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2020年7月25日号 2面・解説

防衛白書

政治軍事大国化は孤立の道

 防衛省は七月十四日、二〇二〇年度版「防衛白書」(以下「白書」)を発表した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を「安全保障上の課題」と位置付けたのが最大の特徴である。併せて、その返す刀で中国を非難し、国際的包囲網づくりを正当化している。一方、日米同盟の下での大軍拡を継続させる意思を表明している。アジアの緊張を高め、国際的孤立を招く政治軍事大国化の道を許してはならない。
 コロナ禍は世界経済だけでなく、国際政治、安全保障環境に巨大な影響を与えている。「白書」がコロナ禍について「国家間の戦略的競争を顕在化させ得る」などと記述するのは、その意図と方向性は別にして、当然である。

「白書」の基本的情勢認識
 「白書」の冒頭には「現在の安全保障環境の特徴」として、その情勢認識が示されている。
 特徴は、以下の三つが挙げられている。(1)中国などのさらなる国力の伸長などによるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している、(2)テクノロジーの進化が安全保障のあり方を根本的に変えようとしている、(3)一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が顕在化している、である。
 この三点の特徴づけは、一九年度版「白書」と同じである。
 今「白書」は、これら継続した認識に加え、(3)の項で、新型コロナウイルスのパンデミックが「各国の経済活動にも影響を及ぼし、さらには各国の軍事活動などにも様々な影響・制約」をもたらしつつあると指摘している。
 問題は、「既存の秩序をめぐる不確実性が増している」なか、その「秩序」に対して、どのような態度をとるかである。
 第二次世界大戦後、超大国となった米国は、自らに都合の良い「秩序」を構築するため、国際連合をはじめとする国際機関、同盟国との諸条約などを網の目のようにつくりあげた。それは安全保障面だけでなく、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界保健機関(WHO)など、数限りない。
 この仕組みは、戦後、米国を頂点とする帝国主義の世界支配を支え続けた。

米国こそ最大の混乱要因
 だがこんにち、米帝国主義の衰退は著しい。すっかり余裕を失った米国は、「米国第一」を掲げ、自らが主導してつくり上げた「国際秩序」を打ち壊し始めている。
 米国はすでに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)から脱退、WHOにも脱退を通告し、世界貿易機関(WTO)にも悪罵を投げつけている。
 これが、米国が敵視する中国だけでなく、同盟国である欧州諸国などとの矛盾を激化させている。
 わが国支配層は不確実な「秩序」を守る立場だろうが、当の米国は衰退し、旧「秩序」を打ち壊し始めているという矛盾に直面しているのである。
 支配層の掲げる「秩序」は、空文句にすぎない。
 同様に、「一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が顕在化している」のは事実だが、その課題の解決に背を向けているのが、米国なのである。
 新型コロナウイルスのパンデミックに際しても、米国はウイルスを「武漢ウイルス」などと呼んで責任を中国になすりつけ、自国内では無謀で無策な「経済活動再開」を進めているのである。深刻化する地球環境問題に対しても、米国は京都議定書からの離脱に続き、パリ協定からも離脱を表明した。
 「安全保障上の課題が顕在化している」というのであれば、まずは米国を非難すべきであろう。
 さらに(2)については、わが国は米国、中国に大きく立ち後れている。わが国支配層の焦りは「推して知るべし」で、「デジタル・トランスフォーメーション」などと叫んで安倍政権を突き動かしているが、当面、米中に追いつく条件は乏しい。これは、わが国支配層の責任で、自業自得である。

コロナ機に中国敵視強化
 「白書」は、コロナ禍によって欧米各国軍が打撃を受けるなか、中国・ロシアなどが「自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成や影響力の拡大を目指した国家間の戦略的競争をより顕在化させ得る」と指摘し、その動向を「重大な関心をもって注視していく」として警戒を宣伝している。
 とくに中国については、「力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗(しつよう)に継続している」とする。
 それだけでなく、新たに「感染拡大に伴う社会不安や混乱を契機とした偽情報の流布を含む様々な宣伝工作なども行っている」などという記述を加えた。何らの根拠も示さず、敵視をあおり立てているのである。
 また、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を相も変わらず「重大かつ差し迫った脅威」と決めつけている。初めて「弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる」と明記、敵視と制裁を正当化した。
 半面、米国については「特に中国を抑止するためとして、インド太平洋地域の安全保障を最重視する姿勢」であると歓迎している。
 日米同盟についても、現行の日米安保条約が締結六十年を迎えたことをわざわざ紹介し、日米同盟が「わが国の安全保障にとってこれまで以上に重要」と指摘している。加えて、集団的自衛権のための安全保障法制などをさらに強化することが「必要」だとし、軍備増強を「不可欠の前提」などと明記している。
 こんにち、米国は自国の衰退を巻き返すため、台頭する中国に対する全面的な攻勢を強化している。「中国共産党政権の打倒」を公然と主張するまでになった。
 「白書」は、この米国の世界戦略と結びつき、中国への対抗をいちだんと強化する方向を打ち出しているのである。

軍事大国化めざす軍拡
 第二次安倍政権の成立以降、防衛費は八年連続で増加し、二〇年度本予算では過去最大の約五兆三千億円に達している。この間、安倍政権は自衛隊の南西諸島への重点配備、ステルス機F35や作戦機オスプレイの導入、通信システム隊(サイバー防衛隊)や宇宙作戦隊の創設・拡充、護衛艦の「空母化」などを進めた。
 「白書」では、宇宙・サイバー空間・電磁波といった「新領域」での軍拡をさらに進めること、長距離巡航ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)やオスプレイの導入拡大など、さらなる軍備増強を打ち出している。地元住民の反対と経費増大で断念に追い込まれた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替措置については、「国家安全保障会議の議論を踏まえて検討する」とされた。
 自民党は現在、イージス・アショア断念を逆手にとり、「敵基地攻撃論」の検討に踏み込んでいる。政府はこの「宣伝」に乗っかり、九月中も方向性を示す予定だという。これを含め、政府の国家安全保障会議(NSC)は、年内に「国家安全保障戦略」の改定に着手するという。
 「白書」は、こうした方向でのいっそうの政治軍事大国化の道筋を明言している。
 だが、日米同盟とて、万全ではない。
 米国は、わが国に駐留米軍経費(思いやり予算)の増額などを求めている。韓国との交渉は難航し、在韓米軍削減も報じられるほどである。わが国と米国との間には、通商、為替などの懸案も多く、いつ、米国が強硬姿勢を取るか分かったものではない。在沖米軍基地でのコロナ感染拡大という問題もある。
 アジア諸国は、わが国の政治軍事大国化に警戒を強めている。
 安倍政権、支配層も、米国の衰退を知っているからであろう。中国に対する姿勢は先に述べた通りだが、「産経新聞」など右派勢力が求める「安全保障上の脅威」との表現は盛り込まなかった。米国主導の対中国包囲網と経済的利益の狭間で右往左往する、わが国支配層のジレンマが反映したものである。
 衰退する米国が悪あがきを強め、既存の国際秩序を打ち壊していることは、「秩序」に抗して闘う全世界の労働者階級・人民にとって、客観的には有利なことである。
 日米安保条約を破棄し、わが国の政治軍事大国化に反対する闘いを強めなければならない。辺野古新基地に反対する沖縄県民の闘いは、この国民的闘いの重要な一翼を担い得る。全国で連帯した行動を広げるべきである。  併せてオスプレイ配備反対など、各地での闘いを前進させよう。
 労働組合は、その先頭で闘わなければならない。(K)


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