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2019年6月5日号 2面・解説

欧州議会選挙/
極右など「懐疑派」が3分の1に

  欧州世論の分裂はさらに深刻化

  欧州議会選挙が五月二十三〜二十六日、欧州連合(EU)加盟各国で行われた。世界資本主義の危機が深まるなかで行われた選挙は、旧来の二大勢力が後退、極右勢力をはじめとする新興勢力が前進するなど、欧州有権者の政治意識の分裂があらわになった。選挙結果を受け、各国での政治闘争、階級闘争のさらなる激化は必至である。


  欧州議会選挙は、五年ごとに行われている(定数七百五十一)。EU加盟国ごとに、人口に比例した定数が割り振られている。本会議はフランスのストラスブールで行われ、議員は国を超えた会派ごとに行動する。
 欧州議会は欧州委員会の人事について拒否権を持つが、法案提出権は持たない。立法権は、各国政府首脳や欧州委員会委員長などで構成される欧州理事会と分担している。
 現在の政治状況の下では、欧州議会の権限は限られたもので、各国の国内政治に対する強制力は弱い。ただ、現在、棚上げされているリスボン条約が発効すれば、権限は拡大される。各国有権者の政治意識を推し量る上で一定程度有効である。

危機深まるなかでの選挙
 今回の選挙は、前回(二〇一四年)に比して、世界経済のいちだんの成長鈍化を、米国による中国への追加関税がさらに下押しし、諸国内の階級矛盾が激化するなかで行われた。
 リーマン・ショック後、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和と諸国政府の財政出動で破局は押しとどめられた。だが、ギリシャ、イタリアなどを中心に財政危機は深刻化、人民の生活は「回復」どころか、緊縮政策によるさまざまな犠牲が押し付けられた。景気は回復どころか、けん引車であったドイツ経済も落ち込んできた。ECBの緩和「出口」は延期に追い込まれた。
 こうしたなかで難民問題や財政政策などを契機に、欧州統合の進展に対する不満が、各国で高まった。各国での階級矛盾は激化している。
 これを反映し、選挙による政権交代が相次いだ。各国では旧来の政治勢力が後退する一方、不満の「受け皿」として、極右をはじめとするいわゆる「ポピュリズム勢力」が伸長した。この勢力は、イタリアやオーストリアなど、一部の国では政権を握るにまで至っている。
 他方、フランスでは、直接行動による反政府運動が激化、政府を追い詰めている。
 こうした情勢下で行われた欧州議会選挙は、客観的には、EUそのものの信認が問われる選挙になったといってもよい。

懐疑派が各国で躍進
 最大の注目は、「EU懐疑派」、あるいはいわゆる「ポピュリズム勢力」がどの程度の議席を得るかという点であった。
 「懐疑派」は前進し、全体の三分の一に達した(勢力図などを3面に掲載)。
 とくに極右系会派「国家と自由の欧州(ENL)」は、三十七議席から五十八議席に前進。同じく右翼系の「ドイツのための選択肢(AfD)」やイタリア「五つ星運動」などでつくる「自由と直接民主主義の欧州(EFDD)」も、四十一議席から五十四議席に増加した。
 この両会派は合わせて百十二議席に前進した。
 なかでも、イタリア「同盟」、フランス国民連合(RN)、英・ブレグジット党が、それぞれ「国内第一党」となったことは、各国政局に衝撃を与えている。
 ただ、極右勢力は事前の予想ほどには議席を得られなかった。EU離脱をめぐる英国情勢の混迷が影響し、各国の中間層が「親EU勢力」につなぎ止められる方向に働いた可能性がある。
 ドイツ左翼党、スペイン「ポデモス」などが加わる「統一左派・北方緑の左派同盟(EUL/NGL)」は、五十二議席から三十八議席へと後退した。
 対して、「親EU」勢力は定数全体の三分の二を確保した。
 「親EU」で共通する、欧州諸国における二大政治勢力である中道右派(欧州人民党=EPP)と中道左派(社会民主進歩同盟=S&D)は、合わせて四百四議席(議席占有率五四%)から三百三十一議席(四四%)へと大きく後退、過半数を確保できなかった。  これは、欧州議会選挙で初めてのことである。
 危機を背景に、有権者は旧来の二大政治勢力を見放しつつあることが示された。
 「親EU」を掲げる中道勢力「欧州自由民主同盟(ALDE)」は、六十八議席から百五議席に前進した。フランス、マクロン大統領の与党である「共和国前進(REM)」が合流したことが大きい。
 どちらかというと「親EU」である環境保護勢力「緑の党・欧州自由連合」は、五十二議席から六十九議席に増加した。ドイツ緑の党は、国内では社民党を抜いて第二党となった。
 全体に、「懐疑派」と「親EU派」の双方が伸びたという意味で、欧州世論の分裂が顕著になったといえる。

