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2019年9月25日号 2面・解説

第4次安倍改造内閣が発足

 総選挙・改憲見据えるが難題山積

 第四次安倍再改造内閣が九月十一日、発足した。今回の改造は政権中枢を維持しつつ、今秋〜冬の解散・総選挙と、さらなる軍備拡大と憲法改悪などに備えたものである。だが、わが国を取り巻く環境は悪化しており、安倍政権の成功は保証されていない。安倍政権の「弱さ」を見抜き、闘わなければならない。


 組閣後、安倍首相は会見で「社会保障制度を大胆に構想する」と述べるとともに、憲法九条改悪を「必ずや成し遂げる」などと述べた。
 十一カ月ぶりの改造では、麻生副総理・財務相、菅官房長官、二階幹事長、岸田政調会長といった政権の中枢を維持した。併せて、初入閣の十三人を含め閣僚十七人を交代させた。新入閣の数は、第二次安倍政権発足以降、最多である。
 首相は「安定と挑戦の内閣」と述べた。政権運営の全体像は十月に開会される臨時国会冒頭での所信表明演説を待たねばならない。それにしても、組閣直後に課題として、「全世代型社会保障改革」や憲法九条改悪などを掲げたことは重要である。

「後継」見越した人事配置
 側近である西村経済財政・再生相に全世代型社会保障改革相を兼務させ、厚生労働相にも側近の加藤・働き方改革担当相をあてたことにも、「全世代型社会保障改革」に対する安倍政権の「熱意」が窺(うかが)える。
 二階幹事長、森山国会対策委員長、細田・党憲法改正推進本部長などの再任は、他党との改憲論議の前進をもくろむものであろう。
 三十八歳の小泉氏を環境相に起用したことは、明らかに総選挙に向けた政権浮揚策である。選挙対策委員長に、これまた腹心の下村元文科相を起用したことは、主導性確保のためのものだろう。
 同時に、岸田政調会長、茂木外相、河野防衛相、加藤厚労相、稲田幹事長代行らの起用・続投は、自らが影響力を維持した上で、「後継者」を競わせる狙いと推察される。
 かつて、中曽根康弘氏が竹下登氏や安倍晋太郎氏らを競わせ、「後継指名」(中曽根裁定)を通じて、その後も政治的影響力を保持したことを想起させる。安倍首相自身も、二〇〇三年、小泉純一郎氏による「サプライズ人事」として、閣僚や党要職に未経験のまま幹事長に抜擢されている。
 一方、地方を中心に「首相候補」として人気があるとされる石破元幹事長は、さらに政権中枢から排除された。

内外情勢の危機と安倍政権
 こんにち、リーマン・ショック後の危機はさらに深く、各国中央銀行は利下げ競争に踏み込んでいる。再度の金融危機が迫っている。米国による中国への制裁は危機を加速させ、英国の欧州連合(EU)離脱問題なども世界経済を揺さぶっている。
 トランプ政権は「米国第一」を掲げ、衰退を巻き返そうとしている。とくにアジアを重視し、中国と日本を争わせて利を得るという「均衡戦略」を進めている。当面は、台頭する中国への全面的圧迫を強化している。
 こうした危機は日本に波及、わが国経済を揺さぶっている。わが国多国籍大企業、支配層は、激化する国際競争、技術革新競争での生き残りを焦っている。併せて、世界に広がった権益を守るためにも、対米従属の下での国際的発言権の強化、中国に対抗しての政治軍事大国化をめざしている。
 安倍政権は従来以上に、これらを遂行しようとしている。「全世代型社会保障改革」や改憲、大幅な軍備増強は、その狙いからのものである。

