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2020年5月15日号 2面・解説

小池都知事、吉村府知事ら

支配層の危機救う国民の敵

 安倍政権による、新型コロナウイルス感染症対策の体たらくぶりを前に、国民の一部に、小池・東京都知事や吉村・大阪府知事らに対する「期待」が広がっている。かれらは「大阪方式」などで耳目を集め、マスコミはこうした世論をあおり立てている。だが、これら首長に幻想は抱けず、怒りと打倒の対象である。かれら自治体当局が行ってきた、住民無視の政策を再確認しておくことが重要である。
 吉村、小池両知事らは、二月に独自に「緊急事態宣言」を行った鈴木・北海道知事らとともに、事実上、政府による緊急事態宣言を先導した。財界が長年求めてきた、学校の「九月入学」論議も主導した。
 これらの知事は、コロナ禍を口実に、わが国を一挙につくり変える「露払い役」を買って出ている。
 これは、国民大多数の利益になるものではない。
 その証拠に、小池、吉村、これに先立つ改革派知事らは、感染症対策の拠点となるべき保健所や公立病院の合理化、民間移行などを推し進めてきた。

保健所の削減・合理化
 まず、保健所について取り上げる。
 戦後の保健所は、保健所法改正(一九四七年)によって設立された。公衆衛生活動の中心的機関として、地域住民の生活と健康に重要な役割を担っている。都道府県、政令市、中核市、特別区、その他指定された市が設置する。
 現在、新型コロナウイルスへの感染を確認するためのPCR検査の実施数が著しく少ない大きな原因の一つは、保健所(帰国者・接触者相談センター)の業務過多である。
 これは、歴代政府と、それに追随した自治体当局の責任である。
 九四年、政府は「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律」、九七年には地域保険法を施行した。これによって、母子健康事業などが市町村に移管されるとともに、それまで約十万人に一カ所としてきた保健所の所管区域が「見直され」た。
 併せて「財政再建」を口実に、二〇〇〇年代以降、保健所数の削減が各地で進められた。保健所と福祉事務所などが統合される合理化も、一九九三年の広島県を皮切りに加速した。保健所が「保健福祉センター」などの名称と併記になっているのはこのためである。
 現在、全国の都道府県立保健所のうち、単独保健所は約四分の一にすぎない。
 公務員削減と市町村合併(平成の大合併)、地方交付税の削減も、保健所廃止・合理化の流れを加速させた。
 こうして、全国の保健所の数は、九四年の八百四十七カ所から、四百六十九カ所(二〇二〇年)へと半分近くまでに減少した。複数の保健所を持つ政令市・特別区は、福岡市しかない。公衆衛生医師がいない保健所さえある。
 このような状態で、新型コロナ対策に取り組めるはずもないのである。

公立病院も減らされた
 もう一つ、自治体(公立)病院を取り上げる。
 公立病院は、地域における感染症対策の「拠点」である。公立だからこそ、「平時」には過剰とされがちな感染症対策の設備を維持でき、職員も公務員としての地位が確保されるからこそ、危険な感染症対策にも取り組めるのである。現在、感染症指定病院の約八割が公立病院である。
 「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権下の〇二年、自民党は「病院の機能・役割などを見直し、経営の効率化を図る」などとする提言をまとめた。総務省も〇四年、人口減などを口実に、「事業統合」など合理化を打ち出した。
 保健所と同様、地方交付税の削減や自治体合併などがこれを加速させた。
 安倍政権はこの流れをいちだんと強化した。医療費削減を目的に、一五年に「地域医療構想策定ガイドライン」をまとめ、公立病院の統廃合と病床削減などを押し付けてきた。厚労省は昨年九月、全国四百二十四(公立病院の約三割)の病院名を名指しして「再編」を迫った。名前を挙げられた病院の感染症病床数は、七百近くにも達する。
 多くの自治体当局は、安倍政権に追随し、公立病院に病床削減などを押し付け、再編計画を進めた。自治体病院の民営化や独立行政法人化、病床削減が急速に進んだ。
 公立病院は〇四年には一千を超え、病床数も約二十五万四千あった。だが一八年には約八百五十(約十九万病床)に減り、地方独立行政法人の病院が約百(約三万五千病床)となった。
 このほか、都道府県と政令市が設置する地方衛生研究所・養成所の職員数も、〇五年には全国で五千三百人以上いたが、一九年には四千百人程度まで削減されている。平均予算額も、〇四年の約五億八千万円から、一三年には約四億円まで減っている。地方衛生研は、現局面ではPCR検査を担う主力の存在だが、この状況である。
 国立感染症研究所の人員・予算も、削減され続けた。医師不足の状況もつくられた。
 「コロナ前」から、地方は「医療崩壊」に追い詰められていたのである。

