ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2019年12月5日号 1面

財政再建を焦る財界 
経団連・同友会が提言

 増税、医療改悪、監視機関設置…際限なき国民犠牲を許すな

 わが国財界団体が相次いで、政府に財政再建を求める提言を発表した。
 経団連は十一月十九日、「経済成長・財政・社会保障の一体改革による安心の確保に向けて」を発表した。経済同友会の財政健全化委員会(委員長=佐藤義雄・住友生命会長)も同時期、「将来世代のために独立財政機関の設置を」なる提言を発表した。
 提言は両方とも、財政健全化を「国家の重要課題の一つ」とし、その断行を求めるものである。ただ、経団連の提言は成長戦略の加速化もうたっている。
 とくに同友会は、内閣府による「中長期の経済・財政に関する試算」など、政府機関による財政見通しを「政府の政策スタンスや成果を肯定する傾向」にあると不信の目を向ける。結論として、「経済・財政・社会保障などのデータを長期的かつ客観的な視点から提示する機関」として、参議院に「経済財政推計・検証委員会」(仮称)を設置することを提案している。
 しかも同委員会の運用は「独立性・非党派性を確保」するとし、政権が代わっても、財政再建を課題とし続けることで拘束しようとしている。さらに、大学や民間シンクタンクが、この委員会に対する「第三者評価」を行うことで、二重三重に政府を財政再建の道に縛り付けようとしている。

背景に危機の深刻化
 財界は国際情勢の激動に揺さぶられ、焦りを深めている。
 世界経済は低成長から抜け出せず、各国政府と企業には膨大な債務が積み上がり、新たな金融危機、破局が迫っている。
 すでにアルゼンチンは事実上の債務不履行(デフォルト)に陥り、チリ、ブラジル、トルコなども通貨危機を抱えている。
 人工知能(AI)などの急速な技術革新も、資本主義の危機を加速している。
 十人以下の「超大金持ち」が、世界の富の半分を握るほど「格差」が広がっている。
 各国で階級闘争が激化し、有権者は既存の政党を見捨て、政治は激しく揺さぶられている。チリでは国際会議が中止に追い込まれた。フランスなど先進諸国でも、闘いが高揚している。
 各国間対立も激化し、二十カ国・地域(G20)会議などの「国際協調」は無力化した。
 衰退する米国は「自国第一」を掲げ、台頭する中国を抑え込むためにすさまじい攻撃を仕掛けている。中国と日本を争わせて「漁夫の利」を狙う、欺まん的策動を強めている。
 アジアでの軍事的緊張が高まっている。
 世界の資本家、経済界でさえ、自覚的かどうかは別にして、資本主義の「持続可能性」への疑問を深めざるを得ない事態である。

財政再建で狙うもの
 財界はこのような情勢に対応し、日本経済が「世界をリードする活力を取り戻す」ことが必要だとして、財政危機への危機感をいちだんと深めている。
 同友会も「改革が遅々としており」と現状に危機感を示している。
 事実、わが国の政府累積債務は、国内総生産(GDP)比で約二四〇%に達している。これは先進国中最悪で、リーマン・ショック後に国家債務(ソブリン)危機に陥った、イタリアの二倍の水準に達する。
 現在は、日銀が金融緩和政策によって長期金利を引き下げているが、金利が一%上昇するごとに、国家予算の国債費は約三・五兆円も増加するとされる。
 政府債務の増大は、「日本のソブリン危機」の発生、さらに世界的金融危機にさえつながりかねないものなのである。
 「日本発」でなくても、新たな危機への対応や、例年のように発生している自然災害への対応力を強めるためにも、さらにわが国を政治軍事大国に押し上げて膨大な海外権益を守るためにも、かれらは財政再建を「待ったなし」のものとして焦っているのである。

国民諸階層はますます犠牲
 財界が進めようとしているのは、労働生産性の向上をはじめとする成長戦略の実行による企業の成長とそれを通じた税歳入の増加である。これは、技術革新による労働者の失業、労働法制の改悪による雇用の不安定化、規制改革による中小零細企業の倒産・廃業などをもたらすものである。財界は各企業単位で、すでに大規模なリストラ攻撃を強めている。
 それだけではない。経団連は「消費税率一〇%超への引き上げ」を明記し、さらなる大衆増税を求めているのである。
 歳出削減では、いちだんの社会保障制度の改悪を迫っている。具体的には、高齢者の医療費負担増加などである。国民の大多数は、窓口負担の増加や「セルフメディケーション」の名による宣伝によって、ますます医療から排除され、命と健康を脅かされる。
 年金制度はすでにマクロ経済スライドの導入によって減額されているが、財界はこの制度のさらなる改悪のための「国民的議論」も呼びかけている。
 財界が政府を突き動かしての、国民生活破壊には際限がない。財界の策動を打ち破り、国民生活を守る国民運動を巻き起こさなければならない。労働者、労働組合は、その先頭で闘わなければならない。 (O)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2019