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2020年9月5日号 1面〜2面・社説

安倍首相、内外の危機に
追い込まれ退陣

国民的戦線を整え追撃を

 安倍首相は八月二十八日、辞任を表明、七年八カ月に及ぶ政権はついに崩壊した。
 二〇一二年、安倍政権は「強い日本を取り戻す」として登場した。
 アベノミクスは、ごく一握りの大企業・投資家を潤わせた。他方、労働者をはじめ国民大多数の生活を著しく困窮させ、「格差」は著しく開いた。地方の疲弊は限界を超えている。
 これらの矛盾を、コロナ禍が著しく加速している。国民の命と暮らしは厳しさを増しているが、大企業、財界はデジタル化などわが国の技術革新での立ち遅れに危機感をあらわにさせている。
 外交では、対中国関係の矛盾は深まり、日韓関係悪化など、わが国はアジアで孤立を深めた。
 イージスアショア(地上発射型弾道ミサイル)は配備中止に追い込まれたが、沖縄では県民の反対を押し切って名護市辺野古への新基地建設を強引に進め、自衛隊ミサイル基地建設も強行されている。
 国内での政治司法の反動化も進んだ。政権の腐敗もますます極まった。
 「自国第一」のトランプ政権、とりわけコロナ感染爆発の中で大統領選を控えたトランプ大統領の中国敵視策動は強まった。中国と深い経済関係にあるわが国は、容易ならざるところに追い込まれている。
 安倍政権がコロナ禍への対応で失政を重ねたことは、こうした内外政治の行き詰まりに「ダメ押し」となった。
 国民の怒りと不満が高まり、政権支持率も急落した。
 首相辞任の口実は健康問題だが、その内外政治は完全に行き詰まり、辞任に追い込まれたのである。対米従属の下での「わが国国家金融独占体の覇権的利益追求のため政治」の限界があらわとなった。
 政局は「後継選び」に移り、野党も解散・総選挙を見据えて流動化している。総裁選には三人が立候補しているが、安倍首相が辞めても、辞任に追い込んだ内外の客観的環境は何一つ変わらない。野党も数合わせだけではなく、しっかりとした打開の方向性、対抗軸がなければ、どうにもならない。
 日米同盟に縛られ、大企業のための政治を続ける安倍政権、歴代保守政権の延長上に待つのは、アジアでの戦争と国民の窮乏化、国民経済の破綻である。
 労働者階級は、壮大な統一戦線を形成し政権を奪取するという戦略的観点に立ち、本格的な闘いを準備しなければならない。

安倍政権を導いた内外環境
 第二次安倍政権は、一二年十二月の第四十六回衆議院議員総選挙で自民党が勝利したことで発足した。
 世界資本主義経済はバブルを繰り返して需要の先食いで時間稼ぎしてきたが、〇七年のサブプライムローン問題に始まる世界金融危機、リーマン・ショックでついに限界を迎えた。それでも世界は、同じ手法で息つぎしている。
 輸出依存のわが国経済への打撃はとりわけ大きかった。国民生活は急速に悪化した。需要不足はいちだんと進んだ。
 すでに財界は、多国籍化した大企業が握り、日本経団連として統合を果たし再編・強化されていた。国内での徹底した改革政治と国際社会での発言権、覇権的利益追求の内外政治を求めていた。
 だが、平和とアジアの共生を求める国民も、小泉政権に代表される改革政治で犠牲となる農家や中小零細の商工業など、自民党支持層の多くも、危機感と不満を強めていた。自民党では、財界の求める改革政治遂行には限界があった。
 長く続く自民党政治への不満を背景に、〇九年、自民党は下野し、旧民主党政権が成立した。
 旧民主党政権は「国民の生活が第一」を掲げ、農家への個別所得補償や子ども手当などの政策を進めた。しかし、「財政危機」キャンペーンに屈して需要拡大の積極的打開策も見い出せず、国民生活はむしろ悪化した。環太平洋経済連携協定(TPP)推進には農家をはじめめ不満が爆発した。東日本大震災、福島第一原子力発電所事故による被災者への対策は遅々とし、むしろ大企業支援は膨大であった。あげく、野田政権は消費税増税で「三党合意」を行い、完全に国民に見放された。
 外交政策では「対等な日米関係」「アジア重視」を掲げたものの、辺野古基地問題を解決できなかった。鳩山、菅、野田と代を重ねるごとに、むしろ日米同盟「深化」に踏み込み、尖閣諸島問題を処理できず、石原都知事(当時)が企んだ「国有化」の挑発に正しく対処できず中国との対立を激化させた。「自民党以上に自民党的政治」と揶揄(やゆ)されるほどであった。
 早晩の矛盾露呈、政権の行き詰まり、再度の政権交代は不可避だった。

