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2021年1月25日号 4面・解説

菅首相が初の施政方針演説

成果焦るが早くも窮地

 第二〇四通常国会が一月十八日に召集され、菅首相が施政方針演説を行った。首相は新型コロナウイルス対策、規制改革やデジタル化、外交・安全保障政策などに言及した。コロナ禍が深刻化し、世界・日本経済は危機的状況にある。政権支持率は急落し、当面は解散・総選挙で主導的に振る舞うことも困難である。演説には、こうした事情が集約されている。労働者をはじめとする国民諸階層は、倒閣の闘いを強めなければならない。
 マスコミは「国民の不安や不信に応えるものではなかった」(毎日新聞)などと、菅首相の施政方針演説に批判的である。右翼御用新聞の「産経新聞」でさえ「首相が最近語ってきた内容を繰り返している感は否めない」と言わざるを得ないほどだ。
 それもそのはずである。菅首相の演説は、コロナ禍をはじめとする深まる内外の危機に対処し、打開できるものではなかった。

世界の危機、焦る財界
 わが国の「環境」である世界資本主義は末期症状を呈し、生産関係が変革される「社会革命の時代」が到来している。
 企業・国家間の市場と資源、技術をめぐる争奪が著しく激化している。帝国主義、とくに米帝国主義の世界支配は弱まり、中国、インドなどの新興諸国が台頭、諸国間の力関係も大きく変化している。各国で階級矛盾が深まり、政権を揺さぶっている。
 急速な技術革新、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)がこれを促進している。死者は世界で二百万人を超え、わずか三カ月半で倍増している。感染者は九千五百万人を超え、九月末の三倍以上に達する。
 わが国ではデフレ不況が長期化し、国民生活・国民生活はますます危機的である。対米従属の内外政治は、ますます限界に達した。深刻な国家財政、デジタル分野における立ち遅れなどもある。
 このような環境下、わが国支配層、その中心に財界は焦りを深めている。財界は政治に国内経済・社会の改革と、多国籍大企業の海外権益を守ることを求めている。  この改革政治は、小泉改革の継続・深化でもある。安倍前政権によるアベノミクスは、財界からすれば不徹底なものであった。
 菅政権は成長戦略会議を「司令塔」として、財界の要求に忠実に応えようとしている。
 「中小企業が多すぎる」と淘汰(とうた)を公言するアトキンソン・小西美術工藝社社長、同類の竹中・パソナグループ取締役会長らは、成長戦略会議(議長・加藤官房長官)の中心メンバーとして居座り、改革政治を推し進めようと画策している。
 だが、当面のコロナ禍は菅政権、支配層にとって重荷である。昨年四月の宣言時を大きく上回る感染者と重症者を生み出している。十一都府県で緊急事態宣言が発令される状況に追い込まれた。入院先や宿泊施設が見つからず自宅などに「放置」されている患者は、東京だけで七千人を超えている。都市部を中心に、すでに「医療崩壊」が始まっている。

コロナ対策で窮地に
 こうしたなか、菅首相による施政方針演説が行われた。最大の眼目はコロナ対策である。
 昨秋の所信表明演説で、菅首相は「コロナ対策と経済の両立」を力説した。今回の施政方針演説では「まずは安心を取り戻すため、深刻な状況にある新型コロナを一日も早く収束させる」などと、「感染防止対策」を優先する姿勢が目立った。これは、感染拡大の広がりに強いられたものであり、すなわち失政の結果である。
 首相は「ステージ4(感染爆発)を早急に脱却する」などと強調したが、その道筋は鮮明ではない。それどころか、安倍前政権、さらに菅政権のコロナ対策は無様そのもので、国民の命と健康を守るどころか、危険にさらし続けている。
 そもそも、秋季以降の感染再拡大は、春の段階で有識者の誰もが指摘していたことである。国民の命と健康に責任を有する政府としては、検査拡大、医療関係者の人員確保などの諸政策と、それを保証する予算措置をとっておくことが当然であった。
 菅政権は逆に、旅行大手を支援するための「GoToキャンペーン」(十月から)で感染拡大要因を拡大させた。
 深刻な感染拡大は「政治の責任」にほかならない。

