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2020年5月25日号 1面

「外交青書」/
台湾問題で中国敵視強める

「日中共同声明」の立場守れ
軍事大国化の道を許すな

 安倍政権は五月十九日、二〇二〇年版「外交青書」(青書)を閣議決定した。
 外交青書は、政府が自国の外交状況や見通し、国際情勢などに関する認識をまとめたもので、一九五七年から発行されている。
 本青書では、日本を取り巻く情勢を「一層厳しさと不確実性を増している」とし、「国際社会におけるパワーバランスの変化」「グローバル化の急速な進展への反動」「一方的な現状変更の試み」などを列挙、「六つの重点分野」を掲げている。
 その第一が、「日本外交の基軸」としての日米同盟である。
 青書は、米国との関係について「史上かつてなく強固」と、昨年の表現に「史上」を付け加えている。だが実態は、一月に発効した不平等な日米貿易協定や武器購入要求をはじめ、米国の対日要求に際限はない。日米関係は「強固」どころか、きわめて危うい。
 コロナ禍のなか、米国の対中攻勢はいちだんと激化している(2面参照)。青書は、米中の経済関係について「日本のみならず、世界全体の持続的な経済成長に直結」と記載、深刻なジレンマを表明せざるを得ないのである。
  *  *  *  
 今年度の青書の最大の特徴は、台湾に対する記述を増やし、中国に対する敵視を強化していることだ。
 今青書では、台湾を初めて「極めて重要なパートナー」と位置付けた。記述分量も、前年度版で約半ページほどだったものを約一ページに倍増させた。
 とくに、国際問題となっている世界保健機関(WHO)総会への台湾のオブザーバー参加を「一貫して支持してきている」と、新たに明記した。
 WHOは一七年以降、台湾のオブザーバー参加を招致していない。
 新型コロナウイルスが世界的大流行(パンデミック)となるなか、台湾は比較的早期に感染拡大を抑え込んだとされる。
 トランプ米政権はこれを「好機」とばかり、WHOへの台湾の参加をあおり、返す刀で中国の対応をなじっている。「武漢ウイルス」というレッテル張りに続き、通信大手ファーウェイ(華為技術)への制裁強化、台湾外交支援法やウイグル「人権」法、台湾海峡への軍艦派遣など、中国への敵視を強めている。
 今青書の内容については、政府関係者の「安倍政権で台湾を重視してきた延長線上」というコメントも報じられている。
 台湾に対する記述は、徐々に増加してきた。安倍政権成立前までの「重要な地域」という表現は、第二次安倍政権の発足とともに「重要なパートナー」(一三年度版)となり、一五年度版からは「基本的価値を共有」「大切な友人」という表現が加わった。それが今回、「極めて重要なパートナー」へと繰り上がったわけである。
 安倍首相は一月の施政方針演説でも、東京五輪に言及する文脈で台湾の名前を挙げている。首相の施政方針演説での言及も、〇六年以来である。
 コロナ禍下で開かれた自民党外交調査会・外交部会役員会では、「台湾にもっとしっかりページを割くべき」との意見があがり、これが今回の記述につながったという報道もある。
 「日中共同声明」(一九七二年)では、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」とし、「日本国政府は、(台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとする)この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると明記している。
 安倍政権、与党の態度は、この声明など、日中関係を定めた基本的合意に真っ向から反する。
 その対中関係では、青書は「新時代の成熟した日中関係を構築」などと、安倍首相と習近平国家主席との間での合意を盛り込んだ。
 だが台湾問題で、「日中共同声明」に反する安倍政権では、中国、ひいてはアジア諸国との共生・繁栄する関係など築けない。
 青書は、日中関係が「地域と世界の平和と繁栄に、共に大きな責任を有している」とも記述している。もし、政府がそう考えるのであれば、中国に一方的に「責任」を求めるだけでなく、自らがアジアに対する侵略戦争と植民地支配の事実を認め、深く反省し、必要な補償も行うべきなのである。「日中共同声明」などを誠実に履行しなければならない。アジアに紛争の種を撒く米国と手を切り、多国籍企業のための政治軍事大国化の策動を止めるべきなのである。
 その他の国々に対する認識、態度はどうか。
 ロシアには、昨年度版で消えていた「北方四島は日本に帰属する」という文言を「我が国が主権を有する島々」という形で「復活」させた。昨年度版への批判を考慮したのであろう。安倍政権はロシアにおもねり、事実上の二島返還にかじを切っている。「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」との基本方針を記述してはいるが、四島の帰属をあいまいにさせたまま条約締結を持ち出すことは、民族の利益を売り渡すものである。
 韓国には、一八、一九年度版で消えていた「重要な隣国」との表現を復活させた。一九年十月の所信表明演説での表現を引き継いだが、一七年版まであった「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」というところまでは戻っていない。
 これは、従軍慰安婦や元徴用工問題、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了通告など、日韓関係の悪化が背景にある。青書では、「韓国側による否定的な動きは止まらず」と、関係悪化の責任を韓国側に押し付けている。
 しかも、昨年度の青書以来、従軍慰安婦問題に関して「『性奴隷』という表現は、事実に反する」という歴史をわい曲する記述を加え、今年度も維持している。元徴用工(強制連行した労働者)についても、一八年度版までの「旧民間人徴用工」から「旧朝鮮半島出身労働者」に変え、「徴用された方ではない」(河野外相)とする歴史の事実を隠ぺいする安倍政権の立場を鮮明にさせている。
 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対しては、安倍政権が孤立し、拉致問題などの解決もおぼつかない事情は変わっていない。この点から、昨年度に続き、「圧力を最大限まで高めていく」との表現を削除する点が維持された。だが、朝鮮の国内問題であるミサイル開発について、「国際社会に対する深刻な挑戦」と、すでに破綻した敵視政策を、性懲(こ)りもなくあおり立てている。
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 安倍政権はアジアと敵対する政治軍事大国化の道に踏み出した。中国に単独で対処できないため、米国の尻馬に乗って対抗している。それでも、米国の対中国攻勢はすさまじく、中国を重要なバリューチェーン(価値連鎖)としているわが国多国籍大企業は深刻なジレンマに陥っている。「新時代の日中関係」は、その矛盾の反映である。
 安倍政権と闘い、アジアの共生の道に踏み出さなければならない。(K)


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