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2019年6月15日号 2面・解説

安倍首相のイラン訪問

 自主外交なしに「仲介」は不可能

  安倍首相は六月十二日から、現職首相として四十一年ぶりにイランを訪問した。マスコミはこれらを「仲介外交」などと賛美している。大阪で行われる二十カ国・地域(G20)サミットも相まって、安倍政権・与党は、来る参議院選挙の公約の第一に「外交」を掲げて争う構えである。だが、「仲介外交」は対米従属の枠を一歩も出るものではない。安倍政権の振りまく「自主性」は欺まんで、打ち破らなければならない。


  イランを訪問した安倍首相は、ロウハニ大統領、最高指導者のハメネイ師と会談した。首相は、情勢の「緊張の高まりを深刻に懸念している」とし、米国との対話を促したという。ハメネイ師は「核兵器を製造も保有も使用もしない。その意図もない」と述べたという。

米国の敵視政策が根源
 安倍首相のいう「緊張の高まり」の責任は、米帝国主義にある。
 かつてイランは帝政が支配し、「湾岸の憲兵」として米国の傀儡(かいらい)であった。
 この反動体制を打倒したのが、一九七九年のイラン革命である。宗教指導者が主導権を握ることになったとはいえ、この政変は、世界の反帝国主義の気運を前進させるものであった。
 米国はイランへの憎悪をたぎらせ、その打倒をめざした。八〇年には国交断絶と経済制裁を実施し、これは次第に強化されている。イラン・イラク戦争(八〇〜八八年)ではイラクに肩入れした。八四年には「テロ支援国家」と決めつけ、ブッシュ大統領は「悪の枢軸」と呼んで先制攻撃による打倒まで公言した(二〇〇二年)。
 〇〇年代初頭にイランによる核開発計画が明らかになると、米国は「平和目的」とするイランの主張を一切顧みず、敵視政策をエスカレートさせた。
 だが、米国はすでに衰退著しく、一五年には欧州諸国が主導し、ロシアや中国を巻き込んで「核合意」が成立した。イランが遠心分離機などを削減することと引き換えに、制裁の緩和が決まった。
 米国のイラン敵視政策は、大きな挫折を強いられたのである。

「巻き返し」策すトランプ
 トランプ政権は一八年、「核合意」から一方的に離脱し、イランへの再制裁を強行した。
 ポンペオ米国務長官は、サウジアラビアで石油タンカーが破壊された事件を「イランが背後にいる」と決めつけて揺さぶった。イラクでのロケット弾攻撃に関しても、イランの関与を示唆(しさ)した。
 トランプ大統領は空母とミサイル駆逐艦のペルシャ湾への派遣に続き、米軍一千五百人を中東に追加派兵することも決めた。米国は「無条件の対話」「(イランの)体制転換は望んでいない」などと言うが、実際にはイランへの圧迫を強化しているのである。
 また、米国は「核合意」よりもさらに厳しい要求をイランに突き付けている。それは弾道ミサイル開発の停止など、イランの主権を侵すものである。
 トランプ政権の狙いは、中東への支配強化である。併せて、イランとの関係を強化している中国を抑え込んで、衰退を巻き返すことである。来年の大統領選挙に向けての支持を固める狙いもある。
 石油禁輸で打撃を受けてはいるイランだが、ロウハニ大統領が「米国との交渉を拒否する」「米国が原油禁輸制裁を解除すれば対話の道が開ける」と語ったのは当然である。
 すでに、米国の「第一の敵」は台頭する中国である。だが、米国には、中国と第三国との「二正面作戦」を行えるほどの力はすでにない。まして、中東の大国で、各国内のシーア派勢力にも隠然たる影響力を持つイランとの武力衝突は、この時点では避けたいところであろう。
 安倍政権の力を借りて当面の緊張激化を防いで時間を稼ぎ、「対中国に集中する」ことこそ、トランプ政権の本心である。

