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2020年11月15日号 2面・解説

米国/
バイデン政権成立へ

分断深刻、中国包囲も限界付き

 米大統領選挙で十一月七日、バイデン前副大統領(民主党)の当選が確実となった。バイデン氏は史上最高齢での就任、ハリス上院議員は女性初の副大統領となる。バイデン氏は演説で、「癒やしの時」「結束をめざす大統領」などと述べた。だが、トランプ政権を生み出した、リーマン・ショック以降の危機とそれを背景とした社会の分断は、コロナ禍でさらに深刻化している。分断の「修復」は不可能で、米国内の階級、人種、地域間の格差や矛盾はいちだんと険しくなろう。日米同盟に縛られたわが国にとって、国のかじ取りがますます問われる事態である。
危機深まる中の大統領選
 今大統領選挙は、世界資本主義が末期症状を呈するなかで行われた。
 リーマン・ショック後、大規模な金融緩和などでも経済は浮上せず、世界的に官民の債務が急拡大、新たな金融危機が切迫していた。
 世界の上位八人が保有する総資産が、下位三十五億人の総計と同じとされるほど、一握りの投資家・資本家と大多数の人民との格差が広がっている。労働者・人民はさらなる困窮にたたき込まれ、政治への不満を強めている。欧州などではいわゆる「ポピュリズム勢力」が台頭。先進国の一部や中南米諸国などでは、人民は議会政治さえ乗り越えて、直接行動への訴えを強めている。
 資本主義の「最良の政治的外皮」である「議会制民主主義」もまた、末期症状を示しているのである。
 コロナ禍は、こうした矛盾を浮き彫りにし、深刻化させた。経済は「急停車」し、日本とほぼ等しい国内総生産(GDP)が消失した。人民の反政府運動も高まっている。

米国で示された深刻な危機
 こうした危機は、米大統領選挙の過程に、典型的にあらわれた。
 リーマン・ショックを引き起こした米国では、製造業労働者など広範な人民の生活が急速に悪化、「ラストベルト地帯」といわれるほどに疲弊した。銃犯罪や麻薬などの社会問題も深刻化し、二〇一六年の大統領選挙は「内戦前夜」ともいうべき状況下で行われた。
 トランプ政権は「米国第一」を掲げ、これらの不満を打開するかのような欺まんを振りまいた。だが、実際に行ったのは金持ち減税などで、不満を解決できるはずもなかった。
 ここに、コロナ禍が襲った。米国では累積感染者数が一千五十万人を超え、死者も二十四万人を突破、ともに世界一という惨状である。
 失業者は一気に増大、失業保険受給者は最大時三百三十万人を超えた。四月に一四・七%に達した失業率は十月には六・九%まで下がったものの、半年以上職に就いていない人は三百六十万人もおり、前月から百二十万人も増加している。
 こうした生活苦と社会的矛盾を背景に、「黒人の命こそ大切」などの反政府デモが広がっている。

民主主義の劣化と分断示す
 大統領選挙の過程を通じて米国内の階級矛盾はますます激化した。
 テレビ討論会で、トランプ、バイデン両氏は泥仕合を演じた。郵便投票などをめぐる訴訟も、互いに二百件以上提起されている。選挙後も、トランプ大統領は敗北を認めず訴訟に訴える方針である。
 ろくな政策論争さえなされず、選挙の「信頼性」が問題となるほどのバカバカしさである。米国が声高に備え、世界に押し付けている「民主主義」の劣化、機能不全ぶりが、満天下に明らかになったのである。
 それだけではない。
 トランプ政権を支持する白人至上主義者は、一部が武装化し、選挙結果も認めていない。ミシガン州知事(民主党)に対する拉致と州議会襲撃計画も発覚した。極右集団「プラウド・ボーイズ」は、頻繁に「黒人の命こそ大切」デモを武装襲撃している。陰謀論を振りまくトランプ支持者「Qアノン」も影響力を広げている。
 深刻な社会の分断から自らを守るべく、自家用の銃購入者も増加している。
 米国民の約三分の一が、政治的目標を進めるために暴力を行使することを正当化すると答えているという。この割合は、わずか一年前の二倍に達する。
 今大統領選の投票率が百二十年ぶりに六六%という高さとなった(一般に、有権者の関心が高かった)とはいえ、議会制、投票による政治の変革の可能性に対する国民の信頼が崩れ始めていることを意味している。
 まだまだ発展途上で、はらまれる政治傾向はさまざまとはいえ、米国民は議会政治を乗り越え始めているのである。
 日本共産党のある候補者は「自由と民主主義、世界の進歩の先頭に立っていたアメリカをもう一度」などと述べたが、米国の実態と逆行し、幻想をあおる謬論(びゅうろん)である。

