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2019年5月25日号 1面

激化する米中対立と対日要求
 
独立の進路こそ唯一の活路

   米通商代表部(USTR)は五月十三日、中国からの輸入品を対象とする、二五%の追加関税「第四弾」の詳細を発表した。三千八百五品目・総額三千億ドル分(約三十三兆円)という空前の規模で、中国からの輸入品のほぼすべてが対象となる。
 これに先立つ五日、トランプ大統領が二千億ドル(約二十二兆円)相当の中国製品への関税を二五%に引き上げると表明したことに続き、「矢継ぎ早」の制裁措置である。
 さらに十五日、トランプ政権は中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)への輸出禁止措置を発動した(一部取引は三カ月間猶予)。同社がイランと取引したとの口実である。ファーウェイは世界から年間六百七十億ドル(約七兆円)、うち米国から百億ドル以上の部品を購入している。同社への制裁は、米国企業を含めて全世界に重大な影響を与える。
 米国が中国に対する通商攻勢を仕掛け始めてから、ほぼ一年が経過した。当初、ほとんどの政治家、あるいはマスコミも「不均衡是正が目的」と理解していた。だが、わが党が当初から指摘していた通り、米国の狙いがそれにとどまるものでないことは明らかである。
 衰退を早める米国は、中国の台頭を抑え込み、世界への覇権を維持しようとしている。米国による中国への包囲と攻勢は、少数民族の「人権」問題などを含め、経済、政治、安全保障にわたる全面的なものである。
 台湾問題でも、米国は駆逐艦を派遣するなど軍事挑発を強めている。
 大きな焦点の一つが、先端技術発展戦略「中国製造二〇二五」を阻止し、米国の技術覇権を維持することである。米国が求める中国の「構造改革」要求の主要な狙いは、そこにある。経済圏構想である「一帯一路」に対しても、米国は何かと難クセをつけている。
 両国は、六月に大阪で行われる二十カ国・地域(G20)サミットの際に首脳会談を行って打開することをめざしていると報じられている。だが、「一時停戦」はあり得ても、完全な合意は容易ではない。
 中国にとって、米国の要求は自国の発展戦略に対する内政干渉にほかならない。米国製品の輸入拡大などはともかく、戦略自身の撤回は断じてできないことである。「中華民族の偉大な復興」を掲げた習近平政権にとって、過分な譲歩は国家主導の経済発展モデル、ひいては共産党支配の存立にかかわる事態につながりかねない。
 米国も引くに引けない。トランプ政権は二〇年の大統領選挙を控え、「実績」づくりを焦っている。だが、中国に対する制裁で、米国企業も大きな「返り血」をあびる。すでに、追加関税を批判する公開書簡を出した業界団体もある。追加関税で諸物価が上昇、米国民の負担は確実に増える。これは、トランプ政権成立の背景となった、「ラストベルト地帯」など地方の貧困層に犠牲を押し付けることになる。対中圧力に賛成する民主党も、「ロシア疑惑」などで政権を揺さぶる。
 偶発的事態を含め、米中の軍事衝突さえあり得る情勢である。アジアの緊張が高まっている。
 米中対立は長期戦にならざるを得ないが、その帰すうは、両政権が国内で支持を固めきることができるかどうかにかかっている。
 ただ、米国が軍事力に訴えられないとすれば、時間は「中国の味方」となり、米国による衰退の巻き返し策は失敗するだろう。
   *    *
 米中両国の狭間で、わが国の進路が問われている。
 長期デフレを脱却できないわが国経済は、米中対立という新たな「大津波」にさらされている。昨秋以来、電子部品や半導体製造装置などハイテク関連製品の輸出は大きく失速、財界は「尋常ではない変化」(永守・日本電産会長)に危機感を募らせている。さらに櫻田・経済同友会代表幹事は、米中対立への対応策として「サプライチェーンのあり方やもののつくり方、マーケティング戦略を見直していく覚悟で経営に臨むべき」という。そうなれば、企業は甚大なコスト負担を強いられる。
 大企業はこれに対応すべく、早速、リストラを強化し始めた。
 国民生活、国民経済はいちだんの危機にさらされることになる。
 こうしたなかで安倍政権は、集団的自衛権のための安保法制や軍備増強などで日米同盟を強化し、トランプ政権の要請に積極的に応えている。米国に追随してファーウェイ製品の排除を決め、「一帯一路」にも「質の高いインフラの海外展開」を掲げるなど、現実には中国への包囲と対抗を強化している。
 だが、日米物品・貿易協定(TAG)による、農産物と自動車を中心とする市場開放と為替問題での譲歩を迫られている。トランプ大統領は、五月の来日に合わせた交渉加速を求めている。軍需品購入要求も際限がない。
 わが国財界・支配層でさえ、日米関係の先行きに焦りを深めている。トヨタ自動車の豊田会長でさえ、輸入自動車を「安全保障上の脅威」と決めつけたトランプ大統領の発言に「大変残念に思う」と言うほどだ。
 米国は対中交渉の長期化に焦り、対日交渉で「実績」をつくろうとしている。それだけに、こうした対米不満は急速に拡大せざるを得ない。
 他方、輸出禁止措置を受けたファーウェイの任・最高経営責任者(CEO)は「日本、中国、韓国は自由貿易区域をつくらなくてはならない」「中国政府が進める『一帯一路』と結びつけば、中央アジアとのつながりも出てくる。そういう大きな経済圏の中で日本は間違いなく大きな役割を果たすだろう」と述べた。
 わが国財界・支配層内には、安倍政権の態度とは異なり、この提案を魅力的と受け取る向きもあるのではないか。
 だからこそ米国は、バノン元米大統領上級顧問・首席戦略官を派遣するなど、わが国支配層の動揺を「鎮圧」するための対日世論操作を強化している。
 対米追随の安倍政権による、米国の「不沈空母」として中国に対抗する道は、わが国の平和と安全を脅かし、国民生活をいちだんの危機に陥れるものである。この方向は、大多数の国民の利益に反している。対米従属政治を脱却し、アジアと共生する以外に、わが国の活路はない。
 安倍政権は、二階幹事長を通して対中関係の「改善」を図るかのように装い、対中関係が「正常な軌道に戻った」(一月の施政方針演説)などと誇っている。だが、かれらはあくまで対米従属の枠内でしか行動できない。安倍政権の「自主性」を装った欺まんにダマされてはならない。
 安倍政権による、対米従属の枠内での欺まん的「自主」か、それとも、日米安保条約を破棄してアジアと共生する国民大多数のための政治か、わが国の独立をめぐる「二つの路線」の闘いは、ますます切実な課題となっている。  (O)


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