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2020年3月25日号 2面・解説

新型コロナ拡大の影響・経済

リーマン危機以上の衝撃不可避

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、世界資本主義の危機をいちだんと深刻化させている。マスコミなども「リーマン・ショック時と同等」と認めざるを得ない程だが、この評価も適切ではない。新型コロナ恐慌は、資本主義という生産様式自身の移行を促進させるに違いない。


 いくつかのマスコミが「新型コロナ恐慌」という現在の危機は、経済・政治の両面で世界を揺さぶっている。今回は、世界経済への影響について述べる。ただ、事態は進行中であり、「この時点で」の評価であることは言うまでもない。

対応に大わらわの支配層
 コロナウイルスの感染拡大を防止するため、各国支配層は対応に大わらわとなっている。外出制限や都市封鎖だけでなく、欧州を中心に約三十の国・地域が非常事態や緊急事態を宣言する重大な危機である。
 経済政策においても、米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利政策と量的緩和(QE)政策を再開、欧州中央銀行(ECB)は銀行に対するマイナス金利での長期資金供給オペを打ち出した。日銀もETF(上場投資信託)の買い入れ枠を倍増させるなどの追加緩和策を打ち出した。それでも、金融市場のパニックは収まらず、工場の生産停止などで実体経済はますます冷え込んでいる。
 金融政策に続き、各国は大規模な財政出動で危機を救おうとしている。
 米トランプ政権では、個人へ現金給付を含め、一兆ドル(約百八兆円)もの財政出動を準備している。

危機が始まった順序
 リーマン・ショックと比較される今回の事態だが、違いもある。
 まず、金融危機に始まって実体経済に波及しリーマン・ショックに対し、今回の危機は、移動の停止、需要の喪失など実体経済への打撃の深刻さと先行き不透明さが、時を置かずに金融市場を混乱に陥れていることである。
 当時の金融資本は短期資金に頼り、それをサブプライムローンなど怪しい債券に大量に投資していた。住宅バブルが弾けたことを契機に、金融システム全体が崩壊した。中小企業は資金ショートに追い込まれて倒産が続出、膨大な労働者が放り出された。
 大銀行は、金融緩和政策によって大儲(もう)けし、経営状態はリーマン時ほどに悪化してはいない。だが、金融機関が保有する国債や株式の価値が大きく下落すれば、銀行経営も無事では済まない。実体経済の悪化で不良債権が増加しても同じである。この下で、大銀行が中小企業への融資を継続・拡大させる保証はない。
 リーマン・ショック当時とは違いもあるが、金融危機が起きない保証はない。

危機への耐性はぜい弱に
 第二に、リーマン・ショック以前と比べ、こんにちの世界経済の成長は大きく鈍化している。さらに、中国が購買力平価の国内総生産(GDP)で世界一位になるなど、大国間の力関係も大きく変化している。たとえば不動産バブルを基礎にしていたとしても、世界経済が五%を超える成長を実現していたときと、三%程度のこんにちとでは、環境が異なる。
 第三に、リーマン・ショック以降の経過の結果として、世界で官民の債務が異常に積み上がっていることである。
 先進諸国を中心に、政府債務はリーマン・ショック前は約四八%(経済協力開発機構・OECD加盟国平均)であったが、現在は七一%を超えている。とくに日本は、官民の総債務はGDPの四〇〇%を超えている。とくに、政府債務は一千百兆円を超え、GDPの約二四〇%で先進国中最悪である。  民間(企業と家計)債務も増大した。十年にわたる金融緩和政策、低金利を背景に、多くの大手企業が借り入れを増やした。家計も、賃金が増加しない分をクレジット払いによる消費で埋め合わせることを余儀なくされ、債務を増大させた。民間債務は先進国・新興国を問わずに拡大、中国のように近年になって急拡大し、GDPの二〇〇%を超える国もある。  政府も民間も、経済危機に対する耐性がぜい弱になっている。とくに政府債務の増大は、財政政策を大きく制約している。

