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2020年6月25日号 2面・解説

深刻化する債務問題

IMF・世銀も対応できぬ可能性

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、世界資本主義の危機を浮き彫りにさせ、しかも加速させている。パンデミックの「主戦場」は新興諸国に移っているが、経済力が弱い諸国の危機はより深刻で、しかも連鎖する可能性がある。とくに債務問題は、世界経済の爆薬となりつつある。
 新興諸国の危機は、コロナ禍以前からあった。

低金利で債務が拡大
 リーマン・ショックによる金融恐慌を機に、各国中央銀行は、空前の金融緩和に踏み込んだ。低金利で有り余った資金は、株式や商品などに流れ込んで「資産バブル」を生み出した。低金利は、社債発行による企業の資金調達、勤労者への各種クレジット供与などの借金(債務)拡大となり、その後の経済を一定程度支えた。
 新興諸国への直接・証券投資も増大した。新興諸国はこれを背景に、一定の経済成長を実現した。だが、外国からの投融資は債務であり、新興国でも債務が膨らんだ。
 二〇一五年夏の「人民元ショック」を機に、世界経済の成長鈍化が鮮明となった。リーマン後の世界経済をけん引した中国も、「調整」の必要性と相まって、成長が鈍化した。
 一七年、「米国第一」を掲げたトランプ政権が登場し、中国を抑え込むための攻勢を始めた。
 新興諸国は概して、中国への依存度が高い。たとえばブラジルは、輸出の約二六%、輸入の約一九%が中国向けである(一八年、以下同)。中国経済の成長鈍化、さらに原油など資源価格がさらに低迷したことで、新興諸国は資金難に陥りつつあった。
 それでも、世界的に超低金利が続いていたため、ドル建て国債などで資金を調達することができた。一九年、ドル建て国債を通じた新興国の資金調達は一千二百二十六億ドルに達し、リーマン・ショック時の二倍近くまで増加した。
 こうして、世界中で債務が増大した。
 リーマン前と比べると、おおむね、先進国では官民両方の債務の対国内総生産(GDP)比が拡大したのに対し、新興国では民間、とくに企業部門(金融を除く)の債務が拡大していた。新興国の企業部門債務の対GDP比は、一四年に先進国を抜いて九〇%台に達した(国際金融協会=IIF)。
 企業部門債務を国・地域別対GDP比で見ると、一九年末では、香港が約二二〇%、中国約一五〇%、韓国約一〇〇%、トルコ、マレーシアがそれぞれ約七〇%と高い水準にある。

コロナ禍で通貨安に
 リーマン後、新興諸国の多くは一定の成長を実現したが、経常収支と国家財政の「双子の赤字」を抱えた国が多い。外貨準備を積み増した国も、アジアを除いてそう多くはなかった。
 経済成長が鈍化するなか、一九年の段階で、新興諸国のいくつかはデフォルト(債務不履行)に直面していた。
 アルゼンチン、レバノンはすでにデフォルトに直面、債権者との協議が始まっている。さらに、エクアドル、ザンビアが危機にあり、ベネズエラも米国の制裁によって多大な困難に直面していた。
 そこに、コロナ禍が襲った。
 世界経済の「急停車」に際し、各国中央銀行はまたも金融緩和策と財政出動に迫られた。世界の財政出動は、八兆ドル(約八百五十五兆円)に達する。世界的に信用が収縮、基軸通貨ドルへの需要が高まった。
 新興諸国は、医療体制が不十分なところにコロナ禍に襲われる形となった。財政に余裕がないにもかかわらず、不可避的に財政出動も迫られた。「双子の赤字」はより深刻化した。
 こうした背景から、こんにち新興諸国の通貨安が進行している。
 南アフリカ・ランドは四月末、ロシア・ルーブルも三月中旬、ブラジル・レアルは六月十四日、それぞれ市場最安値となった。

