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2019年9月5日号 2面・解説

安倍政権/
TICADで中国への対抗画策

米戦略を補完、大国化の狙いも

  日本政府が主導する第七回アフリカ開発会議(TICAD)が横浜市で開かれ、八月三十日、「横浜宣言」を採択して閉幕した。安倍首相は、アフリカとの関係を強める中国に対する対抗心をあらわにさせた。だが、米国の世界戦略を支えつつわが国の大国化を図るという狙いは露骨で、国の進路を誤らせるものにほかならない。


 TICADには、アフリカの全五十四カ国中、過去最高の四十二カ国の首脳級が参加した。
 アフリカは「最後のフロンティア」と呼ばれ、世界経済の成長が鈍化するなか、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ)は二〇一九年に三・五%と、アジアの新興国(六・三%)に次ぐ経済成長率見通しである(国際通貨基金・IMF)。原油、金、プラチナなどの資源も豊富である。現在でも、人口は合わせて約十三億人と中国やインドに匹敵する規模だが、五〇年には二十五億人に倍増、世界の四分の一を占める予想である。今年五月には、関税撤廃などを含むアフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)が四十四カ国で発効、企業や投資家はさらなる成長を期待している。

アフリカと関係強める中国
 アフリカ諸国に対する直接投資は、とくに二〇〇〇年代に入ってから急増している。この市場をめぐる企業、国々による争奪は激しさを増している。
 アフリカへの投資や貿易をずば抜けて増やしているのが、中国である。中国は〇〇年に中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を発足させ、この地域を戦略的に重視してきた。〇六年には中国・アフリカ発展基金を創設、開発資金を提供している。近年では、習近平政権が提唱した「一帯一路」構想の下、一五年のFOCACで三年間・約六百億ドル(約六兆三千七百億円)という巨額の拠出を表明、一八年にも同額の追加支援を表明、その勢いは加速している。アフリカ連合(AU)の安全保障機構である、アフリカ待機軍(ASF)への軍事援助も行っている。
 中国の狙いは、経済発展に欠かせぬ資源を得るとともに、国内の「過剰」のハケ口を確保し、政治的には米国からの圧迫をかわすことである。台湾の影響力をそぐ狙いもある。王毅外相は、アフリカ諸国を「天然の同盟軍」と呼んでいる。

中国への対抗あらわ
 TICADは、この中国に対する対抗をあらわにする会議であった。
 安倍政権はこの会議に向けて、周到な準備を重ねてきた。昨年八月には、日本とアフリカ諸国の元首脳らでつくる「アフリカ賢人会議」の初会合を東京で開いた。これ自身が、翌月に北京で開かれたFOCACをにらんだものであった。
 「横浜宣言」には、安倍政権が進める「自由で開かれたインド太平洋」構想に「好意的に留意する」と明記された。「法の支配」や「航行の自由」を掲げることで、中国の「一帯一路」に対抗しようとするものである。この言葉自体、一六年の前回TICADで安倍首相が初めて打ち出したものであり、安倍政権が中国をけん制する上で、アフリカ諸国との関係を重視していることが理解できる。
 安倍首相は今回、三年間で二百億ドル(約二兆一千億円)以上の民間投資を後押しすることや、人材育成への支援策を表明した。国際協力機構(JICA)は三年で三十五億ドルの円借款、国際協力銀行(JBIC)も同じく四十五億ドルの融資を行う予定である。

