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2020年7月5日号 2面・解説

財界/コロナ禍で要求強める

危機感深め「イニシア」
会議提唱

 財界がまたもや政治への要求を強めている。経団連は六月八日、「当面の課題に関する考え方」を発表、経済同友会も十六日、「新型コロナウイルス問題に対する中長期的な対応方針についての意見」(以下「意見」)を公表した。わが国財界は、コロナ禍を「好機」とばかり、自らの政治要求を一気に実現させようとしているのである。財界の策動に警戒を強め、闘いに備えなければならない。
 経団連の「当面の課題に関する考え方」では、「日本経済は急激に悪化、非常に厳しい状況にある」という情勢認識を示している。
 その上で、「デジタル革新の加速によるSociety5・0の実現」を掲げ、「徹底した規制改革とデジタル化・データの共有」などを求めている。その他、「エネルギー・環境問題」や「働き方改革」「ルールに基づく国際経済秩序の維持・強化」などを掲げている。

同友会「意見」の内容
 より体系的で、分量が多いのは、同友会による「意見」である。
 「意見」は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)が「長期化を覚悟する必要がある」との認識に始まる。この危機は「財政・金融政策だけで乗り切れる問題ではない」とし「民間が主体となり、わが国経済を立て直していくこと」が必要だとする。
 そのため、「意見」は「基盤整備」として、以下の三点を提案する。
 第一に「さらなるデジタル化の推進」として「デジタル・トランスフォーメーション」(デジタル変革)を掲げる。具体的には、リモートワーク(テレワーク)の強化、電子マネーの普及と消費者データの活用などである。
 第二に、「デジタル・ガバメント」の推進である。具体的には、内閣官房IT(情報技術)総合戦略室の体制強化、地方行政のデジタル化などである。
 第三に、「地方創生の加速と東京の競争力強化」である。政府機関の地方移転、一方で、東京圏での通勤時間短縮などによる生産性向上、「国際金融ハブ」化などを打ち出している。
 これらに基づいて「経済の回復と成長」を実現するため、次の二点を打ち出している。
 第一は「企業経営の変革支援と新産業の創出」である。具体的には「ジョブ型雇用」の推進、AI(人工知能)やロボットの活用、農業のデジタル化など。
 第二に「新たな国際協調体制の構築に向けて」。中国・インドを含む「東アジア地域包括的経済連携協定」(RCEP)交渉を中心に、自由貿易のために「ルールメイキングに積極的に参画」することをあげている。
 こうした政策の裏付けとして「財政問題への対応」も掲げている。「特別会計の設置」「証拠に基づく政策立案」(EBPM)「民間資金の活用」である。
 最後に「緊急事態における政策のあり方」として、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」における私権制限の検討、「専門家会議」のあり方検討などをあげている。
 また「意見」は、「ウィズ・アフターコロナ・イニシアティブ」の設置を提唱している。櫻田代表幹事は「政府の政策決定プロセスは多様な意見を反映しきれていない」などと、安倍政権への不満を表明している。その「返す刀」で「イニシアティブ」を提唱、「日本版ダボス会議」のような性格の会議をめざし、財界人だけでなく、学者やNPO、労働組合も参加を呼びかけるという。

個別項目でも要求強める
 さらに同友会は、個別問題についてより踏み込んだ提言を行っている。
 その一つとして、六月二十六日には「コロナ危機を契機としたデジタル変革の加速に向けて」を発表した。これは、経済と社会の「デジタル変革」を求めたものの骨子で、正式な提言は九月の予定である。ここでも、政府や自治体によるIT(情報技術)人材の登用、マイナンバー制度の導入強化などを急ぐべきとしている。
 もう一つ、「物流クライシスからの脱却」を発表した。輸送需要の増加やドライバー不足という現状を踏まえ、共同配送のためのハード・ソフトの標準化、検品のデジタル化などを求めている。自家用トラックの活用や、外国人ドライバーの採用といった規制緩和も要求している。
 教育問題についても、「教育のニュー・ノーマル」を唱え、オンライン授業を正規授業として認めることを中心とする提案を行っている。
 同友会は、これらの提言を政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」などに盛り込むべきだとしている。自らの要求を実現させようとしている。

