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2019年10月25日号 2面・解説

台風被害が拡大

 災害が前提の国土政策を

 東日本を中心とする台風十九号に関連する被害は、なおも拡大しつつある。死者は八十四人、なおも九人が行方不明のままである(二十二日現在)。その後、台風二十号、二十一号が追い打ちをかけ、被災者の生活再建は遅々としている。相次ぐ災害は、歴代政府による国土政策のずさんさをあらわにさせている。


 わが国では、国土の約一〇%にすぎない沖積平野(河川氾濫[はんらん]区域とほぼ同義)に、人口の五〇%以上、資産の七五%が集中している。なかでも、約五百万人(約四%)が標高一メートル以下の低地に住んでいる。うち、東京圏(神奈川・千葉を含む)に約百八十万人、名古屋圏に約九十五万人、大阪・兵庫に約百三十万人である。
 このように、都市の低地に人口が集中しているのは、自然に起きたことではない。それは歴代の国土政策の産物である。
 一九五〇年の国土総合開発法に始まり、二〇〇五年に国土形成計画法への変更、〇九年の国土形成計画の策定というわが国の国土政策全体に触れる紙幅はない。ただ、これらは結果として東京を中心とする都市部への人口集中を促した。
 道路などのインフラ設備は全国にひと通り張りめぐらされたが、ゼネコンをはじめとする大企業が潤う一方で、そこには住民参加の仕組みはなく、環境保全の観点もほとんどなかった。
 とくに、バブル期には政府が「ポートルネッサンス計画」を打ち出し、海岸部の再開発(ウォーターフロント開発)が進んだ。横浜みなとみらい21(横浜市)、幕張新都心(千葉市)がその代表例である。結果、低地への人口集中と「ヒートアイランド現象」を深刻化させた
 沿岸部が、暴風雨や高潮、大地震による液状化や津波にきわめてぜい弱であることは言うまでもない。
 現在の政策は、「国土計画のグランドデザイン二〇五〇〜対流促進型国土の形成」(一四年)、国土形成計画(一五年)と、それに基づく各地方圏の計画がある。だが、これらでは、自然災害は「付け足し的」に触れられるのみである。
 こんにち、こうした一連の計画は限界に達し、連続する大災害によって破綻をあらわにさせている。
 「対流促進型国土」などといったところで、大規模災害が起こればたちまち吹き飛ぶものである。災害発生を前提にしない計画など、「空論」以外の何ものでもない。
 政府の災害対策にも根本的な問題がある。一九六二年に施行された災害対策基本法は「被害を繰り返さない」という趣旨に基づくものである。言い換えれば、「被害が発生しない限り対策は行わない」ということである。
 警報・注意報の発表範囲を市区町村単位にしたのは二〇〇四年で、過去最高の年間十個の台風が上陸した後である。命が奪われるほど危険な状況であることを示す「特別警報」が導入されたのは一三年で、これまた、東日本大震災と、八十人以上が死亡・行方不明となった紀伊水害(一一年)以降である。
 要するに、何もかもが「後追い」なのである。こうした国策を、大転換しなければならない情勢である。
 大震災後、政府に設けられた「東日本大震災復興会議」は、その報告書で「東日本大震災では、『想定外』という言葉が繰り返された。将来に向けて二度とこの言葉を繰り返さないためには、最新の科学的知見を総動員し、あらゆる可能性を考慮しなくてはならない」と述べている。
 報告書は限界付きのものであるが、それでも、政府が文字通りこの立場を貫くことこそ、国民の命と財産を守る第一歩である。(O)


行政の問題点が露呈した(埼玉県A市民)
 台風が近づくなかの十二日、心配だったので、避難所に指定されている近所の小学校に行きました。ところが、施錠されている! 公民館に立ち寄ると「台風により十八時で閉館します」と。住民はどこに避難すればよいのでしょう!
 支所に「避難所はどうなっているのか」と電話を入れると、「支所を開放する準備中です」とのこと。そこで私は、支所の電話番号を書いた紙を、近所に配って歩きました。
 結果、A市では道路三十カ所以上が冠水し、五十件以上が床下・床上浸水するなどの被害がありました。幸いにも死者は出ませんでしたが、ヘリコプターで救助された人もいます。
 とくに、川に近い低地では住宅の一階部分が水没、少し高いところでも、自動車の屋根近くまで水に浸かりました。マスコミでは報じられませんが、東京のすぐ隣でも、これだけの被害がありました。
 台風が去った後、避難所に行くと、近隣の数家族がいました。「食事はどうしているの?」と尋ねると、「皆で持ち寄ったものを分けて食べている」とのことです。これではいけないと、非常食と毛布を届けるよう、市役所に電話で要求しました。支所長にも、現場に行くよう求めました。
 A市を流れる川の広い河川敷は、ゴルフ場になっています。これでは、堤防をつくるという発想にはなりません。
 市は数年前、低地から排水するためのパイプを建設する計画を立てましたが、今回のような歴史的豪雨に耐えられないのはもちろん、ゲリラ豪雨でさえ間に合わない程度のものです。本当に、住民のことを考えての計画なのでしょうか。
 安倍政権は、被災自治体に普通交付税を繰り上げ交付する方針のようです。
 「給料の前払い」というわけでしょうか。このような時なのですから、どんと支援すべきではないでしょうか。
 災害のような非常事態になると、政治の問題点、正体が見えてくると思います。

情報提供に問題あり(東京都荒川区民)
 台風襲来の十二日早朝、いくつかのサイトで情報を集めました。
 レベルマップを見ると、荒川区は河川洪水がレベル2(避難行動を再確認)、土砂災害はレベル3(高齢者等は避難)。
 目を疑いました。荒川区は低地にあるため、洪水レベルは降雨と共に上昇することが予想されます。事実、昼前にはレベル3に達しました。しかし、都市部で土砂災害がこれとはどういうことでしょう。
 情報を探すと、文京区に接する区西部の一部で土砂崩れが想定されるということが分かりました。山手線に沿った武蔵野台地の崖(がけ)が崩れる危険性があったわけです。実際、午後になると、該当二地区に避難勧告が出されました。
 二地区は土砂災害版ハザードマップにも明記されているので、行政もかねてから注意していたところなのでしょう。だとすれば、二地区及び周辺は別にして、荒川区全体をレベル3と表示するのは、情報レベルとしてはあまりに大ざっぱすぎます。
 これは国の責任でしょうが、区民に不安だけをあおる結果になりかねません。
 台風十九号で、荒川区では外壁破損・倒木など三十五件の物的被害、約六百戸の停電がありました。人的被害はありませんでしたが、一千四百人以上が一時避難を余儀なくされたということです。
 これらの情報は、荒川区のホームページには一切、掲載されていません。区によるスマートフォン向け「災害アプリ」を試してみましたが、ハザードマップをそのまま載せているのと大差ないものでした。
 情報提供のレベルが低いと言わざるを得ません。
 荒川区は、隅田川が氾濫(はんらん)した場合にはほぼ区全域で二階以上、荒川の場合は三階以上の高所に避難することが推奨されています。
 だが、区が指定している避難所も、ほとんどが浸水・水没の可能性があります。結局、「区外」ということになるわけですが、可能なのでしょうか。江戸川区のように、「区内にとどまるのは危険です!」と呼びかけた方が、よほどスッキリするのではないでしょうか。
 近所の人と、行政にきめ細かな情報提供と避難所の拡充を求めなければと話しています。


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