余力なく「救世主」もなし
 第四に、各国中央銀行の金融緩和政策に余力がないことである。コロナ危機が始まった時点で、すでに先進諸国の政策金利は「ゼロ近辺」かマイナスだった。リーマン・ショック後、大量の国債などを買い入れた結果、資産規模は空前のものとなっている。日銀は、市場国債の半分近くを保有、上場企業の多くの「筆頭株主」となっている。
 この下では、各国が金融緩和政策を打とうにも、とり得る手段は限られるのである。すでに打ち出した金融緩和にはインパクトがなく、効果もない。
 第五に、中国が感染拡大地となった影響である。リーマン・ショック後、中国は四兆元(約五十三兆円)の経済対策を行って世界の需要を吸い込んだ。こんにち中国のような余力ある国は存在せず、世界経済に「救世主」は存在しない。
 中国は、強硬な「封じ込め策」で感染拡大をくい止め、生産活動も再開させつつある。だが、中国経済が世界の市場を前提にしている以上、米欧の経済再建なしに、中国経済の回復もあり得ない。
 また、リーマン・ショック後に先進諸国からの資金流入で経済成長を実現した、ブラジルなどの新興諸国も、現在は投資が増えるどころか、むしろ資金が流出して通貨安に襲われている。ブラジル・レアルは年初から一三%以上下落し、チリ・ペソや南アフリカ・ランドも大きく下げた。需要減退による原油価格など資源価格全般の低迷、観光収益の大幅減少が、新興諸国の経常収支をさらに悪化させさせている。
 すでにレバノンが債務不履行(デフォルト)を表明、アルゼンチンも瀬戸際にある。衛生状態が十分でない新興諸国での感染拡大は、デフォルトの連鎖となりかねない。

展望が見えない危機
 第六に、二十カ国・地域(G20)による国際協調が崩れ、米国を筆頭に、各国が「自国第一」の態度を強めていることである。
 この点は政治の要素が大きいが、経済政策でも見られる。米欧日の金融当局は、それぞれの緩和政策において、そのタイミングも内容も、共同歩調を取ることができていない。北欧最大の資産運用会社「ノルデア」のアナリストは、「ECBがマイナス金利の深掘りをしなかったという事実は、米国と欧州連合(EU)間の協調が全くないことを物語っている」と述べている。
 その他、今回は指摘するにとどめる。「感染源」をめぐる米国の中国非難、治療薬開発メーカーをめぐる米国とドイツの対立など、人類的危機にもかかわらず、各国は協調どころではない。これも、危機を促進する要因として働く。
 最後に、そして最大の特徴といえるのは、コロナ危機の「先が見えない」ことである。感染拡大のピークアウトがいつになるのか、まったく分からない。「夏になれば落ち着く」という希望的観測があるが、ウイルスが変異を遂げて毒性が強まる可能性もある。各国政府は「兵力の逐次投入」に追い込まれかねない。
 これに対して、リーマン・ショック時は、金融機関の損失規模が判明すれば、各国政府は救済策をとることができた。
 新型コロナ危機は、リーマン・ショックよりも甚大なものとなろう。
 安倍政権の対応は完全に後手に回っている。仮にコロナ危機が来年初頭まで続くと、個人消費の落ち込みは東日本大震災当時の約五倍の十二兆一千億円に及び、GDPは十六兆三千億円(三・一%)も減少すると試算されている。
 だが、日銀の追加緩和策、さらに政府の対策も、ほとんどは大銀行・大企業への支援策で、国民は苦難のなかに放置されている。
 日本に忍び寄っているのが、国債の信認低下の問題である。株価が下落するなか、従来なら「安全資産」として買われるはずの日本国債先物が売られ、円高もさほど進んでいない。また、日本国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)金利は三月に入って二倍以上に高騰(約〇・六%から約一・六%に)、先進国ではイタリアに次ぐ高さとなっている。
 一部の投資家は、これを「『日本売り』の前兆」と危機感を高めている。
 コロナ危機は、歴史的変動期にある世界情勢の変化の速度を加速させ、危機を深刻化させている。  労働者階級が闘いに備え、革命政党を鍛えるべき情勢である。   (K)


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