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2020年6月5日号 2面・解説

第2次補正予算

「少ない・遅い」は変わらず
これでは国民生活を守れない

 安倍政権は五月二十七日、二〇二〇年度第二次補正予算を閣議決定した。補正予算としては過去最大だが、大部分は企業への資金支援である。一方、「家賃支援給付金」や持続化給付金の拡充などはわずかにとどまった。何より、医療体制支援は微々たるものである。国民生活・国民経済を守るには不十分で、より大規模、迅速な支援策が求められている。
 第二次補正予算は、一般会計総額は三十一兆九千百十四億円で、特別会計や財政投融資を合わせた財政支出総額は七十二兆七千億円規模となる。民間融資などを含めた事業規模では、百十七兆一千億円である。
 安倍首相は「空前絶後の規模、世界最大の対策で、百年に一度の危機から日本経済を守り抜く」などと誇っている。確かに、補正予算としては史上最高額だが、民間資金も含めた「事業規模」を膨らませて規模を大きく見せている。実際の財政支出、いわゆる「真水」は三十数兆円である。
 この第二次補正予算の編成自身が、安倍政権の新型コロナウイルス対策における無策さと立ち遅れの証左である。三月に成立した二〇年度本予算を組み替え、さらに四月に成立した第一次補正予算が十分なものであれば、これほど大規模な第二次補正が必要となることはなかったのである。
 第二次補正予算では、第一次で不十分であったいくつかの項目について、国民の批判に応える形で、いくらかの上積みや新設が図られている。
 だが全体としては、第一次に比しても「企業支援」に軸足を移したものとなっている。財界が「経済界の意見も汲み取った内容」(中西・経団連会長)と手放しで評価するのも当然である。

国民生活支援は不十分
 厚労省のまとめでさえ、すでに一万人以上の労働者が、コロナ危機を口実に解雇や雇い止めに遭った。二〇年の企業の倒産や休業・廃業は、六万件を超えるとも予想されている。雇用危機は、これからが「本番」である。
 補正予算はこの事態に対応できるものなのか。
 事業者向けでは、四千五百十九億円を計上し、雇用調整助成金を日額一万五千円、月額三十三万円まで引き上げる。これは、第一次での金額(一日八千三百三十円、フリーランスは四千百円)よりは増えている。
 雇用調整助成金は「雇用確保」を目的にしてはいるが、企業が申請しなければ支給されない。この根本的問題には、何ら手が付けられていない。東日本大震災の時のように、「みなし失業手当」を支給すべきなのである。
 また、中小事業者に対する家賃支援制度が新設(二兆二百四十二億円)される。だが、五月を起点に「三カ月連続での減収」を要件とし、補助額も家賃の三分の二、上限は法人三百万円、個人事業者百五十万円(複数店舗を持つ事業者はそれぞれ倍額)にとどまる。これでは、八月にならないと支給されないし、テナント料の高い都市部に店舗を構える事業所では圧倒的に足りない。「明日の家賃」を切望する事業者を見捨てることになる。
 児童扶養手当を受けている一人親世帯に対する、五万円の臨時特別給付金(子どもが一人増えるごとに三万円加算)の支給も打ち出されている。
 ある経済アナリストは、九月までの間に国内総生産(GDP)の六割以上を占める個人消費が大きく落ち込むと予想する。これを補うには約四十三兆円の支援が必要だが、家計向けの支援は、第一次と合わせても十五兆三千億円程度で、必要額の半分以下しかない。
 しかも、各種施策の実行が遅いという問題もある。一人十万円の定額給付金や、売上が減った事業者向けの持続化給付金の給付遅れも、都市部を中心に解消されていない。
 本来、定額給付金の速やかな追加給付こそ、第一に行わなければならない。
 これで、国民生活を再生することは不可能である。

医療支援なども不十分
 今後の感染症拡大に対処する上できわめて重要なのは、医療機関への支援である。「緊急包括支援交付金」など二兆二千三百七十億円を計上したことは、第一次の一千四百九十億円から大幅増ではある。用途は、コロナ対応を行う医療・介護従事者への上限二十万円の支給、コロナ患者受け入れのための「空床確保料」補償などである。
 だが、日本医師会が求めた七兆五千億円規模からすれば、三分の一にしかならない。コロナ患者を受け入れていない医療機関への支援は、消毒費用などのみだ。
 すでに全国で経営危機に陥る病院が続出、職員への賃金引き下げが始まっている。東京では、四割も賃金を引き下げた病院もある。「空床確保料」も、検査などを行えばすぐに足りなくなる。
 PCR検査体制の強化には六百二十二億円を盛り込み、検査センターを現状の百十カ所から二百カ所に増やす。それでも、人口当たりの検査件数は、ドイツや韓国などに遠く及ばない。
 この程度の交付金では、医療の充実は図れない。
 横倉・日本医師会会長は、「ここ四〜五年の、経済効率主体で考え、病床を減らしていこうという動き」は「大きな感染症が計算に入っていなかった」と指摘している。もっともな意見である。政府、自治体は、これまで続けてきた公立病院の統廃合や病床削減、医師数抑制政策を完全に撤回し、医療体制の充実にカジを切るべきである。同じく、減らされ続けてきた保健所の増設、人員増も図らなければならない。
 このほか、新型コロナウイルスへのワクチン開発費として五百億円を盛り込み、第一次補正の百億円に積みます。実用化のための体制整備にも、一千四百五十五億円を計上した。

