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2020年2月5日号 2面・解説

安倍首相が施政方針演説

 内外の危機、
「五輪」では乗り切れぬ

 安倍首相は一月二十日、衆参両院で施政方針演説を行った。首相は、国民負担増の「全世代型社会保障」や、対米追随で政治軍事大国化をめざす外交・安全保障政策について力を込めた。憲法九条改悪にも執念を見せた。ことあるごとに東京五輪を持ち出す一方で、数々の疑惑にはフタをした。内外の危機が深まり、国民の不満が増大するなか、安倍政権が政策目標を達成することは保証されていない。


 施政方針演説は、予算案審議を中心とする通常国会の冒頭でにおける、政府がその年の基本政策を内外に示すものである。
 第二次政権発足以来の「アベノミクス」については、「七年間で一三%成長」などと言い、「日本は成長できないという『諦めの壁』は完全に打破できた」などと自慢した。
 昨年に続いて「全世代型社会保障」を掲げ、「同一労働同一賃金」「人生百年時代」などの美辞麗句を並べた。
 外交・安全保障政策では、従来からの「積極的平和主義」を繰り返した。航空自衛隊への「宇宙作戦隊」の創設、サイバー、電磁波などの新領域における防衛力強化などを打ち出した。さらに締結から六十年を迎えた日米安全保障条約、日米同盟を「かつてなく強固」などと誇り、改めて「自由で開かれたインド太平洋」構想をぶち上げたには新興国への資金流入は進まず、むしろ「リスク回避」を目的に新興国通貨が売られている。なぜか。

アベノミクスは行き詰まり
 「成果」をアピールする安倍政権だが、実態はどうか。
 異次元の金融緩和、機動的財政政策、成長戦略の「三本の矢」で構成されるアベノミクスは、つまるところ日銀の「緩和頼み」であり、大多数の国民から一握りの多国籍企業・投資家への「富の移転」である。
 首相の自賛とは裏腹に、わが国の国内総生産(GDP)成長率はいちだんと低迷、政府の成長目標は一度として達成されていない。首相は「税収が過去最高」などと誇ったが、それは大衆増税のためである。
 「全世代型社会保障」などというが、国民経済・国民生活こそが「諦めの壁」に突き当たっている。労働者の実質賃金は下がり続け、安倍政権下で年間十八万円も減っている。首相は最低賃金が「過去最高の上げ幅」などというが、都道府県ごとの格差は開く一方である。「雇用三百八十万人増」も、その過半は低賃金で労働環境が劣悪な非正規職であり、労働者はますます困窮している。
 社会保障費などの国民負担は年々増大、十月からの消費税増税で生活はさらに痛めつけられている。「全世代型」の実態は、世代間対立をあおりながら、高齢者にいちだんの負担を押し付けることである。典型例として、七十五歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担の二割への引き上げが検討されている。政府は「定年延長」などを呼号しているが、高齢者の生活実態は、低年金などから「働かざるを得ない」のが実態である。
 他方、政府累積債務はいちだんと積み上がり、GDPの二五〇%に近づいてる。首相は「公債発行は八年連続での減額」などと、財政再建が進んでいるかのように述べたが、まったくのデタラメで、決算ベースでは「そうなっていない」ことを認めざるを得なかった。首相は、引き続き「二〇二五年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化」を掲げたが、実現の展望はないどころか、財政事情は悪化の一途である。