世界の半数が危機にある
 世界の投資家は「双子の赤字」、つまり経済的基礎が危うい国を選別して投資を控え、場合によっては資金を引き揚げるようになった。これが通貨安の直接の背景である。
 米連邦準備理事会(FRB)は市場にドルを供給してはいるが、あくまで米国の長期金利の上昇(国債価格の下落)を抑えるためのもので、ドル需給が緩和するわけではなく、ひいては新興国通貨下落の歯止めにはならない。
 通貨安は輸入物価を引き上げ(インフレ)、国民生活を悪化させる。企業は資金がショートして倒産、そこで働いている労働者は失業に追い込まれた。外国人投資家に国債を販売していた国家も、資金負担が増大した。
 こうした国々をはじめ、新興諸国が今後一年以内に償還しなければならないドル建て債は、総額三百四十億ドル(約三兆六千七百億円)にのぼると試算されている。
 国際通貨基金(IMF)に融資プログラムを申請している国々は、何と、過去最多の百二カ国に達する。国連加盟国は百九十三カ国なので、半分以上の国々が資金調達難に陥っていることを意味している。これは、今後数カ月でさらに増える可能性が高い。IMFは、現在、低所得国の四〇%が債務が返済できないレベルの苦境にあると推定している。
 「新興国ではドル建て債務が膨れ上がっているため、流動性不足から何かがバーストする可能性がある」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)という予測があるほどだ。
 新興諸国の相次ぐ通貨安は、デフォルトの連鎖となる可能性をはらんで進行している。
 しかも、一九八〇年代の中南米、九〇年代の東アジア諸国という地域的通貨危機以上の規模と深刻さでの危機に陥る可能性である。

危機連鎖の可能性
 国家がデフォルト危機に陥れば、内外で「誰が負担するのか」をめぐる闘争が激化する。人民が敗北すれば、支配層に犠牲を押し付けられ、「地獄」と化す。民族矛盾、階級矛盾は激化する。
 そうなっても、保険債券ともいうべきクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を保有している世界の投資家にとっては、荒稼ぎの好機でもある。いくらか「債務免除」をしたとしても、荒稼ぎの前には微々たるものである。
 だから、投資家は「双子の赤字」が慢性化し、外貨準備が少ない新興国を「標的」にする。これは、アジア通貨危機の際と同じである。
 現在でいえば、たとえば、トルコの外貨準備は、輸入額の三カ月分ほどしかない。これは、一般に「危険水準」とされるレベルである。景気悪化が長期化すれば、外貨の資金繰りに窮する事態が予想される。
 ブラジルは、トルコに比して外貨準備が多いが、国家債務の対GDP比が急拡大(約七八%から九三・五%に)している。米国に次ぐコロナ感染者の急増で、対策費支出が増大しているのである。
 ただ、危機が多数の国に連鎖的に発生すれば、投資家もあわてざるを得ない。

世界の危機対応力が弱まる
 コロナ禍を理由として、二十カ国・地域(G20)は、年末までの低所得国の債務返済猶予(モラトリアム)で合意している。だが、それで済むかどうか。
 世界銀行が中心となったパンデミック債を使って新興諸国を支援する動きもある。パンデミック債は二〇一七年に始まり、すでに三億二千万ドル(約三百五十億円)が発行済みである。だが、この金額は、新興諸国が一年間に召喚しなければならないドル建て債総額の一〇〇分の一程度しかない。連鎖的危機となれば、とうてい足りないのである。
 そもそもパンデミック債は、平時には投資家に高利を与える代わり、感染症が拡大すると元本の一部または全額を受け取れなくなる仕組みである。
 債券を購入した投資家からすれば、できるだけリスクを負担したくないので、パンデミック債の発動条件を厳しくしたい。こうしたせめぎ合いの結果、世界銀行がパンデミック債の発動を決めたのは四月十七日になってからであった。世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスを「パンデミック」としてから、一カ月以上が経過した後である。金額も、全発行額の半分以下の一億三千二百五十万ドル(約百四十億円)にとどまる見込みだ。
 コロナ対策にさえ「焼け石に水」で、債務危機となればまったく無力である。
 IMFにも、多数の国々が危機に陥った場合に融資できるだけの資金はない。IMFが融資資金を増やすには、特別引出権(SDR)の増額が必要になるが、米トランプ政権は難色を示している。
 むろん、IMFの融資と引き換えの緊縮財政策は、各国人民に多大な犠牲を押し付けるものであるが、デフォルトも同様の苦難の道である。
 「米国第一」が、新興国の連鎖的デフォルトを引き起こす可能性さえあるのである。
 また、中国が態度を迫られる場合もあり得る。
 中国は、途上国に対する国家レベルの債権者としては最大の存在で、とくにアフリカ諸国に対してはそうだからである。中国の対外融資残高は五千二百億ドル(約五十六兆円)に達し、融資相手国が危機に陥れば減免などを迫られるし、相手国が破綻すれば中国にリスクが跳ね返る。これは、米帝国主義が中国を揺さぶる手段となる可能性さえ捨てきれない。
 米国の中国への攻勢が強まり、国際協調が崩れるという国際関係は、世界経済の危機に対する対応力を弱め、危機をより深刻化させているのである。 (O)


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