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2020年7月25日号 3面・解説

「GoTo」めぐり混乱続く

大手旅行会社のための政策

 安倍政権は七月二十二日、当初「八月上旬」としていたキャンペーン「GoToキャンペーン」を開始した。
 「観光支援」を名目に、国内旅行(海外旅行は対象外)者に、宿泊費や旅費などの五〇%相当額を支援する。支援額の七割(旅行代金全体の三五%)は割引き、残りの三割(全体の一五%)は、旅行先で使えるクーポンを配布する。旅行代金支援額の上限は二万円(日帰りは一万円)。クーポン配布は九月以降に実施される。
 このキャンペーンに対する野党などの論調は、大部分が「方策は良いが時期が悪い」というものである。
 新型コロナウイルスが再び感染拡大の様相を見せるこんにち、政府が約一・七兆円もの血税を投入してキャンペーンを行う条件はない。「安全で安心な新しい旅のスタイルを普及・定着させる」(赤羽国交相)どころか、感染をさらに拡大させる愚行である。
 「多少の感染者が出ることは想定内」という「国交省幹部の話」も報じられている。国民の命を危険にさらす、安倍政権の本質を如実に示すものである。
 本キャンペーンは、四月に成立した第一次補正予算に盛り込まれた。だがそれは、「感染症の拡大が収束し、国民の不安が払拭された後」に行うことが閣議決定されていた。この時期の実施は、閣議決定にさえ反するものである。
 今年五月の旅行業者の国内取り扱いは前年同月比で九六・六%、海外旅行は九九%も減少した。確かに、深刻な事態である。
 旅行業者に限らず、経営難の中小零細業者に対し、十分な支援策が必要であることは論を待たない。
 だが、キャンペーンはそれを解決するものではない。キャンペーンは、インバウンド需要の喪失で窮地にある大手旅行会社を救済するためのものである。
 まず、キャンペーンの対象になるのは「旅行商品」の購入に対してである。
 旅行会社などを通さず鉄道を予約した場合、その交通費は割引の対象にならない。格安チケットを購入したり、家族で自家用車を使って移動した場合も同様である。要するに、旅行会社や旅行サイトを使えば「対象」になるが、そうでない場合は、割引の恩恵を受けられないのである。
 逆に言えば、JTB、HISなどの大手旅行会社や、「楽天」などの旅行サイトを支援し、儲(もう)けを保証するためのキャンペーンなのである。
 わが国の旅行消費額は、国内・海外を含めて約二二・五兆円である。このうち、主要旅行会社の取扱額は約六・五兆円で、三分の一に満たない。キャンペーンは、この三分の一への救済策なのである。
 インターネット上でも「困っている旅館を救うのではなく、特定の旅行会社への利益供与では」などの声が上がっているが、当然の意見といえる。
 政府は、キャンペーン実施直前の十六日になって、東京都を目的とするか、在住の人の都外への旅行を「対象外」とすることを発表した。さらに赤羽国交相は、若者や高齢者の団体旅行、大人数の宴会を「控える」ことを求めた。
 しかも政府は、年齢層などの基準を旅行会社に「丸投げ」する無責任ぶりである。旅行会社の現場は大混乱に陥っているという。経営陣が「恩恵」と思うキャンペーンであっても、現場の負担は計り知れない。零細の土産物店などは、怒りを通り越してあきれ果てているのではないか。
 安倍政権のコロナ対策のデタラメさ、国民の命と健康を守らぬ本質があらわになっている。
 肝心なことは、検査体制の拡充などで、感染拡大を防ぐことである。これは、国民の命を守り、不安を払拭するための大前提である。
 併せて、依然として生活難にある勤労国民への直接給付を再度行い、中小零細企業が経営を続けられるよう資金支援を行うことである。その一環として、旅行業界に対して支援を行うべきである。有害な「GoToキャンペーン」は、直ちに中止すべきである。
 疲弊した地方の求めに応じた支援も求められる。「地域の実情に合ったやり方を地方に任せていただきたい」(吉村・山形県知事)という声は、根拠がある。
 ペテン的な「GoToキャンペーン」の正体を見抜き、国民の命と健康を守り、生活と営業を再生させるための施策を急がなければならない。 (K)


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