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2020年2月15日号 2面・解説

20年度本予算案

 大軍拡の一方で国民生活無視

 安倍政権は、二〇一九年度補正予算案を成立させ、続いて二〇年度本予算案の成立をもくろんでいる。一般会計総額で過去最高の本予算案は、消費税が一〇%に引き上げられた後、初めての予算案である。予算案は、軍事費をまたも過去最高額とし、社会保障制度の改悪を推し進めるなどしている。国民の生活と生業はさらに破壊され、わが国はアジアで孤立することになる。


 二〇年度本予算の一般会計総額は百二兆六千五百八十億円。これは、一九年度当初予算から一兆二千九億円増加し、過去最高額を更新した。
 歳入面では、昨年十月に消費税率を一〇%に引き上げたことが大きく影響し、消費税収は二十一兆円以上と、予算ベースで初めて所得税収を上回る。消費税増税により、国民負担は四兆円も増えた。

軍事費は8年連続増加
 防衛費は五兆三千百三十三億円で、八年連続の増額、六年連続の過去最高額となった。第二次安倍政権の成立以降、毎年の増額である。
 内容は、「いずも」型護衛艦の空母化、宇宙作戦隊の創設に加え、長距離巡航ミサイル、最新戦闘機F35、作戦ヘリコプター「オスプレイ」などの購入、ミサイル迎撃システム(イージス・アショア)の経費計上もある。
 安倍政権は、すでに成立した一九年度補正予算にも、四千二百八十七億円の軍事費を盛り込んだ。この大部分は、F35や空中給油機購入のための、米国への分割払い(有償軍事援助=FMS)の前倒しが大部分を占める。
 これらの軍備拡張は、攻撃的兵器を保有しないとしてきた憲法上の制約さえ、完全に乗り越えるものである。自衛隊は、ますます中国に対抗し、戦争のできるものになる。
 さらに、在日米軍の駐留経費負担(「思いやり」予算)は一千九百九十三億円、沖縄県名護市辺野古の米海兵隊新基地建設など米軍再編関係経費として一千七百九十九億円などがある。
 米軍需産業トランプ政権に多大な奉仕を行う安倍政権だが、その狙いは、単純な対米従属ではない。安倍政権は、中国に対抗して軍事拡大を進めることで、アジアの政治軍事大国として登場することをもくろんでいるのである。
 安倍政権は、一九年度補正予算と二〇年度本予算を合わせて「十五カ月予算」などと称している。確かに、政治軍事大国化のための財政投入には「切れ目がない」のである。

大企業への奉仕の数々
 安倍政権は、消費税増税を前に、総額二十六兆円規模の「経済対策」を打ち出した。
 本予算には、その一部が盛り込まれている。内容は、公共事業の追加や、マイナンバーカード取得者へのポイント付与などが中心である。
 公共事業は、自然災害からの復旧・復興をはじめ不可欠なものがあるとはいえ、「国際戦略コンテナ港湾」など、大企業支援のためのインフラ整備策が含まれている。むろん、大手ゼネコンへの多大な奉仕でもある。「地球温暖化対策に逆行する」として国際的に批判されている石炭火力発電の輸出支援や、展望がない高速炉の開発予算も引き続き計上されている。
 大企業への貢献はこれにとどまらない。オープンイノベーション促進税制(ベンチャー企業への出資に対する減税)や5G(次世代通信規格)の整備などに投資した際の優遇税制の創設もある。中国などに対抗するための大企業の国際競争力強化、産業再編のための措置である。
 巨額の累積損失を抱えた官民ファンドへの追加出資も含まれ、これは、政策的な大企業救済策につながるものである。
 マイナンバーカード取得者へのポイント付与は、同カードの普及で国民への管理を強化するという狙いだけでなく、システム開発を担当する情報通信技術(ICT)企業への奉仕である。
 二〇年度予算案の法人税収入見込みは約十二兆円程度で、消費税収の半分程度しかない。税負担は「企業から国民へ」、大きくシフトさせられたのである。
 すでに大企業は、アベノミクスによる金融緩和、連結納税制度や研究開発減税などの優遇税制などによって、暴利を得ている。内部留保は四百五十六兆円にも達し、国民総生産(GDP)総額に迫る勢いである。一九年度の企業の経常利益は、六年連続で過去最高益更新が予想されている。
 安倍政権による大企業への奉仕は、まさに際限がない。

