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2020年3月5日号 1面

新型コロナ対策を転換せよ

 新型コロナウイルスの感染がいちだんと拡大している。感染者は一千二百人(クルーズ船乗客を含む)に達し、すでに「流行」の水準にある。
 危機的事態に際し、政党、政治勢力の態度が問われている。

命を守るため財政大規模出動を
 安倍政権は二月十三日、新型コロナウイルス対策のために決定した財政出動額は、わずか百五十三億円である。首相は二十九日、二〇一九年度予算の予備費(約二千七百億円)の一部を活用した追加対策を表明した。
 仮に計三千億円としても、安倍政権による財政出動はあまりに少なすぎる。
 たとえば、韓国は約一兆四千三百億円、シンガポールは五千五十六億円の財政出動を打ち出している。日本に比して人口が圧倒的に少ない、台湾でも二千二百億円、香港政府でさえ四千二百億円(景気対策でさらに一兆七千億円)の支出を決めた。
 現状の経済への打撃は、リーマン・ショック時に近いとも言われている。それを前提にすれば、当時の麻生政権による財政出動額である十二兆円(いわゆる「真水」部分)は、一定の参考になろう。
 政府は、国民の命を守るため、思い切った財政出動を行わなければならない。

国民、患者への直接給付を行え
 もちろん、「財政を使えば何でもよい」わけではない。
 安倍政権による第一弾の緊急対抗策は、検査体制の強化、研究開発の促進、マスクなどの供給確保、検疫所の機能強化、観光業など中小企業への緊急貸付・保証枠確保、雇用調整助成金の要件緩和などであった。
 だが、これらの対策は遅い上に、ぶざまなほどに失敗している。中小企業への打撃はますます広がり、感染はもはや「検疫」で防げるレベルを超え、マスクなども依然として不足したままである。
 安倍首相は二十九日の会見で、「一斉休校」によって職場を休まざるを得なくなった保護者への新たな助成金(日額八千三百三十円を上限)、学童保育への支援、打撃を受けた事業者への資金繰り支援、病床の確保などを打ち出した。
 だが、これらはほとんど具体性がないものである。この十年間で三割も予算を削減されてきた、国立感染症研究所の抜本的体制充実も行われない。  何より、雇用調整助成金はあくまで「企業を通じた」助成であり、「雇用維持」の名目による企業支援策である。「保護者への新たな助成金」も、中学校・高校生の保護者、自営業者、フリーランスの労働者は除外されている。
 これに対して、韓国の支援額は一日約一万二千円が上限で、働き手が入院・隔離された場合は生活費を公費で支給する。シンガポールでは、二十一歳以上の全国民に八千円〜二万四千円を支給し、五人以上の家族には公共料金を無料としている。香港政府も、十八歳以上の市民に約十四万円の現金支給を決めた。  全国民を対象に、とりわけ患者を有する世帯には手厚く、生活支援のための直接給付を実施すべきである。

医師判断での検査を全面実施せよ
 わが国では諸外国に比して検査が著しく遅れており、クルーズ船への検疫を含めても四千件程度である。ゆえに、現在の感染者数は「氷山の一角」にすぎない。顕在化していない感染者は一〇倍以上いるとする、医療関係者もいる。
 なぜなら、一日に行われているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査数は、厚労省が「四千六百件が可能」としている程度で、現在は四千件にすら達していない。しかもこれは、政府が「可能になった数」としているもので、医療現場の現実は違う。
 実際には、重症化しない限り検査が行われないことがほとんどであることが、さまざまな報道から明らかになっている。二十五日に発表された政府の「基本方針」も、これを追認している。
 正確な感染者数が分からない現状を続ける限り、根拠のある政策を打ち出せるはずもない。
 これに対して韓国では、一日当たり一万五千件近い検査を行っている。日本の医療水準は、それほどに低いのか。それとも政府には、検査を増やしたくない何らかの理由があるのか。
 軽症者を速やかに検査して対処しない限り、感染者は増え続け、他の疾病リスクも高まる。政府は「軽度では原則的に自宅安静」という方針で、事実上、重症化前の患者は医療から排除されている。これは、軽症者や他の疾病に罹患(りかん)した患者を見捨て、命の危険にさらす政策であり、断じて許し難い。  民間検査会社の活用、さらに簡易検査キットの配布などにより、医師の判断に基づきすべての患者への検査を実施しなければならない。

