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2020年10月15日号 1面

国際競争激化に焦り深める財界
勤労者・中小業者に苦難押しつけ

大企業のための改革打ち破れ

 菅新政権が九月十六日、発足した。
 世界資本主義が末期症状を呈し、企業・国家間の市場と資源、技術をめぐる争奪が著しく激化し、生き残りをかけた闘争がし烈さを増すなかでの「船出」である。
 帝国主義の世界支配は弱まり、新興諸国が台頭、諸国間の力関係も激変しつつある。
 コロナ禍は、こうした危機、歴史的激動期のありさまをあらわにさせ、加速している。経済は「急停止」し、回復は容易ではない。
 各国で階級矛盾が深まり、米国の「人種差別反対」デモ、中南米諸国の争乱など、闘いは激烈化している。一部の国では内戦、暴動が頻発、無政府状態に陥っている。
 わが国財界はこのような国際環境に焦りを深め、政治に国内経済・社会の改革と、多国籍大企業の海外権益をまもるための「新国際秩序の形成へのリーダーシップ」(経済同友会)を求めている。財界の利益を守るため、効率的で強靭(きょうじん)な国家機構を実現しようとしているのである。

改革を焦る財界
 財界はこの角度から、菅新政権への要求を強めている。
 経団連は九月七日、「当面の課題に関する考え方」を発表した。
 日本経済の現状を「非常に厳しい状況にある」と認識し、(1)新型コロナウイルス対策、(2)デジタル革新の加速、(3)エネルギー・環境問題、(4)働き方改革、(5)主要国との経済関係、(6)国際経済秩序の維持・強化、(7)国家的イベントの成功、(8)防災・減災、国土強靭化を掲げている。
 経済同友会も二十九日、「新内閣に望む」を発表した。
 大きくは(一)コロナ対策、(二)新たな成長戦略と経済構造改革、(三)新国際秩序の形成の三つである。  (二)で具体的には、(1)デジタル庁設置による行政デジタル化、(2)DXによる徹底的変革、規制・制度改革、(3)脱炭素社会、(4)働き方改革、女性活躍、(5)一極集中是正と地域経済活性化、(6)全世代型社会保障改革、(7)財政の持続可能性の確保、(8)震災復興の着実な推進、減災・国土強靭化である。(三)は、(1)自由で開かれた国際経済秩序の再構築、(2)経済安全保障の確保である。
 改革政治は、二〇〇〇年代初頭に財界の主導権を握った多国籍大企業が、小泉政権に「聖域なき構造改革」として進めさせた路線の継続・深化である。旧民主党政権もこの課題を引き継いだが、応え切れなかった。「一強」と言われた安倍前政権も「日銀頼み」で、それどころではなかった。
 財界は、菅政権に捲土重来(けんどちょうらい)を期しているのである。

要求に応える菅政権
 菅政権は、これらに忠実に応えようとしている。
 菅首相は自民党総裁選の最中から、デジタル庁創設などでの「縦割り体質打破」や規制改革を掲げた。政権発足直後には世界的に高額な携帯電話料金を槍玉に挙げ、デジタル化の側面支援と、若年層の支持取り込みを狙っている。「電波利用料の引き上げ」をチラつかせ、マスコミ統制を強化しようともしている。
 新内閣は「働く内閣」を掲げ、平井デジタル改革相、河野行政改革・規制改革相、岸防衛相らが起用された。河野大臣はすぐさま「縦割り一一〇番」を開設するなどパフォーマンスを開始、世論の関心を買おうとしている。
 菅首相が日本学術会議の会員候補六人を任命しなかった問題でも、世論の批判を前に議論をすり替え、学術会議の組織見直しを打ち出そうとしている。学術会議の改革を行財政改革の突破とするだけでなく、世論・言論の統制を狙い、学術会議が批判している軍事目的の研究をさらに推進する目的もある。軍事研究の推進は、財界の要求でもある。
 菅首相の「ブレーン」とされるのは、竹中元総務相(パソナグループ会長)、アトキンソン・小西美術工藝社社長、新浪・サントリーホールディングス社長らである。かれらは、「最低賃金引き上げによる中小企業の淘汰」「七万円のベーシックインカム導入と引き換えの生活保護や年金制度の廃止」「従業員シェアリングの解禁」などの、急進的な改革案を公然と宣伝している。

国民生活はさらに悪化
 DXと結びついた規制改革は、一部の大企業を「一人勝ち」させ、大多数の勤労国民の生活はさらに破壊される。
 規制改革は、大企業が経済の隅々に進出することを許し、中小零細企業の経営は立ち行かず、倒産と廃業に追い込まれることになる。ライドシェアはタクシーやバスなどの公共交通機関を、「押印撤廃」は全国の印章店を、テレワークの拡大・オフィス縮小は中小不動産業者を存続の危機に追い込むことになる。
 行政手続きの「簡素化」は、公務員の首切りと待遇悪化、非正規化と「背中合わせ」である。
 地銀再編は、住民に身近な地方銀行をつぶし、メガバンクや大手証券会社による地方の搾取を許すものである。
 さらなる農協改革も、水面下で準備されている。
 ホワイトカラーエグゼンプションなどを含む労働法制改革は、大多数の労働者のさらなる低賃金化、非正規化、労働条件悪化を招く。社員のフリーランス化で、労働者は労働基準法の適用外とされてしまう。
 他方、スマートフォン(スマホ)アプリなどを握るIT(情報技術)や通信大手企業はボロ儲(もう)けできる。
 安倍政権下で進んだ「全世代型社会保障改革」も、いっそう強められよう。すでに、年収二百四十万円以上の七十五歳以上の医療費窓口負担を、一割から二割に引き上げる案が検討されている(年収三百八十三万円以上は現行三割負担のまま)。これにより、二百万人近い高齢者の医療費負担が増加、「病気になっても医者に行けない」状況がますます進む。
 一握りの大企業・投資家と大多数の勤労者との間の「格差」は拡大し、国民経済の長期停滞は解決されない。
 改革政治の実行は、菅政権、自民党に対する、労働者をはじめとする勤労国民の抵抗が必至であるというだけではない。改革は、自民党の支持基盤である農民や中小商工業者、医師会などの保守基盤をますます掘り崩すことになる。自公与党は、深刻なジレンマに直面せざるを得ないのである。
 犠牲にされる国民諸階層が広範に連合し、闘い、政権を追い詰める条件は、客観的に存在する。先進的労働者・労働組合の戦略的闘いが求められている。(O)


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