コロナ対策は従来策の延長
 こうした政策を抜本的に転換することこそ、政府の責務である。だが、演説で打ち出されたのは、従来策の継続であった。
 演説では、ますます厳しい国民生活を救うための施策、たとえば再度の給付金支給にもまったく言及がなかった。
 肝心のPCR検査の抜本的拡充には全く触れず、過重な負担を強いられている医療機関への減収補填(ほてん)策や「時短要請」に応じた飲食店への補償もきわめて不十分である。
 逆に首相は、三十歳代以下の「若者の外出や飲食」に感染拡大の責任を押し付け、飲食店に営業時間短縮を一方的に求めた。
 また、二月下旬までにワクチン接種開始、コロナ病床の増床を説明した。
 だが、ワクチンの安全性はいまだ明らかではない。コロナ病床の増床にしたところで、二〇〇〇年代初頭の小泉改革以降、歴代保守政権が感染症対応病床の削減を進めてきたことへの反省は一切ない。これで「増やします」といったところで、説得力はない。
 そのほか、所得が低いひとり親世帯への助成、雇用調整助成金の特例延長、緊急小口資金の返済免除特例延長などに言及した。苦境の国民生活を助けるにはきわめて不十分なもので、延長期間も短すぎる。たとえば、雇用調整助成金は基本的に企業に対する助成であり、企業が申請しなければ得られない。同制度を活用するとしても、不活用企業に対する罰則を設けるなどが不可欠である。

危機テコに特措法改悪策す
 政府の対応は、責任を果たしているとは到底いい難いものである。
 それでありながら、インフルエンザ特措法の改悪で罰則規定を導入するなど、言語道断である。
 感染症法改定案は、入院を拒んだ感染者に「一年以下の懲役または百万円以下の罰金」の刑事罰を設けるものである。現状、多くの感染者に「自宅待機」を強いる行政の責任を不問にする一方で、感染者だけを罰するとは不平等きわまりないものである。また、国や知事の医療機関への感染者受け入れの協力要請を「勧告」に強める。従わなければ医療機関名を公表できるようにするというものだが、医療機関への支援もきわめて不十分ななか、一方的に負担を押し付けるものである。
 安倍前政権は、特措法改定は「新型コロナの感染が収束した後に検証、検討」としていたが、感染が拡大するなかで「どさくさ紛れ」に改悪しようとしているのである。
 断じて許しがたいことである。「国民の命と健康を守り抜く」(菅首相)というのであれば、政府が行うべきは、国庫負担による検査の抜本拡充と医療体制支援、国民生活・国民経済を助ける補償措置である。

「自助」消えたが改革策動
 施政方針では、財界が要求している改革政治についても明言した。
 菅首相が就任以来繰り返してきた「自助」は、言葉としては消えた。だが、この姿勢に変化はない。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造を見直」すと明言した。
 はじめにもくろまれているのは、七十五歳以上の高齢者の医療費窓口負担の引き上げである。一定以上の所得を有する者だけが対象だが、「アリの一穴」にほかならない。
 規制改革では「行政手続きのオンライン化」「オンライン診療」などを掲げた。「地域金融機関の経営基盤強化」は事実上、地方銀行や信金・信組の再編・淘汰であり、メガバンクや証券大手の下での金融独占体の再編・強化である。
 菅首相は、自民党総裁選のさなかに「(地銀の)数が多すぎる」などと発言、再編気運に火を付けた。政府は昨年、再編を促す狙いから金融機能強化法を改定、十一月には、地銀の経営統合を独占禁止法の適用除外とする特例法を施行させた。合併・経営統合する地方銀行を対象とする資金交付制度案も創設される。日銀も、合併した地銀による当座預金の金利を年〇・一%上乗せする。
 「あの手この手」による地方金融の再編によって、地方経済はますます中央金融独占の収奪を受け、衰退は避けがたい。

