ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2020年7月15日号 6面

コロナ禍、景気悪化のもとで、
「大阪都構想」住民投票を
中止すべきである

2020年7月13日
日本労働党大阪府委員会
委員長 長岡親生

大阪市長 松井一郎殿

 大阪市を廃止、特別区に再編する、いわゆる「大阪都構想」の「制度案(協定書)」が、八月十八日からの大阪府議会、大阪市議会で議決の運びとなった。住民投票については、松井一郎・大阪市長は新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、両議会での議決前に判断、「制度案」可決をへて、予定通り十一月一日、もしくは衆議院の解散総選挙があればその投票日と同日に実施する意向を表明した。
 すでに二〇一五年の住民投票で否決された「大阪都構想」だが、その後改訂された「制度案」は主に特別区の区割りが変更されたにすぎない。昨年の統一地方選挙後、公明党大阪府本部、自民党大阪府議団が「大阪都構想」に対する態度を変えたが、これはひとえに政党側の利害と事情で、いまだに制度案の内容や、大阪市を廃止、再編する理由を理解できていない大阪市民が多く、世論は「分断」されたままである。
 「コロナ禍」渦中のなかで、現在は世界的な感染再拡大と経済再開のせめぎあいの様相で、この状況は各国、中央銀行の異例の措置によって一時的に保たれているにすぎない。政府の対策が後手後手に回ったことで、すでに府内の多くの中小零細企業、自営業者は、インバウンド、輸出関連の産業、業種を中心に大幅な受注減と資金繰りに窮し、労働者の解雇、希望退職、減収が相次いでいる。雇用情勢はいちだんと深刻さを増しつつある。
 「制度案」の前提になっている経済成長と財政試算も成り立たなくなった。
 さらに足下では、国内での感染が再拡大しつつある。
 このような状況下で、この秋に再度、今回の制度案の可否を大阪市民にゆだね、住民投票を実施するどのような意義もない。
 今なすべきことは、コロナ禍であぶり出された大阪府内、大阪市内の経済・社会の諸課題と、これに対応した諸施策―公衆衛生・医療体制、営業・雇用・生活支援、学校教育、それにコロナ禍のなかでの防災対策など―についての諸制度、人員配置や施策の運用について事実に基づいて検証し、府民の生活と命を守るための緊急の措置と今後を予見した制度づくりを準備することである。  さらには大阪府政、市政の基本政策の見直し、転換が必要となっている。
 「大阪都構想」住民投票の中止を早期に判断することを求める。

 以下、上記の補足として、二点について触れてておく。

(1)コロナ禍での経済、営業や生活の危機は、一時的ではなくより本格的に、長期化する。大阪府民、市民の営業、雇用、生活の状況はこれからさらに悪化する。
 コロナ禍は、これまでのリーマン・ショック後の世界的な危機の深まりと諸矛盾を浮き彫りにし、さらに加速させた。
 世界経済全体は大恐慌以来といわれる大幅な景気後退となり、金融情勢はますます不安定になっている。国際通貨基金(IMF)は六月、二〇二〇年の世界経済の成長率予測を▲四・九%に下方修正した。主要国の大幅な金融緩和、財政支出で危機を押しとどめているものの、実体経済と乖離した株価動向、社債残高の急増、新興国の債務高と通貨下落などをみても金融危機、恐慌がいつ、どこから起こってもおかしくない。さらには米中対立など政治的要因が世界経済を揺るがそうとしている。
 コロナ禍での経済悪化は一次感染の対応をへて次のステージに移ったといえる。全世界での雇用支援制度での政府支出はすでに百兆円、国内でも雇用調整助成金など政府の諸施策によってかろうじて失業増を押しとどめているにすぎない。休業者は約四百二十万人もいる。支援策の期限切れ、玉切れを迎えれば雇用危機の第二波が迫っている。
 日銀短観(六月調査、七月一日発表)によると、景気悪化は対個人サービスなどの非製造業から自動車産業など製造業へ広がり、企業は経営環境の悪化から雇用、設備などのストック調整を本格的に進めはじめた。

 「近畿短観」の六月の業況判断指数(DI)は全国よりも悪く、▲三六、先行きはさらに悪化の予測となっている。
 大阪府内の企業の倒産件数は五月(四十四件)、六月(百四十四件)で、全国最多、東京都より多い。相次ぐリストラも発表されている。この倒産件数には負債千万円以下の小零細企業は含まれていない。
 こうした中で、資金繰りに窮し、持続化給付金などの支援の遅れから企業、自営業者の悲鳴があがっている。事業継続の断念も相次いでいる。大阪府内での「新型コロナウイルス感染症対応緊急資金」への中小企業、自営業者の申請件数は、六月末に四万六千三百三十一件、融資申請総額は九千九百六憶円、約一兆円にも及んでいる。
 観光関連など「対個人サービス」で働いていた労働者、とくに非正規労働者の就業者数は激減、製造業もリストラが始まり、フリーランスを含む自営業者はまだ仕事がなく、収入減のなかであえいでいる。十分な実態把握と、漏れのない支援が必要である。
 このなかでの住民投票の実施となれば、大阪市民の怨嗟の矛先は府政、市政に向かうこととなるだろう。

(2)「大阪都構想」の前提であるインバウンド依存、国際競争力強化を前提にした成長戦略、行財政政策の大幅な見直しが迫られている。

 大阪・関西経済は、約二十年にあたって他地域と比較しても主に中国、アジア地域のサプライチェーンに深く組み込まれた産業構造に変貌していた。そのためにコロナ禍以前から米中経済摩擦など中国経済停滞の影響を受け、関連企業の輸出減がつづき、倒産件数も増え始めていた。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。
 また、関西空港を玄関口に旺盛なインバウンド需要が、観光、小売りなどの対個人サービスを中心に大阪経済、雇用情勢をけん引してきたが、その裏では雇用の非正規化・低所得化、中小の製造業の後退、人手不足による中小企業の苦境があった。さらにこの十年間で大阪府の中小零細企業に対する予算は大幅に減らされた。そして、このインバウンド需要が吹っ飛び、少なくともここ数年は回復しない。
 「制度案」の前提になっている大阪の経済、雇用環境が、このコロナ禍で決定的に一変したのである。したがって税収面でも見直しが余儀なくされている。「制度案」では、各特別区ごとの基準財政需要額さえ示されていないが、今後増大する、増大させなくてはならない医療・福祉、防災、生活支援等の財源はどうするのか。制度案には整合性はないし、この先に市民サービスの低下と負担が大きくのしかかってくることになる。
 成長戦略の目玉に位置づけられてきた大阪・関西万博、IR(カジノを含む統合型リゾート)事業についても、すでに経済界から大幅な見直しの発言が出されているほどである。悪化する事態のなかで、こうした声が次第に大きくなるだろう。
 「制度案」そのものの撤回、見直しが必要になったということである。

以上


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2020