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2019年6月25日号 1面

「年金2000万円」問題
 「貯蓄から投資」は政府の責任放棄

大銀行のための政治を打ち破れ

  金融庁審議会の報告書を機に、公的年金をめぐる問題が安倍政権を揺さぶっている。
 六月三日にまとめられた報告書「高齢社会における資産形成・管理」(以下、報告書)は、公的年金だけでは老後の生活に二千万円不足するなどとし、個人による資産運用が必要などとしている。それだけではない。資産が不足するなら「不動産の売却」や「地方への移住」などを行うべきとした。
 この報告書によって、小泉政権時代の二〇〇四年に「百年安心」などとされた現行年金制度の破綻が、従来にも増してあらわになった。最終的には削除されたが、報告書原案には「公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性」と、露骨に書かれていた。
 国民すべてが安心して老後を送れるようにすることこそ、政府の責任である。給付額削減のために導入された「マクロ経済スライド」を廃止し、年金制度の拡充を進めなければならない。そのための財源は、大企業や投資家に応分に負担させるべきである。
 財界・支配層は世論の注目を逆手に取り、年金をはじめ社会保障制度をさらに改悪するための世論操作を推し進めようとしている。二十一日に閣議決定された「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)、十九日の財政制度審議会(財務相の諮問機関)建議も、社会保障制度改悪の加速化を打ち出している。
 問題の報告書の内容は、年金問題にとどまらない。では、何を狙ってまとめられたものなのか。
 金融庁報告書をまとめたワーキンググループには、神田・学習院大学教授を座長に、バブル崩壊後に大銀行への血税注入を主導した池尾・立正大学教授、米最大の投資ファンドであるブラックストーン日本法人など、金融関係者の役員とその代理人がズラリと並ぶ。さらに、全国銀行協会や日本証券業協会などがオブザーバーとして加わっている。
 このグループの目的は「資産形成・管理」という報告書の名前通り、「高齢社会のあるべき金融サービスとは何か」を打ち出し、「貯蓄から投資へ」を推進することであった。
 これは、このグループだけの考えではない。「貯蓄から投資へ」は、とくに小泉政権以降の歴代政権が進めてきた政策である。
 〇二年のペイオフ部分解禁、〇一年の確定拠出年金(日本版401k)、〇三年の証券投資優遇税制(キャピタルゲイン減税)、〇七年の金融商品取引法、一四年の少額投資非課税制度(NISA)、一八年の積立NISAなどである。
 こうした政府・支配層の策動にもかかわらず、約一千八百兆円とされるわが国の家計資産の過半は、依然として預貯金である。
 国際競争はいちだんと激化し、フィンテック(金融技術)、人工知能(AI)などの技術革新が金融の世界をのみ込み、巨大インターネット企業など異業種からの参入も相次いでいる。金融独占体の頂点に立つ大銀行でさえも、存続の瀬戸際にある。
 三メガバンクを頂点とするわが国金融資本・多国籍大企業は焦りを深め、生き残りを掛けた策動を強化している。すでに、海外展開と合併・買収(M&A)、国内支店の統廃合、ATM廃止、さらに数千人規模の大規模リストラが始まっている。
 巨大金融機関は「人生百年時代」を口実に、預貯金など国民の資産を株式や投資信託などの金融市場(バクチ場)に引き出してリスクにさらし、手数料などの形でいっそう収奪しようとしているのである。
 これは、日本市場への参入を狙う米巨大金融資本の要求でもある。
 報告書が、政府に投資優遇税制の拡大を求めたのは、このためである。
 報告書は、国民一人ひとりが「早い段階」で資産運用を始めることを求めている。まさに「バクチのススメ」である。
 これは、国民生活を保障すべき政府の責任を放棄するものである。
 政府・自治体による「公助」ではなく、国民が自ら行う「自助の充実」を説くものでもある。「地方への移住」を推奨するなどという無責任な内容は、「自助論」「自己責任論」の行き着く先を示している。それは、国民犠牲のさらなる増大であり、一種の棄民政策といってよい。
 これは、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という日本国憲法第二十五条の規定を、政府自らが破壊するものにほかならない。
 報告書が発表された直後、麻生財務相はその内容を受けて「資産形成の重要性」を説いた。世論の反発を受けて「(報告書を)受け取らない」などと言ってはいるが、ワーキンググループは、政府の政策をさらに進めるための報告書をまとめたにすぎないのである。
 年金制度の問題だけでなく、「誰のための報告書、金融政策なのか」という点こそ、暴露・批判されなければならない。
 この問題を中心に、国会で一年ぶりの党首討論が行われた。安倍首相は「年金制度の持続性は担保されている」と繰り返し、「論点そらし」で逃げ回った。
 だが、野党は、年金の財政検証が「五年前の検証に基づくものなのか、最新の財政検証に基づくものなのか」(玉木・国民民主党代表)などと、政府答弁の「根拠」を追及するか、麻生財務相を批判するばかりであった。
 野党は総じて部分的な「批判」にとどまり、大銀行に奉仕する安倍首相の階級的正体を見抜けていないのである。また、安倍政権が解散・総選挙に打って出ることに怯(おび)え、追及しきれなかったといってよい。
 対米従属で金融資本の代理人、安倍政権を打ち破らなければならない。(K)


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