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2020年12月15日号 2面・解説

菅政権/地銀再編の加速化もくろむ

金融大手に奉仕し地域を破壊

 菅政権は、財界の要求にそって改革政治を推し進めようとしている。首相が総裁選挙中から力説していたのが地方銀行改革で、具体的には再編・統合である。これは、衰退著しい地方経済にいちだんの打撃を与えるもので、大手金融機関に地域経済の収奪を許し、金融資本の集積と集中をさらに強化するものである。地域経済を守るため、地銀再編と狙いとその影響を理解することが重要である。
 上場地方銀行の六割にあたる四十九行・グループの二〇二〇年四〜九月期の最終損益が減益・赤字だったことが判明した。福島銀行(福島県)、百十四銀行(香川県)は最終赤字となった。
 さらに、四十九行・グループの二一年三月期連結純利益は、五年連続の減益となる見通しである。直近のピーク(一六年三月期)と比べると、純利益は約半減する。

金融緩和による悪化
 こうした地銀の経営不振は、長期不況、米中貿易摩擦などの波及、さらにコロナ禍による地域経済の疲弊が背景にある。もともと、地銀の収益は「貸出による金利収入」に依存(約七割)している。都銀のそれは四割前後しかない。
 地方の疲弊は、これに拍車をかけている。また、地銀は貸し倒れの増大に備え、引当金の増加を余儀なくされ、それが経営を悪化させているのである。
 金融機関の全預金額中、地銀の占める割合は約四五%で、第二地銀や信金・信組を加えれば、地方の金融機関が過半である。貸出額でも、地銀は全体の約四割を占める。
 バブル崩壊後、都市銀行や信託銀行は急速に統合・再編を進め、三メガバンク(三菱UFJ、みずほ、三井住友)が成立した。〇〇年代以降、地銀の多くもメガバンクの系列下、あるいは影響下で再編された。たとえば、野村證券と三菱UFJの影響下で、常陽銀行(茨城県)と足利銀行(栃木県)は「めぶきフィナンシャルグループ(FG)」として統合した。
 それだけではなく、安倍前政権以降の日銀による金融緩和政策が、地銀経営を圧迫しているのである。
 アベノミクスで大企業・投資家が潤う一方、地方経済の疲弊が進んだ。
 さらに、日銀による緩和政策で、地銀の投資先である国債からの金利収入が減少した。また、地銀は日銀当座預金から「罰金」をとられる形になった。
 政府の政策こそ、地銀経営に打撃を与えているのである。

地銀再編計画の経過
 こうした地銀の苦境を逆手に取り、政府側は地銀に統合や経費削減などの経営改革を強く促してきた。現在、国内の地銀は百一行で、この十年間で五行減った。だが、支配層はこの減少を「不十分」とし、さらなる再編を進めようとしているのである。
 金融庁は一三年、「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という文書(森ペーパー)を配布した。これは、地方経済の縮小を前提に、各銀行の収益性を試算したものである。一四年、畑中・金融庁長官は「経営統合などを経営課題として考えてほしい」と、地銀トップに再編を迫った。一九年度には、健全性に「疑問」のある地銀十行を重点的に監視する制度を発動した。
 日銀も一九年四月、「金融システムレポート」を発表、十年後に地銀の約六割が最終赤字になる恐れがあるとし、再編を促していた。
 この動きと並行して、フィンテック(金融技術)、人工知能(AI)導入などの急速な技術革新が進み、金融機関自身の存続さえ危ぶまれる事態となっている。
 メガバンクは、これに備えて人員削減を始め、海外で稼ぐ志向をいちだんと強めている。
 政府による地銀再編の狙いは、地方経済を再生するためではなく、地域への収奪強化でメガバンクの競争力を高め、国際競争で勝ち残る基盤を強めることである。

