ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2019年7月15日号 1面

安倍政権、半導体材料に規制 
大国外交はアジアで孤立の道

 韓国への制裁を直ちにやめよ

   安倍政権は七月一日、韓国への半導体材料の輸出規制の厳格化を発表、四日に実施した。対象となったレジスト(感光材)など三品目は、スマートフォンのディスプレイ向け有機ELなどの製造に使用されるものである。
 安倍政権は併せて、韓国に対して、安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定を政省令によって解除する方針を示した。工作機械や炭素繊維などが輸出規制強化対象に加えられるという。
 安倍首相は六月の二十カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で、議長として「自由で公正かつ無差別な貿易」などとする宣言をまとめた。その舌の根も乾かぬうちの対韓制裁措置の発動である。
 日韓関係は、従軍慰安婦問題やレーダー照射問題、さらに元徴用工問題によって悪化していた。今回の安倍政権の暴挙は、両国関係を戦後最悪の状態に突き落としている。
 韓国の文在寅政権は、日本政府に「措置撤回と両国間の誠意ある協議」を求め、報復の可能性を示唆(しさ)した。さらに、世界貿易機関(WTO)に異議を申し立てるとした。韓国では、日本製品の不買運動が広がりつつある。
 韓国政府・国民の反発は、きわめて当然のものである。安倍政権が「理由」としてさまざまあげているのは、「後付け」の屁理屈にすぎない。
 日本は不当で理不尽な措置を直ちに撤回し、韓国との関係を正常化させなければならない。

韓国経済への打撃狙う
 規制対象となった三品目は、いずれも日本企業が七〜九割という圧倒的シェアを有している。韓国企業は対応を急いでいるが、規制強化で韓国への輸出に時間がかかるようになれば、生産に影響が出る可能性が高い。
 半導体産業は、韓国の輸出額の約二割を占める「主要産業」といってよい。サムスン電子、SKハイニックスの二社だけで、韓国政府の法人税収の約四分の一を占めるほどである。すでに、米国による中国への制裁、とくに半導体の大口顧客である中国・華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置で、韓国企業は打撃を受けている。
 安倍政権はこうした実情を知った上で、半導体を韓国の「泣きどころ」と見定め、ここを突いて揺さぶろうとしているのである。
 周到かつ、卑劣な策動と言わなければならない。

安倍外交の一環
 安倍首相は、請求権問題や朝鮮民主主義人民共和国への制裁措置などを取り上げ、「かれら(韓国)が言うのは信頼できない」とまで述べた。
 居丈高な態度は、さながら「小トランプ」ともいうべきものである。
 この背景は何か。
 こんにち米国は、台頭する中国を抑え込んで衰退を巻き返そうとしている。安倍政権はこれを横目に見、米国の対中国戦略を支えながら、「アジアの大国」として登場することをめざしている。自民党の参議院選挙のスローガンの一つ、「力強い日本外交」がそれである。
 具体的には、「地球儀俯瞰(ふかん)外交」、空前の軍備増強、集団的自衛権のための安全保障法制や特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃などの安全保障上の問題から、国際捕鯨委員会(IWC)脱退まで枚挙に暇がない。
 今回の措置は、こうした流れの一環である。
 これは、対米追随の枠内にすぎないが、金融機関を頂点とするわが国多国籍大企業の要求でもある。
 日本が侵略戦争と植民地支配について真摯(しんし)に反省してこなかったことも背景にある。米ソ冷戦構造の下、強国・米国の影に隠れたわが国は、深刻な反省抜きで、旧支配層を温存したまま「国際社会に復帰」できたのである。
 それにしても、安倍政権がここまで対韓強攻策に踏み込んだことには、直近の米中首脳会談や米朝首脳会談などの情勢と、米国のアジア介入の強化を見て取ることができる。
 衰退する米帝国主義は、悪あがきをいちだんと強めている。トランプ大統領は、再選戦略の強化に迫られている。
 トランプ政権に影響力を持つルトワック・戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーは、「韓国は中国の覇権に対抗するための国際連携の一員に加わることはできない」とし、韓国を「無視すべき」と説いている。
 安倍政権が米国を意を受け、対中国、対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)政策で自主性を維持する韓国・文政権を揺さぶる役割を買って出たというのは、考えすぎだろうか。

制裁は亡国、孤立の選択
 だが、無法、理不尽な対韓国制裁は、わが国にとって亡国の道である。
 わが国は他国の訴訟結果に報復し、内政干渉する卑劣な国として、アジア・世界でますます孤立することになる。制裁が解除されたとしても、世界は「以前と同じ日本」とは見ないであろう。
 今回の措置が続けば、わが国経済にも重大な悪影響が必至である。「産業のコメ」とも言われる半導体の生産・供給が乱れれば、その影響は甚大なものとなる。
 中長期的にも、「日本抜き」のアジアの経済構造を促してしまう可能性がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」が「日本は自ら墓穴を掘っている。日本企業が韓国での仕事を失うからだ」と分析する通りである。
 わが国労働者の雇用や賃金、国民生活にも影響は必至である。
 安倍外交の行き詰まりと破綻は、いちだんと鮮明なものとならざるを得ない。
 「(日本は韓国への)”上から目線”の行動になっていないか」(高杉・韓国富士ゼロックス元会長)など、財界にも不安と不満の声が広がっている。
 安倍政権の不当な対韓外交に反対し、制裁を直ちにやめさせなければならない。
 現在、参議院選挙が行われているが、野党は安倍外交に追随するのみで、ほとんど批判していない。共産党でさえ、「野党共闘」を口実に、日米関係、安倍外交への批判を後退させている。
 ジャーナリストである冷泉彰彦・プリンストン日本語学校高等部主任は、野党の現状を「ナショナリズムに関わる問題では及び腰といいますか、流されるがまま」で、「その意味では(安倍政権と)同罪とも言えます」と断じている。一定の示唆に富む見解である。
 政治をただす何よりの力は、労働者階級をはじめとする国民諸階層の行動であり、国の進路の問題で明確な立場を打ち出さなければならない。独立・自主、アジアと共生する国の進路を実現するために、力を尽くさなければならないのである。       (K)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2019