「デフレ脱却」「強い日本」を掲げて登場した安倍政権
 安倍政権は、こうした民主党政権の弱点を反動的に突いた。安倍政権誕生は、単なる旧民主党への反発による「揺れ戻し」だけではない。
 安倍・自民党は、「デフレ脱却」と尖閣諸島問題での「強い日本」の旗を振って選挙戦を征した。
 旧民主党は分裂し、共産党や社民党も、自民党の政策に対する態度を鮮明にできなかった。安倍・自民党の主張は、少なからぬ有権者に、政治の「閉塞感」を打破するかのような幻想を与えたのである。
 誕生後の安倍政権は「経済優先」を掲げ、「三本の矢」によるアベノミクスを実行に移した。
 中心は、日銀の、特に黒田氏を総裁に押し込んで以後の史上空前の金融緩和である。要するに、日銀に紙幣をどんどん刷らせて円の価値を押し下げた。
 円安は輸出企業の競争力を高め、多国籍大企業の海外収益を押し上げた。銀行を通じて大企業に資金を流し込み、日銀自身も株を買うなどのインフレ政策であった。
 日銀が最大の機関投資家となり、また年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に株式投資の割合を増やさせたことで株価は上昇。金融資産を有する、ごく一握りの大企業・投資家は大儲(もう)けした。
 アベノミクスのもう一つの軸は、膨大な財政出動である。日銀による際限のない国債購入で財源は確保され、民主党政権の直面した壁は突破された。安倍政権は本予算に加え、直近までの補正予算に総額九十兆円以上をつぎ込んだ。
 これらで大企業は潤った。だが、国民大多数には恩恵はなく、むしろ搾り取られた。円安で輸入物価は上昇、国民には「増税」に等しい。生活保護制度の改悪、医療・介護制度の改悪、年金受給額における「マクロ経済スライド」の導入など、社会保障制度は次々と改悪された。消費税率も二度、一〇%まで引き上げられた。わずかな賃上げも実質は帳消しだった。
 内需はますます停滞し、アベノミクスのわずかな「経済成長」も外需頼みだった。
 だが、世界経済は後退局面に移り、輸出環境は激変した。米国の対中経済制裁とコロナ禍が拍車をかけている。わが国経済は抜き差しならぬところとなっている。
 日銀が発行済み国債の半分近くを保有し、多くの上場企業の「隠れ筆頭株主」となるなど、緩和政策はすでに限界である。コロナ禍により、わが国の政府債務はますます増大した。累積債務は先進国中最悪である。この「国債バブル」は、いつ破裂してもおかしくない。
 アベノミクスは金融緩和と財政出動、輸出依存だったが、コロナ禍以前に限界に達していた。コロナ禍は、それを浮き彫りにしたにすぎない。
 それでも、安倍政権には需要を生み出すことができなかった。名目国内総生産(GDP)は六年前の水準に逆戻りし、アベノミクスは完全に破綻したのである。
 安倍政権は「成長戦略」で財界の要求に応え、法人実効税率の引き下げ、研究開発減税、インバウンド(訪日外国人)増加などを進めた。労働法制改悪によって、大企業のコストダウンにも貢献した。
 だが、コロナ禍はわが国の立ち遅れを徹底的に暴き出した。わが国は、デジタル化など技術革新で先進国の何周も遅れていることが明らかとなった。安倍政権が「二〇年には世界のトップに立つ」としていた「電子政府」でも立ち遅れ、ぶざまな実態が暴露されている。財界は「零細な企業が多すぎる」「労働生産性が低い」などと金切り声を上げている。このままでは、激化する国際競争に勝ち残れないからである。
 成長戦略の破綻は、すなわち改革の遅れである。だが、それを政権が実行しようとすれば、中小零細企業など、自民党の支持基盤を直撃する。歴代自民党政権が立ち往生してきたゆえんである。
 安倍政権も、未曽有(みぞう)の危機の中で立ち往生した。次が誰になっても同じ運命が待ち受けている。