学校支援策も非常に少額
 学校への支援策では、三百十八億円を計上して教員の加配が打ち出された。だが、人員はわずか三千百人で、全国小中学校の一〇%以下しかカバーされない。これでは、一斉休校に伴う勉強の遅れや感染症対策など、学校現場で求められている課題を実行できない。
 一部の学生に対する授業料の半額化も盛り込まれたが、対象があまりに狭い。「コロナ前」から、多数の学生がアルバイトを強いられ、卒業後も奨学金負担に苦しんでいる。一律半額化や免除など、思い切った手立てが必要である。
 芸術関係者への支援策は総額五百六十億円を計上したが、一回のイベントで数百万円以上が動く業界の特殊性からすると、これもきわめて不十分である。
 地方自治体への「地方創生臨時交付金」は二兆二千三百七十円増額されるが、これも、地方の医療事情を好転させられるかどうか。

企業への資金支援が中心
 他方、企業に対する支援、とくに融資は比較的手厚く用意された。企業支援のすべてが悪いわけではないが、全体に比して金額が大きい上に、中小零細企業を守り、労働者の賃金と雇用を守ることにつながるかどうかという問題がある。
 内容は、政府系・民間金融機関を通じた実質無利子・無担保融資六十兆円超、企業を資本支援する劣後ローンや出資枠に約十二兆円、金融機関への公的資金注入枠十五兆円などだ。
 ただ、政府が思い描くように、民間銀行が資金を融資するかはどうか分からない。低金利下、地方銀行の大部分は経営難に陥っている。この状態で、中小零細企業に「温情をかける」ほどにかれらが「甘く」ないことは、二〇〇〇年代初頭の無慈悲な不良債権処理を経験した事業者はよく知っている。「それならば」と、自主廃業を選んでしまうのではないか。
 中小零細企業を助けるには、「カネを出す」だけでは不十分なのである。
 また、劣後ローンを含む資本注入も行うというが、政府系金融機関といえどもリスク管理を行わなければならない。融資対象が金融機関ならともかく、そのようなノウハウがあるのかどうか。制度はつくっても「魂入れず」になる可能性が高いものだ。

執行と予備費の問題も
 予備費の問題も指摘したい。
 第二次補正予算の「真水」部分の約三分の一、十兆円が予備費として計上されている。本来、予備費は災害などに備える資金で、使い道を定めないものだが、支出には国会の事後承諾が必要である(憲法第八十七条)。ただ、国会の承諾が得られない場合でも、支出自身は有効である。事実上、安倍政権は十兆円もの資金を、国会の了解抜きに使えることになる。
 二〇年度本予算(当初予算)でも、予備費は五千億円であった。本補正予算の異常ぶりが分かる。
 公文書偽造に続き、専門家会議の議事録さえ作成しないなど、デタラメな政治を続けてきた安倍政権にこのようなフリーハンドを与えることは、財政民主主義の観点からも許されないことである。
 予算執行の仕組みも問題である。
 持続化給付金をめぐっては、中小企業庁から業務委託を受けた「サービスデザイン推進協議会」が、広告大手の電通、さらに人材派遣のパソナ、IT(情報技術)のトランスコスモスに再委託・外注していることが明らかになった。同協議会はこの三社の関与で設立された経過がある。
 「中小企業支援」をうたった予算の一部が、こうした経路で大企業に流れているのである。まさに血税を使った、大企業による「お手盛り」である。
 野党は、定額給付金の早期実行を理由に、第一次補正予算に賛成した。この際、自治体向け交付金増額(五兆円)や家賃支援(五兆円)などの独自案を取り下げている。第二次補正予算案も、この独自案にさえ満たない金額である。野党の態度が問われる。
 コロナ禍から生活と営業を再生させるため、国民諸階層が要求を掲げて闘い、政府に迫ることが求められている。(K)


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