「号砲」鳴らした菅政権
 菅首相は、自民党総裁選のさなかに「(地銀の)数が多すぎる」などと発言、一気に再編気運に火を付けた。
 政府はその直前の今年六月、金融機能強化法を改定し、地銀などに公的資金を注入しやすい仕組みを整えた。コロナ禍の影響を受ける企業の資金繰りを支援することが狙いとしているが、地銀再編を促す狙いもある。さらに菅政権は、再編時のシステム統合費用への補助制度も検討している。
 十一月末には、地銀の経営統合を独占禁止法の適用除外とする特例法を施行、同じ県内の地銀同士が合併して貸し出しのシェアが高くなっても、寡占状態を認めることとした。
 この特例法適用の第一号案件として注目されているのが、青森県を地盤とする青森銀行とみちのく銀行の統合案である。
 また金融庁は、合併・経営統合する地方銀行を対象に。最大三十億円程度の補助金を出す資金交付制度案を創設する方針である。制度開始は二一年夏を予定、申請期限を二六年三月とし、「エサ」をちらつかせて地銀を一気に再編に追い込む考えである。
 日銀も合併した地銀による当座預金の金利を年〇・一%上乗せすることで合併を促進させようとしている。事実上の、補助金政策である。
 自民党も、金融調査会に「地域金融に関する小委員会」(委員長=片山さつき参議院議員)を設置、日銀の当座預金金利上乗せ制度を系統金融機関などにも広げることなどを提言している。
 まさに、あの手この手による地銀再編政策である。

再編に群がる北尾ら
 わが国の銀行、信金・信組は合わせて五百程度だが、米国には約一万二千の銀行と信金・信組があり、人口八千万人強のドイツも約一千九百の銀行と信組がある。菅首相らが振りまく「地銀が多すぎる」、いわゆる「オーバーバンキング論」は、事実に反するデタラメなものである。
 コロナ禍を契機に、わが国財界はわが国企業の生産性向上をもくろみ、そのための改革政治を求めている。地銀再編はその一環であり、地方における産業再編、(アトキンソン小西美術工藝社社長らが唱える)中小企業の淘汰を進めるための手段なのである。
 もう一つ、地銀再編に群がる「政商」のごとき財界人の存在も、暴露しておきたい。
 地銀再編の動きのなか、活発に動いているのがSBIホールディングス(HD)である。
 同社はフィンテックを活用し、全国の地方銀行と提携する「地銀連合構想」を進めている。SBIは、証券商品の運用を委託させることなどによる利益をもくろんでいる。
 八月には新会社「地方創生パートナーズ」を設立、コンコルディアFGや新生銀行なども同社に出資している。政府も、日本政策投資銀行を通してこの会社に出資、支援している。政投銀の原資は、むろん血税である。
 SBIHDの北尾社長は、菅首相との深い関係が報道されている人物である。規制緩和政策で利益を得るパソナ=竹中会長などと同様、ここにも財界による露骨な「お手盛り」が存在しているのである。

地域経済・住民生活守れ
 企業のメインバンクのシェアで、地銀だけで七割以上になる都道府県は、東北、四国、九州を中心に二十県以上に達する。
 地銀再編は、こうした地方経済に大打撃を与えかねないものである。
 再編によってコスト削減のための支店統廃合などを伴うことが必至であり、地方の衰退と一般の利用者には利便性低下につながるものである。
 また再編は、地域の政治構造も激変させる可能性がある。地銀トップは、ほとんどの場合、県財界のトップでもあるからだ。
 一方的な再編に対しては、地銀経営層などにさえ不満がある。
 「(政府・日銀の再編支援)制度の経済的メリットは大きい」と語る大矢・全国地方銀行協会会長(横浜銀行頭取)でさえ、「再編や経営統合が体質を強化する唯一の解ではない」と、必ずしも「再編ありき」の立場ではない。
 今回のように、独占禁止法の適用を除外して再編を促すという産業政策は、「構造不況業種」とされた繊維や石炭などでも行われてきた手法である。
 だが、この政策によって、繊維や石炭に依存してきた地域経済が再生したわけではない。北海道夕張市が典型だが、国政の矛盾を押し付けられ、地域経済が極度に衰退した例には事欠かないのである。
 一方的な地銀再編による地域経済・住民生活の悪化を防ぎ、再生するために、知恵と力を寄せ合うべきときである。    (K)


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