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2019年5月15日号 2面・解説

日銀「金融システムレポート」 

  政策による経営悪化で
地方が犠牲に

  日銀は四月十七日、「金融システムレポート」を公表した。同レポートは、地方銀行や信金・信組の潜在的リスクを指摘するものとなった。世界経済の危機の深まりとアベノミクスの下、地方経済は疲弊している。さらに、日銀の緩和政策は地域金融機関の経営を圧迫している。地方金融機関の経営危機は、地方の疲弊をさらに深刻化させかねないものである。


  「金融システムレポート」(以下、レポート)では、地域金融機関の経営について、「自己資本比率、ストレス耐性」の「低下」を指摘、十年後に地銀の約六割が最終赤字になる恐れがあるとし、「こうした状況が長引くと、ストレス時の信用コストや有価証券関連損失に伴う自己資本の下振れが大きくなる結果、金融面から実体経済への下押し圧力が強まる可能性がある」と述べている。
 要するに、地域金融機関(地銀や信金・信組)は総じて、経営安定性の目安である自己資本比率(注)が低下しており、景気低迷が続く、あるいは何らかの金融危機が発生した場合、地域経済をさらに悪化させる要因となる可能性が高まっているというのである。
 金融庁も四月、地銀向けの監督指針を改正する方向を示している。

政府による経営悪化原因
 レポートでは、地域金融機関の経営悪化を「金融仲介活動の中核となる国内預貸業務の収益性が低下」していることだと指摘する。その原因に、「低金利環境の長期化」「人口減少に伴う成長期待の低下」「借入需要のすう勢的な低下」をあげている。
 これに対し、メガバンクなどの大手金融機関はグローバル展開を進め、海外で稼ぐ戦略である。他方、地域金融機関は「ミドルリスク企業向け等の国内貸出や有価証券投資を積極化」しているが、十分な収益を確保できず、これは経営悪化につながっている。「ミドルリスク企業」とは、リスクが相対的に高い(貸し倒れになる可能性がある)企業ということである。
 また、政府や御用学者は「オーバーバンキング論」、つまり地域金融機関が「多すぎ」、低金利競争を繰り広げていることが経営悪化の原因であるなどとしている。
 これは本当だろうか。

日銀の緩和政策こそ根源
 実際には、「人口減少に伴う成長期待の低下」が主因ではなく、安倍政権、日銀による金融緩和政策こそ、地域金融機関の経営を圧迫しているのである。
 アベノミクスの下、都市部を中心に投資家や大企業が潤う一方、地方経済の疲弊が進んだ。地銀、信金・信組は、融資先企業の倒産、廃業などで収益源が縮小している。
 地銀の収益構造は「資産運用益」、つまり伝統的な「貸出による金利収入」が約七割を占める。対して、都銀のそれは四割前後しかない。地方経済の疲弊で、この部分が打撃を受けているのである。
 さらに、日銀によるマイナス金利政策によって、地銀は日銀当座預金から「罰金」をとられる形になった。また、地域金融機関の投資先である国債からの金利収入は減少した。
 こうして、地銀の過半は、本業(貸出金利収入や商品の販売手数料など)の収益が赤字となり、自己資本を毀損(きそん)させているのである。
 「オーバーバンキング論」もデタラメである。わが国の銀行、信金・信組は五百程度しかない。これに対して米国は約一万二千の銀行と信金・信組があり、人口八千万人強のドイツも約一千九百の銀行と信組がある。
 今回のサポートは指摘していないが、地域金融機関は経営悪化から逃れるため、わずかな利ざやを求めて、海外での融資や証券投資を拡大させてきた。日銀による緩和政策開始以降、都銀の海外貸出は一・五倍になったが、地銀は二・六倍にも膨れ上がった。この伸びをけん引したのが、高リスクのレバレジッド・ローン(担保付融資)である。
 世界の金融事情が変化すればその直撃を受け、地銀は自己資本をさらに毀損させることになりかねない。
 政府、日銀の金融緩和政策こそ、地域金融機関を危機に陥れているのである。

