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2020年4月15日号 2面・解説

安倍政権/
新型コロナで緊急経済対策


遅く少額!国民の苦難救えぬ

 政府は四月七日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策を決めた。財政支出は三十九兆五千億円、事業規模は過去最大の百八兆円となる。全世界、そしてわが国の経済活動が急速に停止・後退するなかにもかかわらず、対策はきわめて不十分で、また遅すぎる。国民大多数の命と健康、生活を守る緊急経済対策こそ、求められている。


 安倍政権は、緊急経済対策を「過去最大」という。だが、後に納付される税や社会保険料の猶予分(約二十六兆円)を含み、その分「かさ上げ」されている。
 財政支出のうち、一般会計からの支出は十六兆八千億円しかない。
 内訳は、政府系金融機関などによる企業の資金繰り対策が四十五兆円と、事業規模(百八兆円)の半分近くを占めている。一方、国民への給付は総額でわずかに約六兆円である。

2つの段階、「5つの柱」
 経済対策は「基本的な考え方」として、次の二つの段階を想定している。
 第一は「緊急支援フェーズ」として、感染症拡大の収束にメドがつくまでの期間である。第二は「V字回復フェーズ」とされ、収束後の反転攻勢に向けた需要喚起と社会変革の推進を行う期間とされている。
 これを前提に、対策は「五つの柱」を設けた。
 第一に、「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」である。クラスター(小規模な感染集団)対策の抜本強化、感染者の急増化に備えた重症者の医療に重点を置く医療提供体制の早急な整備などが掲げられている。
 第二に、「雇用の維持と事業の継続のための支援の更なる強化」である。ここで、「目玉」の給付金交付などがあげられている。
 第三に、「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」である。収束後の経済の「V字回復」のため反転攻勢を仕掛けるという。ここで、観光・運輸業、飲食業などへの大規模支援策を行うという。
 第四に、「将来を見据えた強靱(きょうじん)な経済構造の構築」である。生産拠点の国内回帰やサプライチェーンの多元化、テレワークや遠隔診療・服薬指導などを掲げている。
 第五に「今後への備え」として、予備費創設による継続的対策を行うという。

思惑外れることは必至
 経済対策にあらわれているのは、感染拡大の現実に対する甘い認識である。
 新型コロナウイルスへの感染者は、国内だけですでに七千人を超え、死者も百五十人に迫っている(四月十三日現在、クルーズ船乗員・乗客を除く)。これは、感染者・死者数ともに四月一日の約二倍に達する。急速な増大である。
 しかも、感染者を判別するためのPCR検査はわずか七万五千件で、韓国での検査数三十万人以上、ドイツの十六万人以上と比較しても、著しく少ない。
 政府は当初から、「感染者の約八割が無症状か軽症」であることを理由に、意図的に検査数を抑えてきた。だが、このウイルスは、無症状・軽症であっても他者に感染させる。政府が検査を怠る間に、「無症候性キャリア」による感染拡大が起きているのである。死者へのPCR検査は行われてないため、単に「肺炎による死亡」と処理されている未確認の感染者が多いと想定される。
 それは、小池・東京都知事が「外出自粛」を呼びかけ、実際に繁華街での人手などで一定の「効果」があったにもかかわらず、感染者数が増え続けていることに明らかである。
 政府は入国規制などの初動対策においても諸外国に出遅れ、「ダイヤモンド・プリンセス」の検疫は完全に失敗、逆に感染者を増やす結果となった。
 緊急対策を行うのであれば、こうした政策の誤りを認めるところから始めるべきだ。併せて、PCR検査を抜本的に強化することである。本来、感染者数の調査なしに、政策を立てるはずもないのである。安倍政権は今になって、韓国に倣(なら)った「ドライブスルー」による検査に言及し始めた。
 感染爆発を強硬措置で抑え込んだ中国、医療崩壊を引き起こしたイタリアや米国の事例は悲劇だが、逆に、感染拡大のピークと収束は見通しやすい。だが、わが国では、収束したかに思われる状況になったとしても、膨大な「無症候性キャリア」はそのままなので、再度の「感染爆発」が起こる可能性が高い。
 現に、独自の「非常事態宣言」でいったん落ち着いたかに見られた北海道での感染者は、再び増大傾向となっている。
 緊急事態宣言の期限である五月初旬で感染者の拡大が落ち着く保証はない。一時的落ち着きも、次の「感染爆発」までのつかの間のこととなる可能性が高い。
 政府のいう「メドがつく」のがいつになるかは予想し難く、展望がないのが実態である。

