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2019年10月5日号 1面

日米貿易協定「最終合意」

 売国協定の国会承認を許すな

 安倍首相とトランプ大統領による日米首脳会談が九月二十五日、米ニューヨークで行われ、貿易協定とデジタル貿易協定の「最終合意」を確認し、共同声明に署名した。農業を中心に、わが国国民経済・国民生活に著しい打撃を与えるものである。国民運動を巻き起こし、秋の臨時国会での条約批准に反対しなければならない。

TPP以上の市場開放
 貿易協定では、牛肉・豚肉、ワインなどの米国産農産品への関税を環太平洋連携協定(TPP)水準まで大幅に引き下げられる。
 牛肉の関税は協定発効後、現在の三八・五%から二六・六%に引き下げられ、十五年目に九%となる。豚肉の関税も大幅に引き下げられる。ワインの関税は、一五%または一リットルあたり百二十五円の低い方が適用されている現行から段階的に引き下げ、七年目に撤廃される。
 日本は牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動基準を二十四万二千トンとし、事実上、米国向けの低関税枠を設定した。だが、この設定をめぐっては、TPP参加諸国との間で、二二年度上半期までに修正協議を行わなければならない。オーストラリアが主な相手国だが、合意できる保証はない。
 コメについては関税削減・撤廃の対象にならず、輸入枠も設けられなかった。バターや脱脂粉乳など三十三品目についても、米国枠の新設は回避された。
 それでも、日本側は約七十億ドル(七千五百億円)規模で、農産物の市場開放を約束した。
 一方、日本から輸出される楽器や自転車などの関税が引き下げられるものの、焦点であった自動車・同部品への関税撤廃は「さらなる交渉による関税撤廃」とされ、見送られた。TPPでさえ、現行二・五%の自動車への関税を二十五年目に撤廃するとされていた。自動車部品についても、TPPでは八割以上の品目で関税を即時撤廃するとしていた。これらは、いずれも吹き飛んだ格好だ。
 米側は追加関税や輸入数量制限をしないことを文書で確認したが、これとて「協定の誠実な履行がなされている間」であり、米国の「解釈次第」である。
 まさに「TPP以上」の市場開放を約束したのである。

一方的な対米譲歩
 デジタル貿易協定は、協定では、インターネットを通じた国境を越えるデータ移転に制限しないことや自国内へのサーバー設置義務を課さないこと、個人情報保護に関する法整備などを明記した。これは国家主導で情報を管理する中国に対抗し、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)を頂点とする米巨大IT(情報技術)企業が世界を相手に儲(もう)けることを保証しつつ、日米が「世界標準」を主導する狙いからのものである。
 二つの協定は、米国側に一方的に有利な内容である。
 貿易協定はトランプ大統領「再選」への「貢ぎ物」ともいうべきものである。トランプ大統領は約七十億ドル(七千五百億円)規模の開放だとし、「巨大な勝利」と述べた。
 こんにち、米国は衰退を巻き返すため、中国に対する経済・政治・安全保障にわたる全面的な攻撃を仕掛けている。
 だが、米国からの圧力の対象は、中国だけではない。トランプ政権は、北米自由貿易交渉(NAFTA)加盟のメキシコ、カナダ、現在では欧州にも要求を押し付けようとしたし、日本も例外ではない。
 安倍政権はこの状況を知った上で、交渉の早期妥結によって、日米の「貿易戦争化」を避ける狙いがあった。

農業など国民経済を破壊
 本協定で、農業をはじめわが国国民経済はさらに追い込まれる。
 すでにオーストラリアやニュージーランドなどからの牛肉・豚肉などの輸入が急増している。これに米国産の安価な牛肉・豚肉の輸入が加わることで、国内農家はさらに打撃を受ける。一部の「ブランド牛」などを除き、北海道、九州、東北地方の畜産業は存亡の危機に陥る。
 コメが関税削減の対象にならなかったことも、「救い」にはならない。すでに、一九九三年のGATT(関税および貿易に関する一般協定)合意において、わが国は二〇一八年まで、年間七六・七万トンの輸入枠が設定されているからである。
 さらに、米国産トウモロコシを約二百五十万トン規模で輸入することも決まっている。
 すでに高齢化などの苦境にあるわが国農業は、まさに「トドメ」を刺されようとしている。
 しかも今回の合意は「初期」のものにすぎない。日米は今後、非関税障壁も含んだ包括的交渉を行うとしている。サービスや投資分野での市場開放、わが国の制度変革は、今後、要求されることが必至である。
 自動車への追加関税が実施されれば、米国への輸出は減速する。わが国多国籍大企業は、国内工場の閉鎖と米国への拠点建設、国内労働者の切り捨てに突き進むことは必至である。
 わが国国民経済、国民生活の全体を破壊する協定にほかならない。

ペテンを重ねる安倍政権
 安倍首相は「両国にとってウィン・ウィン(双方の利益)の合意」などと述べた。
 経過を振り返れば、安倍政権によるデタラメさは明白である。
 トランプ政権は一七年一月、TPPから「永久に離脱」することを表明した。以降、米国は日本に対し、二国間協定の締結を迫った。ここには、農産物を中心とする市場開放要求が含まれていた。
 安倍政権は当初、米国がTPPに復帰することを促すことを「基本」とし、「各国と個別に二国間協定を結ぶと手続きがばらばらになる」(一六年十二月の参議院TPP特別委員会での答弁)などと、二国間協定の締結に否定的であった。一方で、米国抜きの「TPP 」の批准を急いだ(一八年三月署名)。
 だが、米国は鉄鋼・アルミニウムへの関税を「除外措置」という形で日本も対象にすることや、自動車に追加関税を課すことをほのめかすなど、二国間協議に応じるよう揺さぶった。
 昨年四月、安倍首相は「新貿易協議機関」において交渉を行うことを約束させられた。
 この結果、九月、日米両首脳は「物品貿易協定」(TAG)交渉の開始で合意した。安倍首相は「包括的な自由貿易協定(FTA)とは全く異なる」などと力説した。
 これらは「自主」を装ったペテンであったが、深刻な日米矛盾と支配層のジレンマを反映していた。
 トランプ大統領は五月の日米首脳会談後、「良い発表ができると思う」と公言した。安倍政権は、一時否定的な態度を見せてきた日米交渉に踏み切ることへの批判を避けるため、「FTAではない」などという欺まんを演じたのである。交渉期間はわずか一年で、情報も一切公表されなかった。
 結果は、今回の協定である。「ウィン・ウィン」どころか、ウソを重ねたあげく、わが国国民経済・国民生活を破壊する売国協定に合意したのである。
 安倍政権は十月上旬に新協定に正式署名し、臨時国会での承認をめざしている。米側は、来年一月一日の発効をめざすことを明言している。
 国民経済・国民生活を破壊する協定を許してはならない。承認に反対する国民運動を巻き起こすため、労働組合は先頭で闘わなければならない。   (K)


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