国民生活は極度に悪化
 アベノミクスで、勤労国民のなけなしの富は大企業・投資家に収奪され、勤労国民の生活はますます苦しくなった。
 とりわけ労働者の生活は厳しさを増し、貧困化が進んだ。安倍首相は「名目賃金の増加」を誇るが、物価を勘案した実質賃金はむしろ低下している。就業者も、増加分の約三分の二が非正規労働者である。
 コロナ禍のなか、大企業は国際競争に打ち勝とうとリストラ攻撃に乗り出しているが、これからが「本番」である。国際労働機関(ILO)が、世界で半数の労働者が不要になると予測するほどのリストラとなる。
 中小商工業者の経営も、消費低迷、大型店やナショナルチェーンの進出、高齢化などで展望を持てない。コロナ関連倒産、休廃業はすでに膨大な数にのぼる。財界は廃業を迫っている。菅官房長官は、中小企業の命綱である地方銀行の「再編」を打ち出している。自分で石を持ちあげて、中小企業という自民党の最大の選挙基盤を打ち壊そうという。安倍もやり切れなかったが、菅官房長官にはできるのか。
 農民の経営も、ますます厳しい。農家は激減し、休耕地は広がり荒れ放題である。食料自給率は低迷し、法人の農業参入に零細な農家が圧迫され、一連の経済連携協定などによる農畜産物輸入増加が、経営難に拍車をかけている。
 農山漁村の疲弊で国土は崩壊寸前である。増加する風水害も、地方に甚大な打撃を与えている。政府の支援策は遅く、少ない。こうして地方、農山漁村での自民党の基盤も崩壊寸前である。
 原子力発電所の再稼働も進め、エネルギーは他国依存で安全と自主からはほど遠い。
 地方の疲弊はいちだんと進み、都市部と地方の「格差」はますます広がった。コロナ禍が大都市集中を直撃している。多国籍大企業のための国際金融都市をつくる、大都市集中政策も限界を告げられている。

中国敵視の軍事大国化
 安倍政権は、米国の世界戦略と結び付いて中国を敵視する、政治軍事大国化を急速に進め、内外の矛盾を激化、露呈させた。「政府内で外交・安保重視の『対中牽制派』と、経済重視の『経済連携派』が路線対立が激化し、調整が容易でない」ところまで追い込まれていたという。経済重視の背後には、対中国関係に浮沈をかける大企業財界がいる。
 安倍政権は、「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げ、中国への対抗を著しく強化した。
 国家安全保障会議(NSC)設置、武器輸出三原則の廃止、特定秘密保護法や共謀罪、集団的自衛権のための安全保障法制、南西諸島への自衛隊配備などである。防衛予算は六年連続で最高額を更新するなど、戦後最大規模の大軍拡に突き進んでいる。
 さらに「専守防衛」の建前さえかなぐり捨て、「敵基地攻撃能力」に踏み込んでいる。
 憲法九条改悪の策動も、続けられている。コロナ禍を悪用した「非常事態」制定も策動されている。
 こうした外交・安全保障政策によって、わが国は米国の「唯一の友」として、アジアをはじめとする世界で孤立している。
 安倍首相は、トランプ大統領に抱き着いて政権を延命させ、日米間の矛盾激化をしのいだ。だが、わが国が抱えた諸問題はそのままだった。
 対中国関係は、岐路にある。
 安倍政権は「戦後外交の総決算」を掲げたが、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)とは国交正常化どころでなく政権の最大の課題と掲げた拉致問題は一ミリも動かなかった。
 ロシアとの北方領土問題も、膨大な支援策を行い、事実上の「二島返還論」に後退したあげく、解決の道は開けていない。
 日韓関係は、国交回復以降、最悪である。責任は、すべて安倍政権にある。
 コロナ対策での失政は、限界をさらしていた安倍政治に「トドメ」を刺したのである。