首切り・労働条件悪化を許すな
 新型コロナ肺炎は、「デフレ脱却」もままならず、消費税増税で急ブレーキをかけられた日本経済に、深刻な影響を与えている。
 すでに愛知県の老舗旅館、北海道の食品会社、兵庫県のクルーズ船会社が破産に追い込まれたが、これは「はしり」にすぎない。日産自動車は九州工場での一時操業停止を決定、キヤノンも九州五工場での一時操業停止を決めた。
 こうした悪影響は、短期的なものにとどまらない可能性もある。
 免税店大手ラオックスは百六十人の希望退職を打ち出した。各所で、労働者の一時帰休、非正規労働者への解雇や労働条件悪化が続出している。電通、資生堂、NTTなどの大企業は「好機」とばかり、大規模なテレワーク(在宅勤務)の拡大に踏み出した。
 すでに、企業破産や生産縮小などで、多くの労働者が解雇や自宅待機を強いられている。「感染したら辞めろ」などの退職強要も横行している。
 とくに深刻なのは、非正規労働者である。有給休暇を使えない非正規労働者は、「自宅待機」であっても、とたんに収入の道が絶たれる。正社員にテレワークを推奨しながら、派遣労働者には出勤を強いる理不尽な例も後を絶たない。
 すでに、いくつかの労働組合がホットラインを開設、取り組みが始まっている。わが党はこうした取り組みを支持し、共に闘う。
 首切り、労働条件引き下げなど、感染拡大を口実とした労働者への攻撃を許さず、跳ね返さなければならない。これは、現下の二〇春闘の重要な課題である。

自治体は地域医療を維持せよ
 和歌山県議会、広島県議会、広島市議会などが、地方での検査・医療体制の強化に向けた支援充実、自治体への財政措置などを国に求める意見書・決議案を採択している。
 地方自治体、議会の役割は、国への要求にとどまってはならない。
 すべての自治体に、住民への相談窓口を設置すべきである。
 地域における企業の操業や雇用動向に関心を高め、企業に社会的責任を果たさせなければならない。
 地域医療の中核としての自治体病院の経営安定と人員確保も、国・自治体の責務である。自治体病院は、地域における感染症対策の「拠点施設」だからである。
 多くの自治体当局は、医療費削減をもくろむ安倍政権に追随し、公立病院に病床削減などを押し付け、再編計画を進めた。自治体病院の民営化や独立行政法人化、病床削減計画を中止し、抜本的な充実策をとらなければならない。
 「一斉休校」の影響を受ける学校現場、給食や学童保育などの関連団体・施設での要求と闘いもきわめて重要である。
 自治体は今こそ、住民を守る最前線としての役割を果たさなければならない。

国民放置の安倍政権を打ち倒せ
 日本における新型コロナウイルスの感染拡大は、安倍政権による「人災」である。
 安倍政権は、初動の遅れや見通しの甘さ、「ダイヤモンド・プリンセス」の検疫失敗への反省さえないまま、新型インフル特措法の改悪と「緊急事態宣言」を公言し始めた。
 「緊急事態宣言」は、「感染拡大防止」を口実に、個人の自由や権利を著しく制限することにつながるものである。
 森友・加計学園問題、「桜を見る会」、さらに東京高検検事長の定年延長などの例をあげるまでもなく、強権・腐敗の安倍政権に、国民の権利を制約する権限を与えてはならないのである。
 野党や労働組合は、感染拡大を口実とする「挙国一致」策動に乗せられてはならない。
 安倍政権を打ち倒すことこそ、国民の命と健康を守り、国民生活を再建する早道なのである。
 労働者・労働組合の役割が決定的に重要である。(編集部)


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