新政権でも打開は不可能
 バイデン次期大統領は、重点課題として、新型コロナウイルス対策、経済再生、人種問題、気候変動対応の四つを掲げた。
 今回、下院は民主党が制したものの、共和党が上院の優位を維持したことにより、議会は「ねじれ」が続くことになった。
 バイデン氏はコロナ対策やインフラ投資などのため、向う十年間で九・九兆ドル(約百四兆円)も歳出を拡大させることを公約している。歳出に関しては、環境対策などを除き、共和党も強く反対はしないと思われる。問題は、バイデン氏が四・三兆ドルもの増税を打ち出していることである。共和党の反発は必至である。
 こうした政策による財政赤字拡大分を国債増発によって賄うとなれば、連邦準備理事会(FRB)による国債買い入れが膨らむことは間違いない。名目金利の低下、ドル安傾向が強まり、米国はもちろん世界経済に巨大な影響を与えることになる。
 財政をめぐる議会の対立は、これまで何度も起きている。この事態が再現されれば、対立は議会内にとどまらないものとなる。
 今回のバイデン氏の勝利は、トランプ政権のコロナ対策の失敗と、「ラストベルト地帯」での支持を取り戻したことであるとされる。
 だが、「白人・非大卒有権者」におけるトランプ氏への支持率は、前回から四ポイント低下したとはいえ、バイデン氏を二〇ポイント以上も上回ったままである。白人以外でも、ヒスパニック系などの「合法」移民層におけるトランプ支持は、前回を一〇ポイント以上上回っている。
 トランプ政権を生み出した気運は、依然「健在」なのである。
 米国社会の分断は、新政権下でさらに進むことになろう。

対中政策は変わらず
 バイデン氏は「分断から融和へ」を打ち出し、国際機関や会議を「重視」するという。
 だがこれは、台頭する中国への対抗と包囲を強化するための、同盟国との「協調」であり「融和」である。対中強硬姿勢自身は、手法の違いはあるだろうが、トランプ政権と基本的に変わらない。対中強硬路線は、民主・共和の党派を超えた「共通認識」となっているからである。
 だが、米国による中国抑え込みは、中長期的に成功することはない。
 コロナ禍の現状だけを見ても、米国内での大流行と対照的に、中国は感染者が九万人強、死者も五千人弱にとどまっている。中国を「強権的」などと批判したとしても、米国がコロナ禍で「敗北」したことは疑いない。  また、米国が今年はマイナス成長が確実であるのに対して、中国は小幅ながらプラス成長となる。二〇一九年には米国の約三分の二であった中国の経済規模は、二〇年には四分の三、三〇年ごろには米国を追い越すとされている。購買力平価ベースでは、すでに追い抜いている。
 中国は、三五年に一人当たりGDPを中等先進国(イタリアなど)並みにするという目標を打ち出している。中国には高齢化などの問題があるとはいえ、この目標は年五%弱の成長を続けていれば達成可能なもので、ハードルはそう高くない。
 テスラのような米国企業、さらにトヨタでさえ、中国市場にひきつけられているのは、このためである。
 他のアジア諸国に生産拠点などをシフトする動きは続くだろうが、それでも「十三億人の巨大市場」を手放す選択は、グローバル企業には採用し難い。

問われる日本の進路
 こうした米国の混乱と衰退は、わが国支配層に深刻な選択を突きつけている。
 衰退し、「民主主義」を語る資格がないほどの米国の世界戦略を支え、中国に包囲、圧迫を加える道は、わが国財界にとってジレンマを深めることになる。
 労働者階級が指導権を握り、保守層内の亀裂を利用して、菅政権を孤立させる国民的戦線を構築して闘う好機である。    (O)


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