国民生活関連は減額へ
 他方、農業予算では環太平洋経済連携協定(TPP )や日米自由貿易協定(FTA)に伴う「対策費」が計上された。市場開放措置による国内農業・農家経営への深刻な打撃を阻止できるものではない。自給率のさらなる低下は必至である。中小企業対策費や地方交付税などは前年度比で減額されている。文教予算も削減される。
 社会保障費は、「全世代型社会保障改革」の名の下、概算要求から約一千二百億円も圧縮された。安倍政権は、自然増が毎年一兆円に達する社会保障費の伸びを、五千億円規模に圧縮することを続けてきた。この動きは継続・強化されている。
 具体的には、年金給付額も二年連続の「マクロ経済スライド」で、実質ベースでは減額される。
 安倍政権が「売り」としている「幼保無償化」も、引き続き、給食費が対象から外されたままである。
 医療費の診療報酬は四回連続でマイナス改定される。
 アベノミクス下、国民生活は悪化の一途であったが、十月の消費税増税はさらに追い打ちをかけている。昨年十、十一月の家計の消費支出は二カ月連続で前年同月比でマイナスになった。日本銀行による「生活意識に関するアンケート調査」でも、個人の景況感は六期連続で悪化している。
 昨年のスーパーの売上は、四年連続で前年比マイナスである。中小企業の「休廃業」は七年ぶりに増加に転じ、一九年の年間倒産件数は十一年ぶりに前年を上回った。
 軽減税率や、キャッシュレス決済による還元策の導入などで、中小零細商店の事務負担は増大している。キャッシュレス還元策は、スマートフォンなどの操作に慣れぬ高齢者に著しく不利であり、増税分がまるごとのしかかる。
 さらに最近では、新型コロナ肺炎のまん延が深刻さを増している。
 安倍政権以前からだが、政府は国立感染症研究所への予算配分を大幅に減額させ、人員も削減してきた。マスク在庫の枯渇など、国民が多大な不安を感じている背景には、こうした事実がある。
 政府は、緊急の財政出動を含め、予算組み替えなどで対処すべきである。
 国民生活、国民経済を再建する予算措置が必要であるにもかかわらず、安倍政権はそれに背を向けているのである。

今後も国民犠牲が続く
 さらに安倍政権は、今夏から来年度予算に向けて、七十五歳以上の医療費窓口負担を二割に引き上げることと、さらに介護利用料の負担増など、国民負担をますます増やそうとしている。
 昨年度には、低所得者の後期高齢者医療保険料の大幅値上げや、生活保護費の切り下げが強行された。来年度以降、これらも再度、改悪される可能性が高い。
 「思いやり」予算も、二一年三月に現行協定の期限が切れることに合わせ、米国は大幅な増額を要求している。
 さらに財界はかねてから、消費税率を一五〜一六%にまで引き上げることを提唱している。
 安倍政権、与党がこれに応じれば、国民負担はさらに増える。
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 二〇年度予算案には、対米追随で多国籍大企業のための大国化、競争力強化を進めるという、安倍政権の性格が貫徹している。
 現在国会では、野党は「桜を見る会」や辞任閣僚の「政治とカネ」などを追及している。パンデミック(大流行)の気配さえ見せている新型コロナ肺炎への対策も重要である。政府の初動の遅さと、矛盾だらけの対応策は、厳しく追及されなければならない。
 深刻な国民生活を鑑みれば、政策の中心である予算案に対する追及を、さらに強化しなければならないはずである。労働組合が予算案をめぐる闘いをしなくなって久しい。
 先進的労働者・労働組合は、折からの春闘のなかで、政府予算案を暴露して闘うことが求められている。       (O)


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