「黒人の命こそ大切」デモは、これらの矛盾の反映である。

経済社会の立て直し図る
 バイデン新政権はリーマン・ショック、さらに新型コロナウイルス感染症の拡大によってさらに広がった国内の「格差」と「分断」、階級矛盾の深刻さを乗り切ろうとしている。さらに、中国への対抗で世界支配を維持しようともくろんでいる。
 就任したバイデン大統領はすぐさま、地球温暖化に関する「パリ協定」への復帰やメキシコとの間の「壁」建設中止を含む約二十項目の大統領令に署名した。トランプ前政権からの「変化」を内外に印象づけることが狙いである。
 バイデン氏は選挙中、四年間で二兆ドル規模の環境・インフラ投資を公約した。
 当選後には、九千億ドル(約九十三兆二千二百億円)規模の追加財政支出を打ち出している。内容は再度の現金給付、最低賃金引き上げ、学校再開、子育て支援などである。
 当面はこの実行だが、米国の国内事情はあまりに深刻で、この程度の政策では国民を救うにはあまりに不十分なものである。

難問山積、「分断」深まる
 バイデン政権は深刻な国内矛盾に対処しようにも、さまざまな要因に縛られている。
 まず、すでに述べたように実体経済、国民生活がきわめて深刻なことである。
 それにもかかわらず、S&P総合五百種株価が昨年三月以来七〇%以上も上昇するなど、株価は史上最高水準となっている。現在の株高も明らかなバブルで、早晩の破裂は必至である。
 それでも、ごく一握りの投資家、大企業はますます儲(もう)けている。これは、連邦準備理事会(FRB)が行う金融緩和策の「恩恵」である。資産価格の上昇によって、超富裕層の上位一%の純資産は半年で五兆ドルも増加し、三十六兆ドル(約三百七十七兆円)となっている。
 空売り専門投資家に批判が集中して株式市場が混乱した騒動は、深刻な「格差」に対する不満の高まりを示す一つの事例である。
 財政事情もますます厳しい。米連邦債務は約二十七兆ドル(約二百八十三兆円)と過去最悪で、国内総生産(GDP)比一三〇%と、第二次大戦時やリーマン・ショック時を上回る。
 新政権が対処しなければならない国内課題はあまりに多く、かつ深刻で急がれている。限られた財政、厳しい経済環境の下での実行には限界があり、階級矛盾、社会的分断を緩和させることは不可能である。

対中関係でも難題
 国内問題に「手一杯」であるにもかかわらず、米帝国主義、バイデン政権は中国の台頭を抑え込み、覇権を維持しようとしている。
 バイデン政権は、トランプ前政権が進めた追加関税などの強硬路線を、当面維持する。サキ大統領報道官は「中国は米国の安保、繁栄、価値観に挑戦している」と述べ、対抗する意思をあらわにさせた。大統領就任式に台湾当局の代表を出席させ、早速、中国を挑発した。
 新政権の対中政策の特徴は、日本、オーストラリア、インドを含む四カ国の戦略対話を強化することによる中国への対抗と、「人権問題」の重視である。サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、中国に「新疆ウイグル自治区や香港での振る舞いや、台湾への敵意や脅迫への対価を払わせる」と挑発している。
 併せて、気候変動や核不拡散などで中国を取り込むことも模索されている。
 だが、トランプ政権下で米国の威信はさらに失墜し、孤立を深めた。今になって「国際協調」を掲げたとしても、「かつての米国」ではない。その証拠に、欧州連合(EU)は中国との投資協定で合意するなど、米国主導の対中包囲網と一線を画している。「四カ国」に入っているインドでさえ、国境問題やIT(情報技術)では強硬策を取りつつも、上海協力機構(SCO)などの対中関係は維持されており、「敵視」ばかりではない。
 しかも、中国はコロナ禍でも世界一の経済成長率を記録、軍備充実も着実に進めている。とくに注目できるのが、「デジタル人民元」導入の動きである。
 米国が第二次世界大戦後の世界支配を維持できた要因は、経済力だけではない。それはつまるところ、膨大な軍事力と基軸通貨ドルである。
 デジタル人民元は、その基軸通貨体制を掘り崩す可能性を持っている。この変化は、今後一〜二年で急速に進展すると思われる。
 バイデン新政権は、まさに「内憂外患」の下で船出した。自国の衰退を押し止めることは困難だが、かれらが自ずから世界支配を放棄することはない。米帝国主義に対する戦いを強化すること、わが国においては独立・自主、対米追随の下での政治軍事大国化に反対する闘いをいちだんと強化しなければならない。(O)


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