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2020年11月25日号 2面・解説

コロナ「第3波」深刻化

医療・感染症政策転換せよ

 新型コロナウイルス感染症が再度の広がりを見せ、「第三波」といわれる勢いとなっている。医療・介護現場の負担は深刻さを増し、崩壊の瀬戸際である。だが政府の対策は、今春の感染拡大時と大きく変わっておらず、国民への支援策は大部分が途切れている。責任は歴代政権と安倍前政権、それを引き継ぐ菅政権にある。政権を倒し、医療衛生・感染症政策を、国民の命と健康を守る方向に転換させなければならない。
 わが国財界は、コロナ禍を通じて「日本のデジタル化の遅れ」が明らかになったなどと騒いでいる。その通りだが、何より、わが国歴代政府による医療衛生・感染症対策のデタラメさが鮮明になったのである。

「GoTo」が広げた感染
 「GoToキャンペーン」は、わが国の抱える医療衛生・感染症政策の課題を何一つ解決しないまま、安倍前政権によって七月末に強行された。東京都が十月から対象地域に加わったことで、コロナ感染は一気に広がることとなった。
 政府は約一・七兆円もの血税をつぎ込んだが、インバウンド需要の喪失で窮地にある大手旅行会社を救済するためのものである。旅行会社や大手サイトなどを経由しなければキャンペーンの「対象」にならず、割引の恩恵を受けられない。何より、多額の消費をする高額所得者ほど、キャンペーンの恩恵は大きい。
 個人経営の飲食店など、中小零細業者への恩恵はほとんどない。経営難の中小零細業者に対しては、別の、十分な支援策を行うべきなのである。
 キャンペーンの開始にあたって、国交相幹部は「多少の感染者が出ることは想定内」などと公言していた。結果は「多少」などではなく、まさに「第三波」を後押しすることになったのである。しかも政府は、対象年齢層などの基準を民間業者に「丸投げ」した。
 感染拡大を受けてのキャンペーンからの除外についても、「政府としての除外判断」を求めた全国知事会に対し、菅政権は「新規予約の一時停止」を知事に求めるという態度で、ここでも地方に責任を押し付けようとしている。
 国民の命と健康を顧みず、責任を果たそうとしない、安倍前政権、菅政権の本質が示されている。

貧困な日本の医療事情
 コロナ感染の拡大は、安倍・菅政権のみならず、それ以前の歴代保守政権による医療衛生・感染症政策の実態を暴露している。
 そもそもわが国は、先進国としては医師数が絶対的に不足している。
 日本の人口一千人あたりの医師数は二・四人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の三・五人より一人以上も少ない。
 この原因は、政府の医師数抑制政策である。一九七〇年代以降、政府は医学部の新設や定員増を認めず、地方の医師不足や勤務医の過重労働が深刻化したのである。二〇〇四年に導入された臨床研修制度も、地域医療を支えてきた大学病院からの派遣医師の減少に拍車をかけた。
 一九九〇年代末の橋本政権以降の財政再建策も、しばしば医療分野を標的にした。この結果、日本の十万人あたりの集中治療室(ICU)病床数はわずか五床で、ドイツの約三十床、イタリアの約十二床の半分以下しかない。
 コロナ以前から、わが国は「医療崩壊」状態だったのである。コロナ禍は、それを浮き彫りにしたにすぎない。

病院経営は危機的状態
 こんにちコロナ禍により、病院経営は厳しさを増し、「青息吐息」の状態である。感染症対策が危ぶまれる事態である。
 全国公私病院連盟の調査によると、今年五月の外来患者は、前年同月比で半減した。新規入院患者も二〜三割減少、手術件数も一〜四割減少した。病院内におけるコロナ感染を恐れる人びとが増え、病院の収益が大きく悪化したのである。
 五月の医業利益率は、コロナ患者を受け入れた病院では▲一三・六%となっている。一時的に病棟を閉鎖せざるを得なかった病院では▲一四・三%の赤字となり、受け入れていない病院でも▲八・三%の赤字に陥っている。
 外来患者の減少は、かぜなどの疾病はもちろん、がんなど本来、早期発見が必要な重大な疾病の発見と治療が遅れていることを意味してもいる。単に「病院経営の不振」というだけでなく、国民の命と健康が脅かされているのである。
 こうした経営難を理由として、医科大学は学生の授業料を大幅に引き上げている。
 東京女子医大は二〇二一年度の入学生から、六年間の学費を総額約千二百万円も値上げし、総額は四千六百万円を超える。川崎医大(岡山県倉敷市)にいたっては、学費総額は約四千七百万円に達する。
 この事態が広がれば、医師になれる人材はますます限られ、医療現場の量・質の低下が進むことになる。国民の命と健康は、この方面からも脅かされる。