外交や疑惑については…
 外交・安保政策では、「対話による問題解決と自制的な対応」などと言いつつ、米国のイラン軍人殺害という無法にほおかむりし、米主導の「有志連合」と連携しての自衛隊派兵を強行した。
 対中国関係は「新時代の成熟した日中関係」などとした。だが、日米同盟を賛美し、「自由で開かれたインド太平洋」を掲げ、中国をけん制、包囲する態度はますます鮮明である。
 韓国に「国と国との約束」を守るように要求したが、悪化する日韓関係を改善させる態度は見られないし、メドもない。
 北方領土問題では、その解決と平和条約を「成し遂げる」と息巻いたが、これまた展望はない。事実上の「二島決着」論を持ち出して、国民を裏切ったあげくの体たらくである。
 憲法第九条については、改憲案を示すのは「国会議員の責任」とまで言い、改憲発議を焦っている。
 沖縄県名護市辺野古への新基地建設については、「辺野古」の言葉さえ使えなかったが、あくまでも建設を強行する姿勢を示した。
 首相は、演説の全編にわたって七月に迫った東京五輪を持ち出し、「国のかたちに関わる大改革を進めていく」ことを正当化した。だが、その実態は、アジアの大国として登場することであり、国際的孤立の道である。
 一方、国民に多大な不信感を巻き起こしている数々の不正や疑惑にはふれず、フタをした。「桜を見る会」をめぐる「政治の私物化」や官僚による文書管理不正、元閣僚が検挙されたカジノを含む統合型リゾート(IR)疑獄、公選法違反などの「政治とカネ」問題である。IRについては「管理委員会」を発足させるなど推進姿勢にこだわり続けている。

政権の内外環境は悪化
 先日のダボス会議に見られるように、世界の支配層は「資本主義の再定義」を掲げるが、危機を打開する手立てはない。こんにちは、私的所有に基づく資本主義的生産様式が限界に達し、次の「収奪者が収奪される」社会主義への移行が不可避となっている。
 世界経済の成長率はますます鈍化し、官民の債務は増大、遠からず、新たな金融危機の発生は不可避である。急速な技術革新と争奪の激化、深刻な地球環境問題などが、リスクを拡大させている。新型コロナウイルスの発生も、中国を中心とするサプライチェーン(供給網)や、日本を含むアジア諸国の観光産業などに打撃を与えつつある。
 「米国第一」を掲げるトランプ政権は、衰退を巻き返すため、対中国攻勢を激化させている。対中攻勢は南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区などの「人権」問題、台湾「総統」への祝電など全面的なものとなり、アジアの緊張は高まっている。わが国への要求も際限がない。
 トランプ政権は、自らの負担を軽減させるため、世界的に「均衡政策」を強化している。アジアでは日本と中国を争わせ、中東からも「足抜け」を狙った。だが、「選挙対策」でもある、イラン軍高官の暗殺と、「和平」の名にさえ値しないパレスチナ「新和平案」によって中東情勢はかえって不安定化、逆に泥沼にはまる事態となっている。
 これらの策動は、世界経済、国際政治を著しく不安定化させている。
 こうした外的環境に規定され、すでに述べたように、わが国経済は「デフレ脱却」どころではない。首相が「戦略的に取り組む」と述べた、5G(第五世代通信規格」などの技術革新においても、米国や中国、ドイツなどの後塵(こうじん)を拝したままである。
 アベノミクスの成功どころか、その継続さえますます危うい事態となっている。

国の大きな方向で争うべき
 野党は「桜を見る会」などの追及には熱心だが、外交・安全保障政策問題など、国の大きなカジ取りについては「二の次」となっている。
 安倍首相は「世界を駆け回り、ダイナミックな日本外交を展開してきた」などと述べた。
 安倍政権が述べるのとは異なった意味でだが、世界はまさに激動期にある。憲法第九条の改悪は、支配層がこうした情勢に対応するための方策の一つである。その実態は対米追随でアジアでの政治軍事大国化をめざすものにすぎない。
 それでも、国民には一定程度、「現状変革」を行うかのような幻想を与えかねないのである。
 国の方向性に関する政治的対抗軸がないままでは、外交や東京五輪を悪用して国威発揚を図る安倍政権には対抗できない。
 実際、四千二百八十七億円もの軍事予算を含む一九年度補正予算案(歳出総額・四兆四千七百二十二億円)は、審議らしい審議もないままに可決・成立した。安倍政権の「得点」である。
 このような状態で、選挙における「野党共闘」だけを追求したところで、数合わせ以上ではない。
 何より、世界の危機が深まるなか、「政治の安定」を求める財界が願う、保守二大政党制への要求に呼応することになりかねないのである。
 大衆の切実な要求に根ざした大衆行動、国民運動こそ、事態を打開するカギなのである。(K)


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