安倍政権の狙い
 こうした環境下で、安倍首相は米国とイランを「仲介」しようとした。
 これは、五月末の日米首脳会談における、トランプ大統領の求めに基づくものである。イラン側もトランプ訪日に先立ってザリフ外相が訪日した。
 日本は、イランとは比較的友好関係を維持してきた。今年は、日本とイランの国交樹立九十周年に当たる。日本にとって、イランはかつて第三位の原油輸入相手国(一九九五年〜二〇〇七年)であり、全輸入量の一割前後を占めていた。米国に「配慮」して最近は減ったが、それでも第六位である(一七年)。
 安倍政権の狙いは、激動する世界において中東地域での存在感を高めることを通じて、わが国を大国として登場させることである。 安倍首相は訪問に先立ち、サウジアラビア、イスラエルの首脳と電話会談し、根回しした。また、六月末の二十カ国・地域(G20)サミットの議長国として、イランを会議に招いて「成果」を国際的にアピールしたいようである。
 わが国は原油の八割を中東からの輸入に依存している。支配層にとって、資源の安定確保を妨げる事態は避けたいところである。
 さらに、米国が物品・貿易協定(TAG)など対日要求をエスカレートさせるなか、それを緩和させる思惑もある。
 対イランの「仲介」の見返りに、米国に対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との首脳会談を「仲介」してもらうという思惑もある。
 また、夏の参議院選挙に向けた「実績づくり」でもある。実際、自民党の参議院選挙に向けた公約では、「外交」を第一に掲げ、この分野を有権者に売り込む意図を鮮明にさせている。

対米従属の枠内のもの
 このように、安倍政権による「仲介外交」は、一定の「自主性」をはらむものである。だがそれとて、対米従属の枠内にすぎない。
 自民党の参議院選挙公約でも「日米同盟をよりいっそう強固に」としている通りである。
 これまでの対イラン外交においても、日本は〇六年、米国のイラン敵視政策に追随し、アザデガン油田の開発から撤退せざるを得なかった。安倍政権も、一六年と一八年のイラン訪問の予定を、いずれも米国の事情に配慮して取りやめている。
 イランが、こうした安倍政権の性格と限界を見抜いていないはずがない。マスコミの一部でさえ、わが国イラン首脳の発言を「首相への敬意の側面が強い」(毎日新聞)と記している。
 安倍首相による訪問は、米国のさらなる対イラン強硬政策の「アリバイづくり」にされる可能性さえある。「日本の首相が仲介してもイランは屈しなかった」というわけである。
 会談直後の十三日、またもホルムズ海峡でタンカーが攻撃を受け、ボルトン米大統領補佐官は「イランの仕業」と決めつけた。安倍政権の「実績」は、早くも吹き飛ばされそうである。
 安倍政権の「仲介外交」は、客観的には、米世界戦略の片棒を担ぐものでしかない。日本の対中東外交は損なわれ、ますます孤立することになる。

自主外交こそ必要
 そもそも、自主外交を貫けぬわが国に「仲介外交」など不可能である。
 「仲介」というのであれば、双方に譲歩を求め、ときに自らが先導しなければならない。最大の障害は、いうまでもなく米国のイランへの敵視政策である。
 「仲介外交」というと、韓国・文政権が朝鮮半島問題において果たしてる役割を思い起こす論調もある。だが、安倍政権には文政権ほどの自主性はないし、日本とイランの間には南北関係のような関係も存在しない。文政権は、朝鮮への制裁措置の解除につながるような提案まで行った。対米従属の安倍政権に同様のことができるはずもない。
 しかも、中国やロシアはもちろん、欧州も「核合意」の維持を求めており、イランとの関係強化も望んでいる。日本がこれらの国を超えて、役割を果たせる保証はない。
 安倍政権による「仲介外交」に幻想を持つことはできない。参議院選挙公約で「外交」を第一に掲げたのは、ますます政治的欺まんに依存せざるを得ない状況の反映である。
 重要な外交課題の解決を他国に委ねて、自国の運命を切り開けるはずがない。国際社会で自主的立場を堅持してこそ、「仲介外交」なども可能となる。
 わが国は、米国のイラン敵視政策に反対し、独自の対中東、エネルギー政策を確立すべきである。そのためには、独立・自主の政権を樹立することこそ肝要である。      (K)


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