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2019年9月5日号 1面

日米交渉「大枠合意」
 実質「TPP以上」の大幅譲歩
 安倍政権は交渉内容を開示せよ

 国民経済壊す売国協定許すな

  日米両政府は八月二十三日、貿易協定をめぐる閣僚協議を終えた。茂木経済再生担当相は「閣僚協議は恐らく今回で最後」と述べ、事実上の「大枠合意」に至ったとした。両政府は九月下旬に予定される首脳会談で署名し、安倍政権は十月からの臨時国会で協定批准をもくろんでいる。
 「米国第一」を掲げて登場したトランプ米政権は、二〇一七年一月、オバマ前政権が主導した環太平洋経済連携協定(TPP)から「永久に離脱」した。日本などと二国間協定でTPP以上の譲歩を勝ち取ることで、自国経済の再建を成し遂げようとする狙いからである。
 一八年九月、トランプ政権は安倍政権に迫り、自由貿易協定(FTA)交渉の開始で合意した。当時、安倍政権は「日米物品貿易協定(TAG)」などと称し、さもFTAではないかのごとく装ったが、その欺まんはすでに暴露されている。
 安倍政権は、来年の大統領選に向けて「早期の成果」をアピールしたいトランプ政権の要求に最大限に応えた。トランプ政権は「TPP離脱」によって、牛肉・豚肉の関税低減でオーストラリアなどに遅れをとり、焦りを深めていた。トランプ政権にとって、中国への対処に集中する意味でも、来年の大統領選挙に向けた「実績づくり」の上からも「歓迎」できることであった。安倍政権には、「早期決着」を図ることで、中国に対するような制裁を受けることを避ける狙いもあった。

日本農業を売り渡す協定
 本交渉においては、わが国の農畜産物の市場開放と、米国の自動車分野の関税引き下げでが焦点となった。
 報道されるところでは、牛肉は現行三八・五%の関税を、最終的に九%まで引き下げる。米国向けの緊急輸入制限措置(セーフガード)を設け、輸入急増時に歯止めをかけるとしているが、他のTPP参加国との調整が必要である。合意できなければ、セーフガード発動条件は厳しくなり、国内畜産農家の苦境はさらに深まる。豚肉は差額関税制度を維持した上で、低価格品の従量税(現行一キロで四百八十二円)を段階的に五十円まで下げ、最終的に従価税を撤廃する。トウモロコシ約二百五十万トンや大豆などについては、追加輸入を約束したという。
 コメや小麦は米国向けの輸入枠を設けるが、TPPにおける米国枠(コメは十三年目で最大七万トン、小麦は七年目で最大十五万トン)を維持するかどうか、調整が残っている。低関税輸入枠を設定していたバターや脱脂粉乳など三十三品目については、米国への枠設定を見送る。
 政府やマスコミは「TPP以内の決着」などと宣伝し、「安心」とあおりたてている。茂木担当相は「農業をしっかり守る立場で交渉できた」などと言う。とんでもないデタラメで、ダマされてはならない。
 そもそも、「TPP水準」はわが国農業を壊滅の危機に追いやるものであり、その水準だから「良かった」かのような宣伝はペテンにほかならない。大豆、トウモロコシなどの追加輸入は、明らかに「TPP以上」の市場開放にほかならない。とりわけ、二百七十五万トンものトウモロコシの追加輸入は、日本の飼育用輸入総量の約三か月に相当するもので、米中摩擦で市場を失った米国産品の「ハケ口」にほかならない。トランプ大統領は「全部、日本が買ってくれる」と露骨に述べた。
 コメや乳製品についても、遅かれ速かれ、再協議されることは間違いない。
 また、TPPを離脱した米国との早期合意は、米国を「特別扱い」するものでもある。
 わが国農業は、歴代売国農政によって徹底的に痛めつけられた。TPPだけでなく、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効もあり、すでに存亡の危機に陥っている。
 わが国農業はますます米国に握られ、独立の基礎は掘り崩されるのである。
 これ以上の市場開放は、断じて認められない。農業、食料の確保は、国の独立の基礎である。国境措置の強化でこそ、農業を守ることができる。

財界にも深刻なジレンマ
 米国はTPPで、日本からの輸入自動車への二・五%の関税を、二十五年かけて段階的に撤廃するとしていた。だが、自動車関税の扱いは継続協議となり、気の遠くなるような「TPP並み」さえ危うい。米国が要求をエスカレートさせる可能性さえある。
 国内農業を犠牲に、自らの産業利益を守ろうとした自動車業界、わが国財界は、この状況をどう見るのか。財界にとってさえ「得るものなし」ではないのか。
 しかもトランプ大統領は、主要国(G7)首脳会議後の会見で、将来的に、日本車に高関税を課す可能性を示唆(しさ)した。米国は「交渉カード」としての自動車関税を温存し、日本にさらなる譲歩を迫る構えなのである。米国の危機は、それほどに深い。
 「米国第一主義」が強まるなか、わが国自動車産業はさらなる対米投資拡大など、負担上積みを求められる。電気自動車(EV)化などの技術革新も相まって、広範な裾野を持つ日本自動車産業は、大きな転換を強いられることになる。
 下請・中小企業は存亡の危機で、その下で働く労働者には「雇用消失」の危機である。
 安倍首相とトランプ大統領は、G7に合わせた首脳会議で、協定の合意に向けた日程などの道筋を確認したという。
 依然として明らかになっていないものを含め、交渉内容の全面公開を要求しなければならない。
 先の参議院選挙では、東北地方をはじめとする農業県でも、与党に対する根強い不満と批判が示された。闘いを前進させる条件はある。
 農業をはじめとする国民経済、国民生活を米国に差し出す亡国の協定に反対し、闘う陣形を準備しなければならない。日米協定に反対する大衆行動は、独立・自主の政権をめざす闘いと結び付いてこそ、政治を揺さぶる強力なものとなり得る。
 労働組合はこうした国の命運にかかわる問題で、農民をはじめとする国民諸階層と連携し、もっとも先進的に闘わなければならない。ときに財界の中にある矛盾も利用し、主導権を握って、国民的戦線を形成することをめざさなければならない。   (O)


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