世界に逆行する感染症対策
 日本の感染症対策も、先進国レベルではないことが明らかになっている。
 〇〇年代以降、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)など、新たな感染症が出現した。世界保健機関(WHO)は〇七年、「感染症は国境を越えて拡大する世界的問題」と警告していた。
 だが、歴代政府は世界の流れに逆行する政策をとってきた。
 国立感染症研究所(NIID)の予算は、十年間で約三割も減らされた。
 地域における感染症対策の最前線である保健所は、〇〇年代以降、政府と住民軽視の自治体によって大きく統廃合された。公務員削減と市町村合併(平成の大合併)、地方交付税の削減も、これを促進させた。
 全国の保健所の数は、一九九四年の八百四十七カ所から、二〇二〇年は四百六十九カ所と半分近くまでに減少した。複数の保健所を持つ政令市・特別区は、福岡市しかない。公衆衛生医師がいない保健所さえある。
 過去も現在も、感染症指定病院の約八割が公立病院である。その中心は自治体病院だが、これも小泉政権以降、とくに安倍前政権の下で削減され続けた。一五年に「地域医療構想策定ガイドライン」がまとめられ、公立病院の統廃合と病床削減が進められた。公立病院は〇四年には一千以上、病床数も約二十五万四千あった。だが一八年には約八百五十(約十九万病床)に減った。厚労省は一九年九月、全国四百二十四(公立病院の約三割)の病院名を名指しして「再編」を迫った。
 都道府県と政令市が設置する地方衛生研究所・養成所の職員数も、〇五年に全国で五千三百人以上いたが、一九年には四千百人程度まで削減された。平均予算額も、〇四年の約五億八千万円から、一三年には約四億円まで減っている。
 また、安倍前政権は「国家戦略特区」の一つとして、「人獣共通感染症対策」を名目に、加計学園(岡山理科大学獣医学部)に百八十六億円もの血税をつぎ込んだ。だが、このコロナ禍で大した成果を出していない。
 文科省の「感染症研究の推進の在り方に関する検討会」(主査=岩田・国立がん研究センター中央病院感染症部長)は二月、「感染症研究国際展開戦略プログラム事後評価報告書」を公表した。すでに日本でコロナ禍が発生する中であったにもかかわらず、その内容は、アジア・アフリカでの感染症に対する「支援」がほとんどで、日本国内で流行はほとんど前提になっていなかった。
 総じて、歴代政権は世界的な感染症のまん延を「対岸の火事」扱いし、まともな取り組みを行ってこなかったのである。

命と健康を守る政治を
 感染拡大がやまず、PCR検査数や感染症病床が諸外国に比して圧倒的に少ないのは、こうした医療衛生・感染症政策のツケにほかならない。
 安倍前首相は二月、PCR検査数を「一日二万件にする」と約束したが、その水準を超えたのは五カ月も経った七月末である。現在でも、検査数は三万件を超えた程度である。これは、世界最大の感染者・死者数を出した、米国の七分の一程度にすぎない。
 日本でコロナ感染が広がり始めたときから、「軽症者」は「自宅待機」を強いられている。家庭内感染と死者を拡大させた原因である。
 国も自治体も、国民・住民の命と健康を守る方向に転換させなければならない。
 依然として生活難にある勤労国民への直接給付を再度、継続的に行い、中小零細企業が経営を続けられるよう資金支援を行うことである。地方自治体への支援も求められる。
 国民の命と健康を守り、生活と営業を再生させるための政治を実現させなければならない。    (K)


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