激変する世界、後継政権に難題
 コロナ禍は、世界資本主義の末期症状を浮き彫りにし、加速させている。GAFAなど一部多国籍大企業は際限のない利益を上げているが、全世界の大多数の人びとの著しい貧困化が進んでいる。金融経済では需要は喚起できず、通貨安での犠牲の押し付け合いの世界となっている。
 世界では、帝国主義と中小諸国・民族との矛盾、多国籍大企業・国家間の市場や資源をめぐる争奪、諸国の階級闘争がいずれも激化している。大国間の対立は激化し、「戦争を含む乱世」の様相はいちだんと濃い。急速に進む技術革新も、資本主義の危機を加速させている。
 衰退を早める米帝国主義は、「米国第一」を掲げ、中国を抑え込んで、世界支配を立て直そうとしている。  通商・投資・ハイテクなどをめぐる制裁に始まり、新疆ウイグル自治区・香港など「人権」を掲げた制裁、米国の対中攻勢は全面的なものとなった。内部対立を激化させ、共産党政権を瓦解(がかい)させようとしている。南シナ海問題では、米中双方が、軍事的デモンストレーションを行う事態になっている。
 アジアの軍事的緊張が高まっている。
 安倍後継政権は、安倍首相を退陣に追い込むに至った困難で複雑な内外環境をそのまま引き継がなければならない。  安倍政権、歴代保守政権による、多国籍大企業の覇権的利益追求のための政治では、この歴史的激動期で、わが国は生きていくことはできない。

国民大多数のための政権を
 自民党内では、後継総裁をめぐる政治闘争が激化している。
 次期政権を見据え、財界は単純な「アベノミクスの継続」に不満を示し、財政再建やデジタルトランスフォーメーション(DX)などで政治の尻をたたいている。
 一方で財界、支配層は、中国市場なしに生きていけない現実と、中国敵視の日米同盟という深刻な矛盾のなかであがいている。
 中国を敵視した安倍政権でさえ「日中新時代」を掲げざるを得なかった。それが経済の、財界の要求だからである。
 国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は八月十四日の意見広告で、「日本の政財界指導者たちへ」と大上段に振りかざして、「『安全保障は米国、経済は中国』という便法はもはや通用しません」とどう喝した。「米国といっしょに進む以外に道はない」というのである。櫻井らの道は、危険きわまりないアジアでの戦争の道である。
 だが、事物の論理はあらゆる論理に打ち勝つ。何であれ、わが国経済を牛耳る財界の要求をまったく無視することはできない。櫻井氏と対米従属派の焦り、安倍首相を辞任に追い込んだ矛盾にほかならない。
 米中両国の狭間で、わが国の進路は重大な局面に入っている。平和・自主、アジアの共生こそ、わが国の活路である。
 立憲民主党と国民民主党は合流し新党という。だが、安倍政権、後継政権に対する政治的対抗軸を打ち立てることこそ、肝心なことである。
 連合中央幹部は、安倍政権と闘わず、客観的にはこれを支える社会的支柱となってきた。闘いを望む声は連合内外に満ちており、連合中央幹部はこれに耳を傾けなければならない。後継政権に対する態度が鋭く問われている。
 先進的労働者、労働組合は、国民大多数のための政権をめざし、支配層内の矛盾も利用して幅広い戦線をつくり、国民運動の先頭で闘わなければならない。つぶされようとしている零細な事業者、中小企業、農家などの自民党基盤であった人びと共に、財界、大企業の中にも「中国敵視の日米同盟」路線への動揺が広がっているこのチャンスを生かし、自主・平和の最も広範な統一戦線で政権をめざす時である。
 わが党は、戦略的にその道をめざし、奮闘する決意である。


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