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2019年11月5日号 2面・解説

ペンス米副大統領が演説

 中国への強硬姿勢さらに鮮明

 ペンス米副大統領は十月二十四日、ワシントンにあるシンクタンクで「米中関係の将来」と題して演説した。副大統領は、昨年に続いて中国への敵視をあおり立て、トランプ大統領の再選につなげようとしている。何より、米国が中国への戦略的対抗姿勢をいちだんと鮮明にさせたものであり、アジアの平和は危機にある。


 この演説は、米国の外交政策全体について触れた。
 冒頭、副大統領は、シリア情勢に触れた。副大統領は強がったが、クルド人勢力のシリア・トルコ国境地帯からの撤退と「安全地帯」の設定は、米国が体制転覆をめざしてきたシリア・アサド政権には有利に働き、これを支持するロシアの中東への影響力を高めかねないものである。
 逆にいえば、米国はこうしたリスクがあっても中東への関与を低め、アジアにおいて中国を抑え込むことに力点を置こうとしているのである。

強まった米国の対中敵視
 副大統領は、昨年十月にも、対中政策について演説を行っている。
 そこでは、中国を「わが国の国内政策や政治活動に干渉している」などと決め付け、二〇一七年末に発表した「国家安全保障戦略」を基礎に、中国の海洋進出を阻止する姿勢をあらわにした。中国に対して、事実上の「宣戦布告」ともいうべき非難を行ったのである。
 これによって、米中関係はいちだんと険しくなった。
 米国は、中国からの輸入製品に対して数次にわたる追加関税を発動、通信大手・華為技術(ファーウェイ)など中国企業への規制も強化した。
 安全保障面では、南シナ海での「航行の自由作戦」を継続、台湾への武器輸出を拡大、同海峡に軍艦を派遣するなど干渉を強化した。ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄するにあたっても、中国の核を規制すべきとけん制した。
 「人権」を口実にした、香港、新疆ウイグル自治区などでの内政干渉も強めている。
 人工知能(AI)、自動運転、仮想通貨などの技術革新をめぐっても、米中は激しい争いを演じている。
 偶発的事態を含め、米中の軍事衝突さえあり得る情勢となった。この原因をつくり出したのは、自国の衰退を巻き返して支配を維持しようとする、米帝国主義の悪あがきである。

中国への非難エスカレート
 副大統領は、自らが仕掛けた対中国強硬政策を棚に上げ、中国の態度を「より攻撃的」などと、あべこべに描き出している。
 中国が米国を経済面で追い抜くという予想が支配的であったことを念頭に、「トランプ氏の大胆な経済政策(対中追加関税などのこと、筆者注)のおかげで状況は一変しました」などと言い、何がなんでも、中国の台頭を抑え込もうとしている。
 副大統領は、米国が中国に「抜かれない」根拠として、「史上最大の減税と税制改革」などを列挙している。だが、その米経済は、自らが課した対中制裁がブーメランのように跳ね返り、成長率の鈍化や株価下落などに直面している。
 副大統領は、安全保障面でも、南シナ海問題や「一帯一路」構想に対して、中国を「ますます挑発的」などと罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせている。
 さらに副大統領は、またも、新疆ウイグル自治区や台湾、そして香港の「人権」問題などを持ち出して中国を非難した。
 副大統領は、台湾に対する米国の軍事支援を「平和を脅かすものではない」などと開き直り、台湾を「中国文化と民主主義の象徴」と持ち上げて防衛する意志を示した。これは、中国の内政問題に対する明確な干渉である。
 香港で吹き荒れているデモに対しては、「我々は共にいます」などと内政干渉している。新疆についても、「かつて見たこともないような監視国家」などと決めつけている。
 総じて、副大統領は、トランプ政権の対中政策の狙いを「『より公正で安全で平和な世界』を実現するため」などという大義名分を掲げている。
 だが、真の狙いは中国の体制転覆である。それは、「米国とその指導者たちはもはや、経済的関与だけで共産主義中国の権威主義国家が、私有財産、法の支配、国際通商規則を尊重する自由で開かれた社会に変わることを期待しないでしょう」という発言に、明確にあらわれている。「経済的関与」以外の方法も駆使することで、中国を「普通の資本主義国」に転換させようとしているのである。まさに、内政干渉である。
 これは、強大化する中国への「恐れ」の裏返しでもある。