具体化は何をもたらすか
 財界の要求が実現すれば、労働者、国民はどのような状況におかれるだろうか。
 「デジタル変革」は、対応できる大企業とそれが不可能な中小零細企業の格差、富裕層と貧困層の格差をいちだんと広げることになる。「ジョブ型雇用」は雇用をますます不安定化させ、技術者などごく一握りの層と大多数の労働者との分断を深める。AIなど技術革新は、短期的には雇用減少などの形で、労働者に犠牲を押し付ける。マイナンバー制度の強化や「消費者データの活用」は、全国民への監視体制の強化につながるものである。自家用トラックの活用は、「白タク」ならぬ「白トラック」の合法化で、物流業界の労働環境はさらに悪化する。
 「ウィズ・アフターコロナ・イニシアティブ」(日本版ダボス会議)は、財界が政治的・社会的影響力を維持・拡大するための恒常的仕組みをつくろうというのである。
 この構想は、一九九〇年代に小選挙区制の導入など「政治改革」の世論をあおった「民間政治臨調」などと同様、財界による政治介入のための新たな「労使協調機関」となり、連合労働運動をますます「支配層への追随者」に引き落とすものとなろう。

背景は財界の危機感
 「意見」から伺えることは、わが国財界の危機感の深さである。
 コロナ禍以前から、世界経済の成長率は大きく鈍化し、金融緩和政策の限界など、資本主義は末期症状を呈していた。官民の債務は著しく拡大し、再度の金融恐慌は不可避的であった。AI、量子コンピュータなどの技術革新は急速に進み、従来の資本主義の枠内にとどまらない巨大企業も登場している。
 第二世界大戦後の資本主義の「総本山」となった米国は衰退を早め、中国が台頭、諸国家間の力関係は大きく変化している。トランプ米政権は、世界支配のための強引な巻き返しを始めた。
 各国内では階級矛盾が激化し、暴動や内乱などが頻発している。
 ここにコロナ禍が襲った。
 世界経済は「急停止」し、「第二次世界大戦後で最悪の景気後退」(国際通貨基金・IMF)である。
 各国支配層はまたもや金融緩和に踏み込み、財政出動も膨大に行っている。
 それでもバブルをあおることでしか経済を浮上させられない状態で、いくつかの新興国は通貨危機の瀬戸際にある。
 「格差」はいちだんと開き、国際労働機関(ILO)は、世界の四割の労働者が解雇や賃下げに直面するとしている。資本家・投資家は、危機の中でますます肥え太っている。
 米国はパンデミックの責任を中国に押し付け、敵視と揺さぶりを強化している。
 こうした国際環境の下、多国籍企業と国家間の市場と資源などをめぐる争奪は、ますます激化している。多国籍大企業、財界は焦りを深めている。
 だがわが国は、米国、中国などに比して大きく立ち遅れている。企業を支援しようにも、政府の累積債務は先進国中最悪の水準で限界がある。歴代対米従属政治が、桎梏(しっこく)となっているのである。
 とくに、わが国のデジタル化が大きく立ち遅れていることが、コロナ禍を通じて暴露された。感染者数の報告はきわめてアナログ的で、定額給付金のオンライン申請はいくつもの自治体で「中止」に追い込まれた。EBPMにしても、限られた財源を財界の要求の通りに、効率的につぎ込むためのものである。
 財界は、これが自らの国際競争力を損ねるものとして、危機感を強めているのである。同友会副代表幹事の一人である、IT企業・ブイキューブの間田社長は、就任時の会見で「新産業も日本で実装できず、世界に後れを取ることが起きている」と述べている。
 マスコミも、安倍政権のデジタル化政策を「言うだけだった」(日経新聞)とし、定額給付金のオンライン申請の体たらくを「自動販売機の中に人が入っている昭和のコント劇のようなもの」とまで批判している。

呼応する連合中央
 報道によると、立憲民主党の枝野代表、国民民主党の玉木代表、連合の神津会長は、八月中旬までに「アフター・コロナ」の新たな社会像について考え方を取りまとめることで合意したという。
 このような討議は、一般的には必要なことだろう。だが、同友会が提唱する「日本版ダボス会議」と異なるものとなり得るだろうか。財界が求め、安倍政権が進める諸政策との政治的、政策的対抗軸を立てられるのか。これまでの両党、さらに連合中央指導部の実情を見る限り、それは期待できない。
 労働者・労働組合は、財界に追随する労働運動ではなく、ストライキを背景に自らの力で闘わなければならない。その方向に向け、戦略的闘いを準備すべき情勢なのである。  (O)


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