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2020年10月25日号 2面・解説

深刻化する新興諸国の債務問題

返済猶予では解決できぬ

 二十カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が十月十四日に行われ、新興諸国の債務について、返済猶予の期限を二〇二〇年末から半年延長することで合意した。すでに、世界全体の国家債務は国内総生産(GDP)に匹敵するほどに拡大している。経済規模の小さい新興諸国にとっては、デフォルト(債務不履行)連鎖の危機に直面する事態である。世界資本主義の「破局の芽」の一つとなっている。
 G20の共同声明は「完全に、透明性高く返済猶予を実施すべき」と、債務返済期限を半年延長し二一年六月とすることを明記した。また、猶予措置をさらに六カ月間延長するかどうか、二一年春までに検討することとした。
 ただ、今回の合意は政府間の「公的債権者」に関するもののみである。「民間債権者の支払い猶予措置への参加が進まないことに失望しており、要請があった際には参加を強く奨励する」との文言が盛り込まれたものの、民間債権者からの債務は対象となっていない。
 昨今の世界的民間債権者は、多くの場合、約八兆ドルもの資金を運用する米ブラックロックや、八百億ドルの資産が持つアッシュモアなどである。巨大金融機関も独占化が進行し、協議相手も限られてきている。
 米国の世界支配の手段の一つである国際通貨基金(IMF)は、従来以上に、巨大金融機関への「配慮」を強めることになる。IMFは最近、「民間債権者がかかわるソブリン債務問題解決のための国際的な枠組み」を発表、債務再編方法の見直しを示唆(しさ)している。
 債務をめぐる協議は、今後、ますますし烈さを増し、国際政治の焦点化することになろう。

債務問題の経過
 現在の債務問題の経過を押さえておこう。
 リーマン・ショック後、各国は大規模な金融緩和と併せ、「国際協調」による財政出動を行い、破局に陥ることを辛うじて押しとどめた。だが、これは南欧諸国を中心にソブリン(国家債務)危機を引き起こした。ギリシャなどで緊縮財政政策が強行され、人民生活は極度に悪化した。
 その後も、世界経済の成長鈍化、資源価格の低迷なども相まって、アルゼンチンやエクアドルなど中南米諸国で債務危機が続いた。
 ここに、新型コロナウイルスの感染拡大が襲いかかった。諸国は、またも膨大な財政出動を余儀なくされた。主要諸国による財政出動は、合計で十二兆ドル(約千二百六十兆円)の財政出動を行った。
 先進諸国の財政は、米連邦準備理事会(FRB)などの中央銀行が金融緩和で国債を大量購入することで長期金利の上昇を辛うじて抑え込み、国家破綻を先延ばししている状況である。これが「いつまで続くか」という問題はあるが、新興諸国はその政策に翻弄される。新興諸国は、独自に金融緩和や財政上の余裕はきわめて乏しい。
 財政悪化は通貨安となり、輸入インフレを引き起こす。金利引き下げの余地はますますなくなり、債務負担が増大する。かといって、医療インフラなども課題があるため、コロナ対策を怠るわけにもいかず、財政負担は減らない。
 これは一般的傾向で、資源産出国かどうか、経常収支が赤字傾向かどうかなど、国によって事情は異なる。資源輸入国で経常収支赤字国ほど、状況は厳しい。
 たとえば、トルコは九月下旬、コロナ禍にもかかわらず、約二年ぶりに利上げを行った。ブラジルも一年以上続いた利下げを停止した。これは通貨急落(通貨危機)を遅れたためだが、政府債務の軽減には逆行する。
 新興諸国は大国の金融政策に揺さぶられて政策の幅が狭まり、思うにまかせない。