大統領選挙を意識
 副大統領の演説の矛先は、国内にも向けられている。
 米国エリート層が中国の「経済的侵略と人権侵害に対して沈黙していた」などとし、米企業による対中投資を「世界史上最大の富の移転」などと非難した。トランプ大統領は「米国の中心地域では各工場が閉鎖し、北京では新しい超高層ビルが建てられるたびに、米国の労働者たちの士気はますます低下し、中国はますます勢いづいてきました」などと述べ、米経済の衰退を中国に責任転嫁した。この発言内容がデマであることは、言うまでもない。
 また、ナイキなどの実例をあげて米企業が「中国の資金と市場の誘惑に屈して」いるなどと批判し、「世界中で(中国に)立ち向かうべき」などと叱咤(しった)しているのである。
 これは対中強硬策をアピールすることで、国内での支持を固める狙いである。
 トランプ政権は一六年、衰退した「ラストベルト地帯」の労働者をダマしてひき付け、当選した。来年の大統領選での再選に向け、エリート層を「非難」して見せることで、またも白人労働者層をダマそうとしているのである。
 短期的な大統領選挙の勝利のためというだけでなく、対中包囲網を強化するための、国内世論対策である。

「実績づくり」へ焦りも
 他方、米中貿易協議については、「米国は中国との対立を求めない」「中国の発展を封じ込めようとしているのではありません」などと白々しく語り、大統領選挙が本格化する前に交渉を妥結することで、「実績」としたいという意思も見せている。副大統領は「米国経済は日増しに成長し、中国経済がその代価を払っています」などと粋がるが、その実、中国への制裁の影響は米国経済に跳ね返り、景気の足を引っ張るなどの影響が出ている。大統領選を前に、これ以上の自国経済の悪化を避けたいところである。
 また、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核問題やペルシャ湾の安全などにかんしては、中国に「よりいっそうの協力」を求めている。
 自国だけでは問題を解決できず、中国の協力を求めざるを得ない、米国の衰退ぶりを示している。半面、自国優位の「国際秩序」を守るため、中国に国際的役割を果たさせるという側面も隠されている。
 ただ、副大統領はなおも「(中国の)知的財産窃盗」に言及するなど、中国に戦略的に対抗する意思を維持している。仮に米中が交渉で合意しても、それはつかの間のことにすぎないだろう。
 今回の演説について、昨年よりも「批判のトーンを落としている」(遠藤誉・筑波大名誉教授)という評価もある。だが、中国を抑え込もうという米国の戦略は、本質的には変わっていない。
 この演説と同時期に来日したローズ米副大統領補佐官が「米国は香港とともに」などと、副大統領と同様の発言を行っていることからも明らかである。


アジアで日中を争わせる
 米国は、アジアにおいて首尾良く中国を抑え込むため、日本を利用しようとしている。日中を争わせ、その「漁夫の利」を得ようというのである。
 安倍政権は、この米国の意図を知った上で、政治軍事大国化を進めて中国へのけん制を強化している。それは、わが国多国籍大企業の要求に応え、「アジアの大国」として登場するためである。日本単独では中国に対抗できないことを知った上で、敢えて米国の先兵役を務めて「火中の栗」を拾おうとしているのである。
 だが、長期デフレを脱却できず、財政事情も最悪で、アジア諸国・人民に信頼されていない日本がこの道を選択することは、分不相応の「背伸び」であり、破綻は不可避である。(O)


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