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2020年6月15日号 2面・解説

黒人殺害抗議/
全米から世界に広がる

世界の危機、米衰退もあらわに

 五月末に始まった米国労働者・人民の決起は、コロナ禍が世界資本主義の末期症状を浮き彫りにさせ、危機を加速化させるなかで高揚している。その点で、単なる「人種差別反対」の闘いにとどまらず、「コロナ後」の世界階級闘争の先駆けともいうべき意義を持つ。さらにこの闘いは、米帝国主義の掲げる「民主主義」の正体を自己暴露させ、国際的威信をさらに失墜させている。
 世界資本主義の「総本山」で、断固たる闘いが始まっている。
 五月二十五日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人が警官に虐殺されたことを契機とする暴動・抗議デモは、全米百四十以上の都市に広がっている。
 米警察はゴム弾や催涙ガスで抗議する人びとを強制排除し、十六の州・特別区で計一万人以上の州兵を動員するなど、弾圧強化で臨んだ。
 トランプ大統領は「軍がいつでも応援できる」と、武力弾圧の可能性を公言した。何の根拠も示さず、「左」派団体を「テロ組織」に指定する方針を示しさえした。
 だが、闘いがいちだんと広がり、トランプ政権の支持率が急落、政権や米軍内部から弾圧への異論が噴出して政権は分裂、十一月の大統領選挙に影響しかねない情勢となった。予断は許さないが、トランプ大統領は州兵を撤兵せざるを得ない状況に追い込まれた。

背景に「社会革命の時代」
 この闘いの意義は、コロナ禍が、世界資本主義の末期症状を浮き彫りにさせ、危機を加速化させているという背景なしには理解できない。
 リーマン・ショック以降、世界経済の危機は深まり、「相対的安定期」はなくなった。経済成長はますます鈍化、官民の債務は史上空前の規模に拡大、新たな金融危機が不可避的となっていた。
 急速な技術革新は、多国籍企業と国家間の争奪戦をいちだんと激化させた。
 大多数の労働者階級・人民は貧困状態にたたき落とされ、一握りの経営者・投資家による富の独占が急速に進み、世界の「格差」は極度に開いている。
 全世界の人民は不満を強め、各国内での階級矛盾は深まっている。
 議会政治ではいわゆる「ポピュリズム勢力」が台頭、議会外でも、フランスや中南米諸国を中心にデモやストライキなどの実力闘争が広がっている。
 国際関係も厳しさを増している。衰退を早める米帝国主義は、台頭する中国への攻勢を強め、中国の体制転覆を公然と語るようになった。
 地球環境問題も、経済や政治を大きく制約する深刻な問題となっている。
 こんにち、資本主義は末期症状を呈し、私的所有に基づく資本主義という生産様式自身が限界に達する歴史的激動期である。まさに、社会革命の時代なのである。

コロナ禍が危機を加速
 「コロナ禍」は、こうした危機をいちだんと加速させている。
 二〇二〇年の世界の成長率は▲五・二%と、まさに「急停止」すると予想される(世界銀行)。感染拡大が止まらなければ、▲八%まで下落することも想定されており、まさに「第二次世界大戦後で最悪の景気後退」(同)である。
 未曾有(みぞう)の事態に際して、各国支配層はまたもや金融緩和に踏み込んだ。
 米連邦準備理事会(FRB)は、米国債などを制限なく購入するなど量的緩和政策を決めた。欧州中銀(ECB)も、資産購入や域内金融機関へのマイナス金利での資金供給を決めた。日銀も国債買入の枠を撤廃、上場投資信託の購入も拡大した。
 財政出動も膨大である。米国は二兆ドル(約二百二十兆円)の経済対策を決め、欧州連合(EU)も総額五千四百億ユーロ(約六十四兆円)の対策で合意した。安倍政権も、二次にわたる補正予算を組んだ。
 中国も、新規貸出枠を史上最高に引き上げ、財政出動枠も拡大させている。新興諸国も同様の措置を行い、世界の財政出動額は八兆ドル(約八百六十兆円)を優に超える。
 それでもバブルをあおることでしか経済を浮上させられない状態で、いくつかの新興国は通貨危機の瀬戸際にある。
 危機は大多数の労働者・人民に押し付けられ、命と健康の危機にさらされている。膨大な労働者が職を失い、中小零細企業は倒産と廃業に追い込まれている。国際労働機関(ILO)は、世界の四割の労働者が解雇や賃下げに直面するとしている。米国の四月の失業率は戦後最悪の一四・七%に達し、就業者は二千五十万人以上も減った。
 他方、資本家・投資家は、危機の中でますます肥え太っている。
 国家間関係も、ますます険しくなっている。
 米帝国主義はパンデミック(世界的大流行)の責任を中国に押し付け、台湾外交支援法を成立させるなど、中国への敵視と揺さぶりを強化している。
 米中の覇権争奪はますます強まり、戦争の可能性をはらみつつ激化している。
 事態を打開できるのは、全世界の労働者、とりわけ先進国の労働者階級である。労働者階級が各国でマルクス・レーニン主義党を鍛え、労働運動を革命的に発展させ、実力で政治権力を握ってこそ、「次の時代」を切り開くことができるのである。現在は、その「夜明け前」である。