デジタル化で巻き返し困難
 デジタル化にも言及し、デジタル庁に「強力な権能と予算」を与えるという。だが、わが国はデジタル化において世界に大きく立ち遅れている。菅首相は「十兆円規模の大学ファンドを通じて人材を育成」と、デジタル化だけでない科学技術分野の強化策を打ち出したが、米国や中国などに「追いつける」かどうかは定かではない。
 また、これを進めれば、IT(情報技術)大手企業に多大な利益を与える一方、国民に対する監視は飛躍的に強まる。
 「脱炭素社会」では、五〇年までに温暖化ガス排出量を「実質ゼロ」にする目標の下、三五年までに「新車販売で電動車一〇〇%」を打ち出した。「五〇年には年額百九十兆円の経済効果」などというが、これまた、わが国は世界に先んじているわけでもない。
 海外投資を呼び込むための「金融市場の枠組み」を提起、性懲(こ)りもなく「国際金融都市」構想にしがみついている。仮に実現できてもごく一部の金融資本だけが潤うものだが、厳しい国際競争のなかで成功することは至難である。
 破綻済みの「観光立国」も、反省もなく掲げ続けている。

日米基軸の枠内の外交政策
 外交・安全保障政策では、バイデン米次期大統領と「早い時期に会い、日米の結束をさらに強固にする」と述べた。「自由で開かれたインド太平洋」も改めて掲げた。
 この下で、イージス・アショア(地上発射型弾道ミサイル防衛システム)に代わるイージス・システム搭載艦の採用など、軍事大国化の道も改めて示した。沖縄県名護市辺野古への新基地建設強行も、公然とぶち上げている。
 首相は「多国間主義を重視」などというが、菅政権の外交・安全保障政策は、安倍前政権による日米基軸、その下で中国に対抗した政治軍事大国化路線を引き継ぐものである。
 隣国である中国については「安定した日中関係」と述べた。
 バイデン米新政権の対中国政策は、トランプ政権と大きな違いがないことが予想されている。日米基軸のわが国は、米国の対中国戦略の最前線で、まさに「不沈空母」の役割を担われることになる。
 日中関係の「安定」はあり得ない。わが国支配層は、日米基軸と対中関係(主に経済)との狭間で動揺を深めることになろう。
 南北朝鮮については、金正恩委員長と「条件を付けずに直接向き合う決意」と述べたが、敵視政策を続けるなか展望はない。国交正常化後、最悪の状態にある対韓国関係についても「韓国側に適切な対応を強く求め」るというのみである。侵略と植民地支配に対する真剣な反省ができない菅政権には、抜本的関係改善は不可能である。
 ロシアとの北方領土問題も、打開はほとんど困難である。
 米国が衰退を早め、諸国間関係が大きく変化するこんにち、この政策は時代錯誤そのものである。わが国の平和と繁栄ではなく、戦争と亡国の道である。
 また、原発再稼働にも言及した。安倍前政権を引き継いで「改憲議論」を呼びかけ、憲法第九条改悪に執念を見せた。
 このほか、就任早々に行った日本学術会議への介入、吉川元農相などの金権腐敗にはほとんど触れなかった。安倍前首相による「桜を見る会」問題をめぐる国会答弁にも「おわびする」との一言のみで、反省はまったくない。
 東日本大震災からの復興や災害対策などに言及している。

菅政権は「八方塞がり」
 今通常国会は、六月十六日までの百五十日間が予定されている。政府は、すでに述べたインフルエンザ特措法改悪案、重要政策として掲げるデジタル庁設置関連法案など、昨年より四本多い六十三法案を提出する予定だという。
 菅政権が真っ先に成立を急ぐ二〇年度第三次補正予算案は、「GoTo」延長や「国土強靭(きょうじん)化」を名目とする公共事業が主体で、こんにちの危機的状況に対処する内容ではない。早急な組み換えが必要である。
 発足後半年にも満たない菅政権だが、早くも支持率急落にあえいでいる。
 「毎日新聞」の世論調査では支持率三三%に対して不支持率が五七%、「読売新聞」でさえ、支持率三九%に対して不支持率四九%である。
 菅政権はこうした環境の下で、二一年十月に任期が迫った衆議院選挙に対処しなければならない。それ以前にも、四月末の衆議院北海道二区と参議院長野選挙区補欠選挙、七月の東京都議会選挙に勝ち抜き、七月二十三日からの東京五輪の開催にこぎつけなければならない。九月の自民党総裁任期もある。
 内外の危機は、菅政権の選択を幅をますます狭め、苦境に追い込んでいる。
 菅政権を追い込み、打ち倒す闘いが求められている。(O)


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