大合理化した大阪
 吉村知事や小池知事らは、安倍政権を「批判」するかのような態度で支持をかすめ取っている。かれらが行ってきたことの実態はどうか。
 大阪府では、太田府政時代の〇〇年、府内合計二十八カ所あった保健所を十四カ所に半減させた。二百六十万人以上の人口を抱える大阪市でも、二十四カ所あった保健所が統合され、一カ所しかないという驚くべき状態である。〇六年には、府立病院(急性期・総合医療センター)が独立行政法人化され、翌年には府立身障者福祉センター附属病院と統合された。
 橋下・維新府政も改革をより強力に進め、救命救急センター関連予算を大幅に削減した。維新府・市政はこの二月、公衆衛生研究所(地方衛生研究所に相当)と大阪市立環境科学研究所などの一部機能を統合、独法化させた。
 中小企業対策も後退させた。橋下府政は一四年、「二重行政の是正」を口実に、中小企業の債務保証を行う大阪市の信用保証協会を廃止し、大阪府に一本化させた。大阪市は、他の大都市と比べても、中小事業所・従業員数の減少が著しい。その中での保証協会一本化と人員削減であり、コロナ禍が襲うこんにち、中小企業の融資相談窓口はますます狭まっている。
 まさに、府民の命と健康を顧みない政治である。
 橋下元大阪府知事は、今さらのように「(自分の府政下における改革が)現場を疲弊させているところがある」などと述べたが、反省にさえなっていない。

五輪優先した小池都知事
 東京では、青島都政、さらに石原都政下で、保健所の大合理化が強行された。
 一九九七年に特別区に五十三カ所、多摩・島しょ部に十八カ所、計七十一カ所あった保健所は、二〇〇四年までに特別区二十三カ所、多摩・島しょ部八カ所にまで減らされた。二十三区では、〇二年までに「各区一保健所」となった。人口九十万人以上の世田谷区、七十万人以上の大田区(鳥取県や島根県よりも多い)にも、各一カ所しかない。十四カ所あった保健相談所は全廃された。
 都立病院も統廃合された。石原都政下、都立三小児病院が一〇年に廃止、府中市の「小児総合医療センター」に統合された。
 小池知事は、コロナ禍で都民に「外出自粛」を強いるさなかの今年三月、八カ所ある都立病院・医療センターを独法化させる予算を可決させた。
 付け加えれば、東京におけるPCR検査のハードルは高く、陽性の「自宅待機者」も六百人を超え、家庭内感染が急増している。PCR検査の陽性率も、最近まで発表しなかった。
 何より、他の知事が三月中旬、厚労省からのデータを元に「外出自粛」を呼びかけるなか、小池知事はまったく無策であった。知事は三月二十五日に、突如態度をひょう変させ、「感染爆発(オーバーシュート)の重大局面」などと危機をあおり立てた。
 会見前日に延期が決まった、東京五輪への影響を恐れたことは確実である。「都民の命よりも五輪」という姿勢は鮮明なのだ。
 聞こえの良い知事のパフォーマンスと裏腹に、都民の命は危険にさらされ続けているのである。
 「強力なリーダーシップ」などと粋がる吉村知事(維新)、小池知事(都民ファースト)だが、住民の命と健康を守らぬ歴代自治体政治を引き継ぎ、その方向をより強化している。

わが国支配層の狙い
 これら知事が進めた保健所や自治体病院の合理化は、わが国支配層が政治に求めている、財政再建と大国化という狙いにそったものである。財界が「強い日本」を掲げる安倍政権を支えているのも同様の狙いである。危機の深まりと「ポスト安倍」を見越して、維新勢力や小池都知事らを後押ししているのである。
 かれらはことあるごとに、罰則を伴う外出禁止措置など、より強権を振るえる特措法改悪を主張している。かれらは、「緊急事態条項」創設による憲法改悪を主張する、安倍政権の別働隊である。
 かれらが行う休業補償なども非常に不十分である。
 典型はパチンコ店である。一方的に休業を求めつつ、膨大な維持費がかかる事情は考慮されない。店が「要請」に従えないのは当然である。吉村・小池知事らは、パチンコ店をスケープゴートにして強権を振るおうとしている。
 そもそも、吉村知事はパチンコ店をやり玉に挙げつつ、他方で、よりギャンブル性の強いカジノを推進している。自己矛盾も甚だしいといわねばならない。
 「医療崩壊」といわれる現状は、歴代政府と改革派知事らの責任である。
 このような首長、勢力を打ち破り、住民大多数のための都道府県政を実現しなければならない。(K)


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