安倍の策動は支持得られず
 安倍首相は会議で、中国によるインフラ輸出を「借金漬け外交」などと批判、「質の高いインフラ投資」「持続可能性」を対置した。
 だが、アフリカ開発銀行のアデシナ総裁は、「中国が意図的に債務を負わせようとしているとは思わない。中国はインフラ支援の面で非常に重要な役割を果たしている」と述べ、安倍首相らの宣伝を一蹴(いっしゅう)、日本と中国は「補完的な役割」を果たすべきと述べている。安倍政権による対抗は「迷惑」ということであろう。
 そもそも、中国の対アフリカ政策が、米欧帝国主義諸国による新・旧植民地主義とは比較するまでもない。米欧帝国主義諸国は、数百年にわたってアフリカ諸国・人民を搾取し、奴隷貿易や人種差別政策を行い、資源を強奪し、部族や宗教の違いにつけ込んで戦争をあおり、武器輸出で儲(もう)けてきた。その追随者である日本政府にも、中国を非難する資格などない。
 「横浜宣言」は、「民間部門の役割を認識」と盛り込むことで、政府が主導する中国との違いを打ち出そうともしている。だが、これは国家財政の余裕のなさに規定されたものでもあり、日本の「強み」とは必ずしも言えない。しかも、この間の実績を見る限り、企業のアフリカ進出が「笛吹けど踊らず」となる可能性もある。

米戦略補完のアフリカ支援
 安倍政権の「アフリカ重視」は、米国の世界戦略を補完するものである。
 米国はアフリカへの関与を強化することで、中国をけん制し、同時に豊富な資源や市場を確保し、衰退を巻き返そうとしている。
 米国がアフリカとの関係を重視し始めたのは、ブッシュ政権(二期目)以降である。
 ブッシュ大統領は〇七年、「反テロ」を口実にソマリア内戦に介入、さらに、エジプト以外のアフリカ全土を対象とする「アメリカ・アフリカ軍」を創設した。同政権によるアフリカへの支援額は、クリントン政権の四倍に達した。
 オバマ大統領も一三年、セネガル、南アフリカ、タンザニアを訪問した。一五年にはエチオピア、ケニアを訪問し、AU本部で米大統領として初めて演説し、アフリカに関与する姿勢を強めた。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権は、この方向を加速させている。
 トランプ政権は昨年十二月、新たなアフリカ戦略を発表した。これは、中国とロシアがアフリカに「意図的かつ侵略的に」投資することで「米国の戦略的利益に脅威を与えている」と決めつけ、その「影響力を阻止」するために、アフリカ諸国と二国間貿易協定を中心とする関係強化を進めるというものだ。
 だが、アフリカ諸国は、大国・米国との二国間協定に慎重である。一八年にモーリタニアで開催されたAU首脳会議では、二国間協定を控えることで合意された。
 米国はアフリカに多額の投資残高を有するが、サブサハラでは相対的に出遅れている。これに、先述のような事情が重なる。昨秋、メラニア夫人がガーナ、マラウイ、ケニア、エジプトの四カ国を訪問したが、大統領の訪問はまだない。トランプ政権は、「対中国」や国内対策で手いっぱいでもある。
 安倍政権の対アフリカ外交は、この米戦略を補完するものである。

大国化もくろむ安倍外交
 安倍政権は同時に、米国の衰退を横目に見ながら、大国として登場することをもくろんでいる。「強い日本」がそのスローガンである。それは、世界中に権益を有するようになった、わが国多国籍大企業の要求である。
 トヨタ自動車がアフリカでシェア一位であるなど、日本企業もアフリカ事業を拡大している。とはいえ、アフリカへの直接投資残高はフランスが首位で六百四十億ドルに対し、米国五百億ドル、中国は四百三十億ドルとこれを急追しているが、日本は九十億ドルにも達していない(一七年、国連貿易開発会議・UNCTAD)。明らかに出遅れており、多国籍企業にとって、巻き返しは急務となっている。
 「横浜宣言」には、「安保理を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認」との文言も盛り込まれた。明記はされていないが、支配層の念願である国連安全保障理事会の常任理事国入りに向け、アフリカの支持を増やす狙いである。
 河野外相はアフリカ諸国の国連平和維持活動(PKO)の「能力向上支援」にも言及、自衛官らによる研修を進めるという。
 安倍政権の「大国外交」は、あたかも、米国とは「独自」の動きのように装われている。だがその実態は、述べたように、米戦略の枠内にすぎない。
 安倍政権による「ニセ自立」の対アフリカ外交か、独立・自主でアフリカ諸国・人民と連帯する外交かが問われている。 (K)


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