今後も流動的な会派情勢
 欧州支配層は、事前の予想ほどに「懐疑派」が伸びなかったことに安堵(あんど)しているかもしれない。かれらは、EPPとALDEを軸に、ときにS&Dと連携した議会運営を希望しているのだろう。
 ただ、極右勢力の動向次第では、中道右派が右に引きずられ、勢力関係が変化する可能性もある。極右勢力内の動向にも、不透明な面がある。難民問題や対ロシア政策を中心に政策上の隔たりが大きいからである。しかも、ブレグジット党の議席(二十九議席)は、英国のEU離脱の再延期が認められず、十月末に強制離脱となれば失われてしまう。
 当面の焦点は、秋に退任するユンカー欧州委員長の後任人事とされるが、各国、会派間の調整は難航している。何より、難民問題、通商問題を中心に、各会派間の意見の隔たりは大きい。

各国政局も厳しく
 選挙結果を受け、各国の政局も変化する。
 英国では、ブレグジット党が第一党になり、離脱世論の強さが印象づけられた。労働党と保守党はともに一割前後しか得票できず、自民党や環境保護派を含む「親EU派」が合計でブレグジット党と同等の得票を得た。二大政党の衰退と、世論の分裂はいちだんと鮮明である。メイ首相の辞任は決まったが、誰が後継になっても、政局の混迷は続こう。
 フランスではRNが前回に続いて第一党となり、マクロン政権には打撃となった。国内的にはマイナスもあるが、従来の二大政党である共和党と社会党が一ケタの得票にとどまって惨敗したことで、REMは「反右派」を結集しやすくなった面もある。マクロン政権にとってはむしろ、大衆行動への対処が当面の課題であろう。メルケル首相の退陣が近づくなか、マクロン大統領は欧州政治における発言力の強化をめざすだろう。
 ドイツは、メルケル政権の連立相手の社民党(SPD)が得票率わずか一五%で惨敗、同時に行われた地方選でも敗れ、党首が辞任に追い込まれたた。来年秋に任期を終えるメルケル首相後の政権の枠組みづくりは、さらに不透明性を増した。
 ハンガリー、ポーランドなど「EU離れ」を強めてきた国では、政権与党が勝利した。
 ギリシャでは、与党・急進左派連合(SYRIZA)が野党・新民主主義党(ND)に第一党の地位を譲り、チプラス首相は総選挙に打って出る構えである。
 EUと距離を置く姿勢が「票になる」となれば、EUはさらに不安定化する。
 欧州議会の推移は、何より、各国内の情勢の推移に規定される。英国に典型的だが、各国内では階級矛盾が深刻化し、合意形成はますます困難になってきているからである。
 各国内での階級矛盾の激化は、どの政治勢力によるものであれ、フランスのような大衆行動で決着を付ける方向に向かわざるを得ない。
 欧州の政治危機は「明日の日本」である。わが国内外の危機は、米中の狭間でますます深まっている。アベノミクスは行き詰まり、財政危機は欧州よりも深刻である。アジアの緊張は高まっている。
 そのような激動に耐え、労働者階級の根本的利益を代表する、マルクス・レーニン主義の革命政党が各国で育つことでこそ、真の打開の道である。  (K)


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