場当たり的なレポート
 レポートは、地域金融機関の自己資本を充実させる手段として、日銀が金融庁と連携しながら、貸し出しを増加させた地域金融機関の劣後債を買い入れるオプションを示した。
 だがこれも、「何に対する貸し出しか」という問題が残る。地域経済にとって必要な中小企業に対する融資なのか、それとも無謀な不動産投資なのかなど、「貸し出しの増加」一般で計れるものではない。スルガ銀行(静岡県)はデタラメな不動産向け融資を繰り返したあげく危機に陥ったが、レポートの基準に従えば、こうした場合でも「支援」を受けられることになるのである。
 しかも、劣後債とはいえ公的資金注入、すなわち血税投入と同じである。地域金融機関にとっても、いずれ償還しなければならないものであり、地域経済の疲弊が進むなか、経営改善の見通しがあるのかどうか、実に危うい。
 しかもこんにち、フィンテック(金融技術)、人工知能(AI)導入など技術革新の勢いはすさまじく、スマートフォン(スマホ)を使った消費者間送金や決済手段の普及など、金融機関自身の存続さえ危ぶまれる程となっている。異業種からの参入も相次いでいる。
 メガバンクはこれに備え、人員削減を始めている。
 レポートの示す方向は場当たり的なもので、地域金融機関の経営を改善できるものではない。

メガバンクのための再編
 わが国地方における地銀の存在感は、依然として大きい。金融機関の全預金額中、地銀の占める割合は約四五%で、第二地銀や信金・信組を加えれば、地方の金融機関が過半である。貸出額においても、地銀は全体の約四割を占める。
 バブル崩壊後の不良債権処理と金融規制緩和策(金融ビッグバン)によって、都市銀行や信託銀行は急速に統合・再編を進めた。大手二十行は七グループに集約され、三メガバンク(三菱UFJ、みずほ、三井住友)が成立した。
 二〇〇〇年代を通して、地銀の多くもメガバンクの系列下、あるいは影響下に再編された。たとえば、新潟県の第四銀行と北越銀行、福岡銀行と熊本銀行、十八銀行、親和銀行(ともに長崎)も統合された(ふくおかフィナンシャルグループ)。常陽銀行と足利ホールディングス(足利銀行)の経営統合も、野村證券と三菱UFJの要請によるものである。信金・信組の統合も各地で進んでいる。
 支配層、金融庁の思惑は、劣後債などで当面のショックを防ぎつつ、県域を越えた地銀の再編、メガバンクへの系列化などで経営の効率化を図るというものであろう。
 金融庁は一三年、「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という文書(森ペーパー)を配布した。これは、地方経済の縮小を前提に、各銀行の収益性を試算したものとされる。翌年、畑中・金融庁長官は「経営統合などを経営課題として考えてほしい」と、地銀トップに再編を迫った。
 この狙いは、地域への収奪強化でメガバンクの収益基盤を安定させ、海外市場へ打って出る基礎を固めようというものである。

地域経済はさらなる苦境に
 地域金融機関が再編、あるいは系列化されても、預金者・融資先へのメリットは増えることはない。
 経営効率化にとって、手っ取り早いのは合理化である。県内地銀同士が統合すれば、店舗減少によるサービス低下を伴うのは不可避である。
 地銀の融資は、自己資本の二十五倍以内と定められている。自己資本の毀損は、融資の縮小となる。地銀が貸し渋り・貸しはがしを強化すれば、中小零細企業の倒産が続出し、雇用環境は悪化、地域経済はいちだんと冷え込む。
 こうした変動が、世界経済の成長鈍化と、米国による中国への新たな追加関税とそのわが国への波及という中で進行しつつある。地域経済は、いちだんの苦境と疲弊に追い込まれることは必至である。
 日銀による金融緩和を停止して地域金融機関の経営悪化を防ぎ、地域経済、住民生活の再建のためには、知恵と力を寄せ合うべきときである。    (O)

(注)自己資本比率=総資本に占める自己資本の割合。自己資本とは返済義務のない資本で、出資金、剰余金、自己株式などで構成される。海外業務を行う銀行は八%以上、国内業務では四%以上が必要と定められている。


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