給付は少額、しかも遅い
 誤った認識の上に立つ政策は、必然的に、不十分なものとならざるを得ない。
 緊急経済対策のうち、国民にとってもっとも重要なのは、当面の生活保障のための施策である。
 目玉の「三十万円給付」は、条件が厳しく、全国五千八百万世帯のうち一千三百万世帯、二割程度しか対象にならない。中小企業(最大二百万円)・個人事業者(最大百万円)に対する給付も、現実にはその二〇〜二五%程度しか対象にならないとされる。
 しかも、支給されるのは五〜六月で、国民諸階層の「明日をも知れぬ」状況を救うには遅い。国民に休業や「外出自粛」を求めるのなら、それにふさわしい補償が必須である。だが、安倍政権は「難しい」というのみである。
 感染拡大防止のための医療提供体制の整備は、わずか八千億円である。
 さらに、「全世帯にマスク二枚」は、布製マスクの有効性への疑問もあり、国民を愚弄(ぐろう)するものである。
 このほか、「緊急包括支援交付金」の創設も掲げられている。休業する店舗などへの「協力金」にあてることを認めるという報道もあるが、詳細は不明である。
 これでは、「医療崩壊」を防ぐことはできないし、国民生活を守ることも不可能である。

高まる安倍政権への批判
 安倍政権による「見かけ倒し」の対策に対して、各所から批判の声が高まっている。
 全国知事会は、事業者への損失補償を求めるなどの「緊急提言」発表した。提言は、休業に伴う営業損失についての補償を求め、必要に応じた給付金の複数回給付、医療体制における空床確保のための国庫補助などを求めている。
 自民党若手議員でさえ、緊急経済対策を「対策の名に値しない」と言うほどである。
 英国では、労働者、小規模事業者、フリーランスを問わず、最大毎月二千五百ポンド(約三十三万円)まで所得を補償する。ドイツは、五人以下の事業者に三カ月で最大 百八万円を給付する。
 シンガポールでは、政府が賃金の最大七五%を九カ月間、雇用主に支給することを決めている。中国・香港でも、労働者を解雇しないことを条件に、従業員一人当たり最大十二万六千円を六カ月間補助する。
 安倍政権の対応はあまりに遅く、しかも少額で不公平ある。

深刻化する国民生活
 全国で「コロナ倒産」が相次いでいる。東京商工リサーチによると、四月十日までの「コロナ関連」の経営破綻は二十八都道府県五十一件に達した。宿泊業と飲食業で全体の四割近い。これとて「氷山の一角」である。営業「自粛」を機に、廃業を決めた零細商店も数多ある。
 「コロナ禍」を口実に、大企業は労働者への解雇や雇い止め、待遇悪化の攻撃を加速させている。三月末までに解雇・雇い止めされた労働者は全国で一千二十一人に達する。
 東京都でタクシー事業を展開するロイヤルリムジンは、約六百人の労働者を解雇することを発表した。長崎県のハウステンボスも、二十人以上の派遣社員との契約を打ち切った。
 一時帰休も広がっている。自動車大手・マツダは二県の工場で一時帰休を決めた。ANA(全日空)も、六千四百人の客室乗務員に一時帰休を行う。
 外食大手のサイゼリヤは、一日当たり八千三百三十円を上限とする「小学校休業等対応助成金」を申請せず、パート労働者に二千円程度の「特別休暇制」で済ませようとしている。
 まさに、安倍政権の対策の圧倒的不十分さ、遅さを示すに十分ではないか。
 安倍政権はこうした実情に何らの反省もないまま、憲法審査会において、緊急事態条項をめぐる改憲論議を呼びかけた。危機を悪用して改憲を進めようというもので、断じて許し難い。
 国民のための対策は、安倍政権を倒してこそ可能となる。(K)


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