新興国で悪化する債務問題
 IMFは十四日、報告「未曽有の危機に立ち向かう財政政策」を公表した。
 IMFによると、これにより世界の公的債務は二〇年に約九十兆ドル(約九千五百兆円)、対GDP比で九八・七%と、ほぼ匹敵するほどに拡大する。二一年単年の財政赤字は、対GDP比一二・七%と、二〇年から約九ポイントも拡大する。先進諸国は一一%だが、新興諸国も同様に約一一%で対前年比でほぼ倍増する。
 結果、二一年の公的累積債務は対GDP比一二五%にまで拡大、リーマン・ショック直後の〇九年(約八九%)はもちろん、空前の戦費を支出した第二次世界大戦直後の一九四六年(一二四%)を超えて過去最大となる。
 なかでも、新興諸国の政府累積債務は二一年に対GDP比五〇%と、一二年から二一ポイントも上昇する見通しである。インドは政府累積債務が対GDP比八九%と、前年比一七ポイントも急増した。南アフリカも七九%と、これも一七ポイント増である。
 しかも、コロナ禍が長期化するなか、財政出動が「打ち止め」になる展望さえ見えない状況である。
 危機が進行するなか、現在までに債務繰延申請を行った国は四十四カ国に達するが、G20が猶予を延長した国はさらに多く、計七十三カ国にもなる。世界銀行は、うち三十三カ国を「対外債務危機か、そのリスクが高い」としている。新興諸国の政府債務が、危機的状況に立っていることを示すものである。

中国包囲の口実に
 この七十三カ国の対外債務は七千四百四十億ドル(約七十八兆円)で、うち二国間の公的融資は千七百八十億ドル(約十九兆円)に達する。二国間融資の約六割を中国が占めており、それだけ、新興諸国には対中債務残高が多いということになる。
 中国は「一帯一路」を掲げ、中央アジア、アフリカを中心に、新興諸国のインフラ整備などに多額の貸付を行なってきたからである。
 米国は中国を敵視し、国際的包囲網の形成に血道をあげている。この角度から「一帯一路」に対しても、さまざまな妨害を行なっている。
 米国を筆頭とする帝国主義は、返済猶予で浮いた資金を、途上国が中国への融資返済に充てることを警戒したのである。ここから、「中国の情報開示が不十分」などと問題をすり替え、債務問題を悪用して中国を揺さぶってきた。
 それでも、デフォルトが相次ぐ事態は避けたかった。今回のG20での合意は、この時点では「危機対応」を優先させざるを得なかったといえるが、猶予期間は一年間の当初案から半分に縮小された。
 ただ、中国の態度も複雑である。中国は、国有企業・中国国家開発銀行が保有する債権の猶予に応じない構えを見せている。中国が債務減免などに応じたくない心理は理解できないわけではない。国内でも不動産バブルの処理などで金融問題を抱えており、対外債権の放棄に動きづらいのであろう。
 だが、仮に中国が国際的地位の向上をめざすなら、長期的視野に立った姿勢が求められることになろう。

世界人民に犠牲押し付け
 経済協力開発機構(OECD)は九月に発表した報告書で、給付金などの支援策を見直す必要性を指摘ししている。OECDは、企業の業態転換や労働者の「転職支援」を拡充すべきとしている。IMFも、同様の報告を行っており、これは世界の支配層の「共通見解」といえる。
 生活再建さえままならぬ勤労者への支援を打ち切り、コロナ禍を口実とした中小企業の淘汰、労働者の待遇悪化による生産性向上を実現しようとしているのである。二一年には一億五千万人が新たに絶対的貧困に陥り、世界の絶対的貧困層の合計が約七億三千万人にのぼると予想される(世界銀行)なか、これは無慈悲で冷酷きわまりない政策である。
 菅政権が掲げるデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、その一環である。
 これは、各国における階級矛盾を激化させずにはおかない。
 コロナ禍以前の昨秋、中南米諸国では、債務危機と財政緊縮策に対する勤労人民の闘いが大きく前進した。チリでは、昨秋以降一年近くに渡り、ピニェラ政権による交通機関の運賃引き上げに対する抗議デモが続いている。エクアドル、アルゼンチンも同様である。
 コロナ禍は、この危機をさらに深刻化させている。小手先の返済猶予措置では、危機を回避することはできない。
 債務危機は金融面から、さらに各国内における階級闘争という政治面という両面から、新興諸国のみならず、世界を揺さぶることになろう。それは、世界資本主義を破局に導く「芽」の一つにほかならない。(O)


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