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2020年11月5日号 1面

米大統領選
階級・人種対立ますます激化
極右に支えられたトランプ
米国に「民主」語る資格なし

「民主主義」の劣化と限界露呈

 米大統領選挙が十一月三日、混乱の中で投票日を迎えた。トランプ大統領(共和党)、バイデン前副大統領(民主党)が争い、バイデン候補が優勢のようである(四日十二時現在)。
 二〇〇〇年の大統領選挙(ブッシュ対ゴア)では、選挙結果が確定したのは、連邦最高裁が再集計を停止させたからで、投票日から一カ月後であった。
 今回は、投票前からそれ以上の混乱が続いている。すでに、コロナ禍で期日前投票は過去最多となっている。郵便投票の集計には、数週間かかることが確実視されている。
 これらは、混乱のほんの一部にすぎない。
 今大統領選挙は、米国の危機がひときわ深まるなかで行われた。
 コロナ禍は、それ以前からの世界の抱える矛盾を浮き彫りにし、かつ深刻化させた。経済は「急停車」し、日本一国分の国内総生産(GDP)が消失した。大規模な金融緩和などでも経済は浮上せず、世界では官民の債務が急拡大、新たな金融危機が切迫している。
 全世界人民はさらなる困窮にたたき込まれ、政治への不満を強めている。既存の政治勢力の多くはこの不満の受け皿になれず、いわゆる「ポピュリズム勢力」など議会内で新しい勢力が台頭している。先進国の一部や中南米諸国などでは、労働者・人民は直接行動への訴えを強め、政府を揺さぶっている。
 資本主義が末期症状を呈しているだけではない。その「最良の政治的外皮」(レーニン)である「議会制民主主義」(ブルジョア民主主義)もまた、末期症状を示しているのである。
 この状況は、帝国主義国の頭目である米国において、きわめて典型的にあらわれている。
 リーマン・ショックを引き起こした米国では、製造業労働者など広範な人びとの生活が急速に悪化、ラストベルト地帯といわれるほどに疲弊が深刻化した。一六年の大統領選挙当時は、まさに「内戦前夜」ともいうべき状況であった。「米国第一」を掲げたトランプ政権は、この不満を打開するかの如き欺まんを振りまいて登場した。
 だが、金持ち優遇の減税など、トランプ政権に不満を解決できるはずもなかった。
 ここに、コロナ禍が襲った。
 失業率は一気に増大、失業保険受給者は最大時三百三十万人を超えた。九月下旬には二百万人を割ったが、これは別のパンデミック緊急失業補償(PEUC)に移行した人が多いためである。必ずしも、失業者が新たな職に就けたわけではない。
 「黒人の命こそ大切」を掲げたデモの広がりは、人種問題だけでなく、こうした生活苦の広がりを背景としている。「アンティファ」を代表格とする「左」派団体も伸長を見せた。
 こうしたなかで行われる大統領選挙によって、米国内の階級矛盾は、党派間闘争と結びついてますます深まった。
 そのありさまは、米国流「民主主義」の正体とその劣化をあらわにさせた。
 九月末に行われたテレビ討論会では、トランプ大統領がバイデン候補を「極左勢力の影響下にある」と決めつけた。バイデン候補も返す刀で「米国史上最悪の大統領」とやり返す、まさに泥仕合が演じられた。「ニューヨーク・タイムズ」が「現代の米国政治では前代未聞の侮蔑(ぶべつ)」と嘆いたほどである。
 トランプ大統領は、郵便投票を問題視し、選挙結果の受け入れを言明しなかった。従来、「敗者」が「勝者」をたたえることで決着をつけてきた大統領選挙の習慣が崩れようとしているのである。
 大統領選挙の規定によれば、どちらかの候補が過半数に達しなければ下院が投票を行って決する。それでも決まらなければ、上院が副大統領の選出を行い、それでも決まらなければ下院議長が大統領代行に就任する。この規定を待たず、トランプ大統領が現職の権限を使って非常事態宣言を行う可能性さえ指摘されている。
 また、すでに投票方法などをめぐる訴訟が二百件以上提起されている。トランプ大統領はこれらの混乱と法廷闘争を見越してか、最高裁判事に保守派を指名した。
 投票行動を「踏み越えた」行動も激しさを増している。
 トランプ政権を熱狂的に支持する白人至上主義者は、一部が武装化するなど活性化している。十月初旬には、白人至上主義者によるウィットマー・ミシガン州知事(民主党)に対する拉致と州議会襲撃計画が発覚した。トランプ大統領は、支持者との集会で、同知事を「収監せよ」というヤジに唱和した。
 また、極右集団「プラウド・ボーイズ」は、頻繁に「黒人の命こそ大切」デモを武装襲撃している。トランプ大統領は、「プラウド・ボーイズ」に「下がって待機」するよう語り、むしろ「アンティファ」への対抗をそそのかした。
 陰謀論を振りまくトランプ支持者「Qアノン」も影響力を広げている。ジョージア州やコロラド州の一部下院議員選挙区では、「Qアノン」信奉者が与党候補として当選する勢いである。そのトランプ大統領は「Qアノン」を「愛国者」と呼び、この候補者を全国大会に招いて演説させた。
 米国の銃火器販売は六月に三百九十万件に達し、月間では過去最多になった。武装集団だけでなく、大統領選挙後の暴力的事態に備えて、自家用の銃購入者も増加しているのである。銃乱射事件も全国で頻発している。
 ボストンでは、投票箱が放火される事件が発生した。
 あるシンクタンクの調査によると、米国民の約三分の一が、政治的目標を進めるために暴力を行使することを正当化すると答えているという。この割合は、わずか一年前の二倍に達する。
 危機のいちだんの深まり、国内の分断をあおり立てるトランプ政権下、「議会制民主主義」とそれを支える有権者意識が崩壊しつつあることが垣間見える。
 もはや、米国に「民主主義」を語る資格はない。議会制民主主義国としてさえ、二琉、三流の国に転落しているのである。その米国が、「民主」を掲げて中国やロシア、ベラルーシなどを非難し、圧迫・制裁を加えることは、まさに噴飯ものである。
 全世界の労働者階級は、米国流「民主主義」への幻想を捨て、自らの力に頼って政治変革の道を進まなければならないのである。
 米大統領選挙でどちらの候補が勝利したとしても、この歴史的課題はますます切迫している。  (K)


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