差別を再生産する米経済
 闘いの背景には、米国における黒人差別があることも言うまでもない。
 黒人差別は、十七世紀中盤以降の奴隷制度に起源を持つ根深い問題である。 黒人を主体とする暴動も、一九九二年のロサンゼルス暴動など何回も起こっている。
 マスコミはもっぱらこの面だけを取り上げているが、客観的には、人民の目を資本主義の本質的な危機からそらす役割を果たしている。黒人差別は、経済的基礎、こんにちにおいては米国経済、社会と深く結び付いているのである。
 コロナ禍以前でも、米国黒人世帯の資産は白人平均の一〇分の一しかない。
 この「格差」は、パンデミックとトランプ政権の対応策によって、より深刻化している。新型コロナによる黒人の死亡率も、白人の二・四倍と格段に高い。ワシントンでは、黒人は人口の四五%だが、死者数では何と八〇%にも達する。
 黒人労働者に死者が多いのは、サービス、小売り、医療などウイルス感染しやすい労働を強いられ、低所得で、医療保険制度に加入できないからである。しかもかれらは、コロナ禍で真っ先に職を奪われた。
 所得や資産の「格差」が必然的に、生命と健康の「格差」となっているのである。
 これは、米国経済が、かつては黒人の奴隷労働、現在も極端な低賃金労働の上に成立しているからである。これが、黒人差別を再生産しているのである。

米帝国主義はさらに衰退
 今回の事態は、米帝国主義の威信を著しく失墜させるという「効果」を生み出している。
 米国のコロナ感染者は百八十五万人、死者も十一万人に達する。米国の感染者・死者はいずれも全世界の約三分の一を占め、世界一である。
 トランプ大統領は一月末のダボス会議当時、新型コロナに「すでにうまく対応している」などと、誇っていた。大統領が二兆ドルに規模の財政出動策に署名したのは、三月二十七日になってからである。それでも感染拡大は収まらず、海軍内でも集団感染が発生、空母機動部隊が運用不可能に陥り、軍事的「空白」さえ生じる事態ともなった。
 トランプ政権は、「武漢ウイルス」などと危機の責任を中国に転嫁し、さらに世界保健機関(WHO)から脱退するまでしている。
 だが、こうした姿勢は世界の支持を得られるはずもなく、米国の孤立はますます深まっている。
 今回の大衆行動に対する強硬姿勢は、「(抗議デモを弾圧する)政治手法が非常に物議を醸している」(メルケル・ドイツ首相)などと、米国の孤立に拍車をかけている。
 米国内でさえ、通信社「ロイター」のコラムが「全米で巻き起こっている抗議デモは、米国の国際的地位に修復不能な禍根を残すかもしれない」と述べるほどである。同コラムは続けて、「米政治家は中国の検閲と香港での人権弾圧を非難するが、自国で似たような行動が燃えさかっている」と皮肉っている。
 その通りである。他国には「民主」「人権」を振りかざす米国内で、大多数の貧困層や黒人の人権が奪われ、抗議デモは非民主的に弾圧されているのである。
 このような偽善的で、世界に愛想を尽かされるような米国との同盟を基軸とし、共に中国に敵対しているのが、わが国安倍政権である。
 米国での闘いは、世界の激動と危機の深刻さ、米国の衰退をまざまざと示している。(O)


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