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2019年7月25日号 2面・解説

フェイスブックが
仮想通貨「リブラ」を発表

 米ドル体制、対中戦略に影響も

  SNS(交流サイト)最大手の米フェイスブックは、二〇二〇年前半に独自の仮想通貨「リブラ」を発行すると発表した。これに対して、米議会で公聴会が開かれ、フランスでの主要七カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で議題となった。「構想段階」にすぎないリブラだが、国際金融秩序を揺さぶり、さらに米中関係を中心とする国家関係にさえ影響を与えようとしている。


  G7財務相・中央銀行総裁会議の議長総括では、リブラなどについて「最高水準の規制」を明記した。併せて、フェイスブックなどのIT(情報技術)大手企業の金融参入が、国家経済の根幹である通貨秩序を揺さぶりかねないとの懸念を共有するとした。
 リブラには、複数のクレジットカード大手、ウーバーなどベンチャー企業も出資するという。だが、「構想段階」にすぎない仮想通貨が、なぜ、国際政治の議題になるほどの事態となっているのか。

仮想通貨登場の背景
 仮想通貨とは何か。
 「ビットコイン」などの仮想通貨が次々登場してきた背景は、リーマン・ショック以降の危機から脱出するため、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする先進諸国中央銀行が、大規模な金融緩和を行ったことである。世界で流通するドル(ワールドダラー)は約三倍に膨れあがり、世界の投機資金の総額は実体経済の四〜十二倍にも達しているという。
 緩和政策によって資産や商品価格が上昇、多国籍企業と投資家は空前の利益を得たが、多数の人民はますます貧困化している。これで需要が活性化するはずもない。それだけに、投資家はますます投機に血道を上げている。
 仮想通貨は、「血に飢えた」投資家にとって、格好の「新商品」である。スマートフォン(スマホ)の普及や、フィンテック(金融技術)などの急速な技術革新が、この普及を後押ししている。

金融秩序に大きな影響
 ただ、リブラの影響はこれにとどまらない。
 それは、フェイスブックが全世界で三十億人近いユーザーを抱える、一種の「世界的社会インフラ」の一つだからである。従来の仮想通貨に比して、発行主体である企業の規模と資金力が、比較にならないほど巨大である。
 当面、リブラが想定しているのは、スマホを使ったユーザー間の直接送金である。だが、フェイスブックが、自社SNSへユーザーの書き込みや行動の解析データと組み合わせれば、金融業への進出も容易である。空前の巨大金融機関が誕生する可能性さえある。
 リブラが世界に広がれば、現代資本主義の頂点に立つ巨大金融独占体は「仕事を奪われる」に等しい。法人・個人を問わず国境を越えた送金が容易となるため、銀行支店や窓口は不要となってしまう。他企業の態度次第では、国を超えた「リブラ経済圏」がつくられる可能性もある。
 各国中央銀行、すなわち政府も揺さぶられる。
 すぐにはあり得ないだろうが、フェイスブックの全ユーザーがリブラを日常的に使えば、各国通貨の四割近くが決済に使われなくないという計算になる。現実の通貨価値の価値が下落する可能性もある。各国通貨、ひいては中央銀行、政府の信認にかかわる問題となる。
 「国の通貨に代わるデジタル通貨は容認できない」(ルメール仏経済・財務相)などの声が相次ぐ事態である。
 通貨は国家権力を背景として、初めて成立し得る。一企業が発行するリブラが成立し、仮に成功すれば、この概念そのものが揺らぐことになる。
 リブラは、世界の金融独占体の様相を激変させる可能性をはらんでいる。

米ドル体制に深刻な影響も
 世界経済にとってはどうか。
 新興国では銀行口座を持たない低所得者が多い。フェイスブック側は、リブラでこうした層に金融サービスを提供するなどとしているが、現実には、全世界からの収奪強化である。
 さらに、一般的に通貨の信用が低い新興諸国から資金が流出し、インフレなどの経済危機を引き起こす可能性さえある。
 もっとも神経をとがらせているのは、米帝国主義である。
 第二次世界大戦後、米帝国主義は圧倒的な軍事力と、それに裏付けられた基軸通貨ドル体制によって、世界を支配してきた。
 リブラは、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)のような通貨バスケットを裏付けとする。現段階の構想では、ドルが約半分、ユーロ、英ポンド、円などで構成し、中国・人民元は「入らない」という。フェイスブックは「ドルと競合する気はない」としているが、客観的には、ドルの使用される場所が減少することになる。
 リブラの規模が拡大・縮小すれば、その最大の裏付けであるドル自身が揺さぶられかねなくなる。これは、国内通貨と国際通貨が同一であるという「基軸通貨国の特権」を活用し、世界を収奪してきた米国にとって、容認しがたいことである。
 リブラの事業本部(リブラ協会)はスイスに置かれ、同国の監督を受けるという。だが、「国家的租税回避地」(タックスヘイヴン)といえる同国への設置は、金融面の「ライバル国」である米国の直接監督下にはないということでもあり、米国が警戒するのに十分である。
 米国にとっては、安全保障上の問題でもある。
 ムニューシン米財務長官は、リブラが「マネーロンダリング(資金洗浄)やテロリストに使われる恐れがある」とした。つまり、反米国・勢力の資金調達手段として活用されることを恐れているのである。
 米国は、現在、朝鮮民主主義人民共和国やイラン、ベネズエラなどに対して金融制裁を科している。リブラが普及すれば、この外交カードも威力を減殺されかねない。
 このようにリブラは、客観的には、米ドル体制を掘り崩す可能性を持つもので、米国の世界支配を重大な危機に直面させかねないのである。

中国が対抗手段を準備
 リブラは、国際政治の力関係にも影響を与え、新たな国際的争奪の焦点ともなっている。
 フェイスブックは米議会公聴会で「米国がデジタル通貨の革新を主導しなければ、他の国がやる」と述べた。これは事実上、「リブラを認めない限り、中国に負けるぞ」という意味にほかならない。フェイスブックは中国を意識し、金融をめぐる新たな争奪戦の開始を米政治家に告げ、リブラへの協力を呼びかけている。
 その中国は昨年一月、国内での仮想通貨取引を禁止した。だが、周小川前人民銀行総裁は、リブラ構想に直ちに反応し、「リブラに対して予防措置をとるべき」「将来的には、さらに国際化されたグローバルな通貨、主要通貨と交換するような強力な通貨があらわれるだろう」と、対抗手段を準備する意思を示している。
 これは、リブラが米ドルを主要な裏付けとして人民元を含まないとされていること、フェイスブックの中国市場参入を認めていないこと、さらに、フェイスブック側の中国への対抗姿勢を意識したものであろう。
 中国はすでに米国に次ぐ経済規模を持ち、数年後には追い越すとされている。金融技術においても、米国とそん色ない水準に達している。戦略構想「一帯一路」などで、新興諸国から欧州まで、その影響力を拡大させてもいる。
 この中国が何らかの仮想通貨を提唱すれば、賛同する国が出ることは想像に難くない。
 このように見ると、米政府はさまざまな懸念を持ちつつも、規制強化などの条件をつけることで、リブラを認めざるを得ないであろう。米国にとって、リブラが、中国に対抗する新たな手段ともなり得るからでもある。
 国際政治をめぐる米中の対抗は、仮想通貨という新たな分野を含みつつ急速に拡大・深刻化している。  (K)


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