ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2020年8月25日号 1面

ポンペオ演説に呼応する
櫻井らの政治軍事大国化
宣伝を打ち破ろう


アジアの共生こそ日本の活路

 「コロナ禍」は、世界資本主義の末期症状を浮き彫りにし、加速させている。
 帝国主義と中小諸国・民族との矛盾、多国籍大企業・国家間の市場や資源をめぐる争奪、諸国の階級闘争はいずれも激化し、「戦争を含む乱世」の様相はいちだんと濃い。急速に進む技術革新も、資本主義の危機を加速化させている。
 米帝国主義は衰退を早め、第二次世界大戦後の「秩序」は崩れつつある。中国、ロシア、インドなどが台頭し、諸国間の力関係は大きく変化している。
 米国は中国を抑え込んで世界支配を維持しようと、「米国第一」を掲げた強引な巻き返しを始めた。
 通商・投資・ハイテクなどをめぐる制裁措置始まり、新疆ウイグル自治区・香港など「人権」を掲げた制裁と諸法制、南シナ海問題での軍事的政治的対抗など、米国の対中攻勢は全面的なものとなった。ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を要求することまで行った。
 米中両国はすでに、広義の戦争状態に入っている。
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、これを加速・深化させている。

ポンペオ、敵視を強化
 こうしたなか、ポンペオ米国務長官は七月二十三日、「共産主義の中国と自由世界の未来」と題する演説を行った。
 ポンペオ演説は、演説で二十七回も中国を非難、中国に断固たる態度を取ることが「われわれの時代の使命」とまで言い切り、「自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう」などと、中国への敵視とその打倒の意思をあらわにさせた。
 またポンペオ氏は、「香港問題で立ち上がっていない」などと、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をけん制した。名指しはしていないがドイツを念頭に置いたものであることは明らかだ。自国産業界に対しても、中国への投資は「人権侵害を支援することになる」と警告した。
 最後に、中国を認めることが「歴史的な過ちにつながる」と決めつけ、「中国の姿勢を変える」ため、日本やオーストラリア、インドなどの諸国と「新たな同盟」を形成して対抗する意思を示した。
 中国との対決姿勢を鮮明にした演説は、トランプ政権としては二〇一九年十月のペンス副大統領によるもの以来である。ペンス演説は、中国共産党政権の打倒を掲げてはいたが、一方で「(米中の)現実的な協力関係が排除されることはない」とも述べていた。
 ポンペオ演説は、中国への敵視と打倒をさらにエスカレートさせる意思表明である。併せて、同盟国のいっそうの負担を求めていることは重大である。
 しかもこの演説は、一九七二年の中国訪問と「上海コミュニケ」を実現したニクソン元大統領に縁のある博物館で行われた。舞台装置を整えた上での、演説なのである。
 米帝国主義のこの姿勢は、曲折こそあれ、大統領選挙の結果がどうなろうと、戦略的に継続される。

アジアでの世論工作強化
 さらに、ポンペオ米国務長官は八月十二日、チェコで演説し、「中国共産党はソ連がやらなかった方法で我々の経済や政治、社会にすでに入り込んでいる」と、またも敵視をあらわにさせた。5G(次世代通信規格)などで中国企業の参入が進んでいる東欧諸国にくさびを打ち込む狙いである。翌日には、中国の非営利団体「孔子学院」を「外交使節団」と認定、警戒の意思をあらわにさせた。
 これと並行して、トランプ政権は香港やハイテク摩擦を理由に、中国と中国企業への制裁と排除措置をますます強化させている。
 このような米国の策動の中心地は、アジアである。
 米国はオーストラリアとの間で、七月二十八日に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開いた。共同声明では、香港などでの中国の行動に「深刻な懸念」を表明、南シナ海問題における中国の主張を「無効」と決めつけた。
 さらに米国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国への「世論工作」も強化している。シブレー・駐ミャンマー米臨時代理大使は、現地紙に「中国は近隣国の民主主義を弾圧し、主権を侵害している」と寄稿、フィリピンやベトナムでも同様の行動を行った。
 だが、ペイン・オーストラリア外相は「中国との関係を傷つけるつもりはない」と、米国と一線を画している。ドゥテルテ・フィリピン大統領は、より米国と異なる態度である。

軍事大国化進める支配層
 米国とその同調者による世論工作は、わが国でも強化されている。
 国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は八月十四日、各紙に「日本の政財界指導者たちへ」なる意見広告を掲載した。
 この広告は、冒頭にポンペオ演説を紹介し、「『安全保障は米国、経済は中国』という便法はもはや通用しません」などと呼びかける。さらに、わが国の進路は「米国と協調しながら日本自身が大きく変化し、自立に向かうこと」などと言い、「米国はようやく中国の脅威に本気で対応する構えです。日本も覚醒すべきです」などと、わが国政財界指導者を叱咤(しった)している。
 安倍政権は以前から「強い日本」を掲げ、「地球儀俯瞰(ふかん)外交」や「自由で開かれたインド太平洋」構想の提唱、空母保有をはじめとする空前の大軍拡と米国製兵器の「爆買い」、集団的自衛権のための安全保障法制、特定秘密保護法、「敵基地攻撃能力」の検討など、米戦略と結びつき、中国に対抗する策動を強めてきた。
 最近でも、ポンペオ演説と軌を一にする策動が強化されている。
 二〇年版防衛白書では、中国を「安全保障上の強い懸念」と明記し、コロナ感染の世界的拡大も「自国に有利な国際秩序づくりや影響力の拡大に利用」などと難クセを付けた。
 河野防衛相は、米英などアングロサクソン系五カ国による情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」との連携拡大に意欲を示した。
 また、八月十五日の終戦記念日に合わせ、安倍政権下で最多の四閣僚が靖国神社を参拝した。安倍首相は、全国戦没者追悼式でも持論の「積極的平和主義」に言及、中国敵視を紛れ込ませる一方、二年連続で「歴史と謙虚に向き合う」ことに言及しなかった。
 米戦略と結びついた、日本の政治軍事大国化策動がいちだんと強まっている。

支配層の弱さのあらわれ
 米国の衰退が鮮明となり、中国が大国化する歴史的変動期のなか、わが国支配層は動揺を深めている。日本により以上の役割と負担を求める「米国第一主義」、さらに安倍政権による中国敵視の大国化路線も、わが国支配層内に巨大な不安感を広げている。
 わが国の進路が鋭く問われる情勢である。
 櫻井よしこらの策動は、米国の要求に積極的に応え、わが国の政治軍事大国化をめざす方向で「世論を統一」すべく、企まれたものである。これは、支配層内の動揺と危機感の反映であり、「弱さのあらわれ」である。
 経済の低成長、先進国中最悪の財政状況など、わが国の課題は山積みである。競争著しい技術革新では、大きく立ち後れている。相次ぐ天災も、経済・政治を大きく制約している。国の進路をめぐっても、アジアに「友」がいない。支配層は「米中とも日本に一目を置かざるを得ない」(日経新聞)状況をめざすべきなどと叫ぶが、夢想である。
 米国に協力して政治軍事大国化をめざす道は、戦争とわが国の孤立、国民生活困窮化をもたらす。自主、アジアと共生する方向こそ、わが国の平和と繁栄を切り開くことができる。
 だが、共産党含む議会主義野党は、こうした国の進路の課題で、支配層・自民党と対抗する方向を打ち出せていない。連合中央指導部も同様である。
 先進的労働者・労働組合は、亡国の安倍政権を打倒し、新たな国の進路を実現するために奮闘しなければならない。(O)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2020