難題だらけの政策課題
 安倍政権が進めるであろう政策は、国民生活をさらに悪化させ、わが国のアジアでの孤立を深めるものである。
 「全世代型社会保障改革」は、雇用・年金・医療・介護などを全面的に改革し、労働者の雇用環境を「流動化」させるとともに、国民負担を著しく増加させるものである。
 さらに、日米貿易交渉結果の批准という難題もある。貿易交渉は農産物のさらなる市場開放につながる可能性が高く、保守層を含む地方の反発は避けがたい。
 国交正常化後最悪の日韓関係も、わが国経済に悪影響を与えている。
 カジノを含む統合型リゾート(IR)の選定などもある。
 消費税増税の影響次第では、二〇二〇年度予算案前に、補正予算の提出も強いられることになろう。
 安倍首相が憲法改悪に「熱意」を見せたとしても、現実には容易ではない。慎重姿勢を見せる議員は自民党内にも多いし、改憲発議ができたとしても、国民投票で否決されれば政権の求心力は喪失する。
 「安定と挑戦」どころか、内外環境は安倍政権のもくろみの成功を保証するものではない。台風十五号をめぐる対応の遅れは、早くも組閣後の政権を揺さぶっている。

日米関係はさらに険しく
 何より、「米国第一主義」によって日米関係はいちだんと険しくなっている。
 安倍政権、支配層は、拡大する日米矛盾と対米従属との間でジレンマを深め、いずれ「かれら流儀」の範囲内で、日本の「独立」の道を選択せざるを得なくなるだろう。
 だがその道は、現在の従属的日米関係を全面的に清算するものとはなり得ず、中国をはじめとするアジア諸国・人民との平和と共生につながるものでもない。これは、日本の支配階級である大資本家・投資家、多国籍大企業の階級性ゆえの限界である。労働者階級をはじめとする人民が願う、わが国の独立・自主、アジアの共生の進路とは「似て非なる」ものである。
 わが国の独立をめぐり、安倍政権による欺まん的な「独立」か、国民大多数のための独立か、「二つの路線」の争いがますます差し迫った課題となっている。

迫る解散・総選挙
 安倍政権が今秋にでも解散・総選挙に打って出るという観測が浮上している。
 来年には、予算審議と夏の東京五輪を抱えている。今秋に総選挙を行わなければ、実質的に「五輪後」となる。この時期には経済情勢が不透明さを増すのは必至で、解散時期の選択はいちだんと不自由になる。
 安倍政権としては、野党の選挙準備が整わず、消費税増税後の負担に対する実感が「深まらない」うちに、選挙を行う方が有利である。十一月中旬の新天皇による大嘗祭を、政権浮揚に悪用する可能性も高い。
 もし、総選挙で自民党が勝利できれば、安倍総裁の「四選」を可能にする党則改正を求める声が浮上しよう。
 今回の内閣改造は、「後継者」を競わせることとと、「四選」の双方の狙いを持つものであろう。
 野党はどうするのか。安倍政権を「お友達内閣」などと批判するのはよいとしても、政府・与党に対する政策的対抗軸はまったく立てられていない。
 立憲民主党、国民民主党、「社会保障を立て直す国民会議」の旧民進党系三会派は、衆参両院での「共同会派」結成で合意した。だが、原子力発電所の再稼働問題をはじめ、政策上の不一致は多く、総選挙での協力さえ容易ではない。国民民主党は、憲法問題で「秋波」を送られて動揺するありさまである。
 まして、三党は「日米同盟基軸」で与党と同じで、対抗軸を立てられるはずもない。
 片山・日本維新の会共同代表が、参議院選挙の結果について「国民は自民党に飽き始めたが、野党が頼りにならないので、与党の方がまだマシだと考えた」と述べているのは、一定、的を射ている。
 共産党は「野党共闘」で「政権交代」を実現するなどとして、「政権構想」の策定を呼びかけている。だが、旧民進三会派内の違いさえあるのに、共産党が入れば、野党間の意見の隔たりはさらに大きい。
 仮に「政権交代」が実現できたとしても、最悪の日韓関係をどうするのか。社会保障費の財源をどうするのか。これでは、一日として政権を維持することができないことは明らかである。
 そもそも、国の大きな方向である日米関係での一致がないままでの「政権構想」などあり得ないのである。 
 政策的対抗軸なしの「野党共闘」では、安倍政権と闘う力にはなり得ない。安倍政権の「弱さ」を見抜き、広範な戦線をつくって国民運動を巻き起こしてこそ、勝利が可能である。労働組合は、その中心勢力としての役割を果たさなければならない。   (K)


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