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2019年3月25日号 2面・解説

レバレッジ・ドローン、
ハイイールド債…

  「次の金融危機」招く時限爆弾

   リーマン・ショックから十年を経、「緩やかな回復」などという俗論とは異なり、世界資本主義の危機はいちだんと深まっている。新たな金融危機の「爆薬」はいたるところにあるが、その一つとして注目されているのが、米国を中心とする高利回りの債券である。世界的に債務水準が高まるなか、その爆発は避けがたくなりつつあり、日本にも甚大な影響が避けられない。


 二〇〇八年のリーマン・ショックを端緒とする金融危機、その実体経済への波及によって、世界資本主義は「百年に一度」の危機に陥った。

金融緩和と膨らむ債務
 米国を筆頭とする先進諸国を中心に、各中央銀行による空前の金融緩和と、政府による財政出動が行われた。二十カ国・地域(G20)による国際協調と併せ、世界の破局はかろうじて押しとどめられた。
 とくに、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、日銀による量的緩和政策は、政府発行の国債を買い入れて資金を金融機関に供給し、長期金利を押し下げた。二〇〇六年からの十年間で世界の通貨供給量が八割増えるなど、「カネ余り」は空前のものとなった。
 国債利回りによる利益が相対的に減った世界の金融資本・投資家は、潤沢な資金を元手に、より高い利益を求めて、株式や商品市場、新興諸国への投融資などに投資した。世界の運用資産は八十兆ドル超と、〇四年の二倍に達した。コンピュータによる自動売買(アルゴリズム取引)も、投機に拍車をかけた。

高金利債券の急拡大
 とくに米国内で資金の受け皿となったのが、ハイイールド債(低格付け社債)やレバレッジド・ローンである。ハイイールド債は「ジャンク債」とも呼ばれる社債で、レバレジッド・ローンは担保がある融資である。いずれも、経営が安定していない企業向けのもので、信用リスクが高く、金利が相対的に高い。
 レバレジッド・ローンは、融資を受ける金融機関に対し、自己資本を一定以上に維持することを約束するコベナンツ(財務制限条項)が付いているのが一般的であった。だが、膨大な資金がこの市場に流れ込んだことで、この条項がないローンが全体の七五%を占めるまでに膨張した。
 しかも、投資銀行などは複数のレバレジッド・ローンを束ね、ローン担保証券(CLO)に組成されて販売、暴利をむさぼった。〇八年のリーマン・ショックの引き金を引いたのは、低所得者向けのサブプライムローンから組成された住宅ローン担保証券(MBS)や債務担保証券(CDO)であった。こんにちのCLOは、これと似た状況となっている。

「ゾンビ企業」の増大
 こんにち、レバレジッド・ローンはこの六年で二倍に膨れ上がった。とくに、一六〜一七年にかけて五割近い伸びを示した。
 レバレジッド・ローンの発行残高は一・四兆ドル(約百五十六兆円)で〇七年の約二倍、CLOは六千百億ドル(約六十八兆円)を超える規模に急拡大している。ハイイールド債も、一七年の全世界での発行額は四千三百四十億ドル(約四十八兆円)に達し、〇六年の二・四倍となった。
 まさにバブル状態である。リーマン・ショック後の各国による危機脱出策は、危機を引き起こした高リスク商品(サブプライムローン)とは別の「爆薬」(ハイイールド債やレバレッジド・ローン)を膨らませる結果となったのである。
 この結果、本来、資金繰り悪化などで倒産に追い込まれるはずの「ゾンビ企業」が延命することとなった。
 とくに、米シェール関連企業の多くはハイイールド債などで調達した資金を開発資金にあててきた。エネルギー企業によるハイイールド債は、同市場全体の約一五%を占めている。ハイイールド債のもう一つの主要な発行体は、中国や香港の不動産会社である。
 この二業界だけでなく、主要国の上場企業の八社に一社が「ゾンビ企業」であるという推計もある。この割合は、過去三十年間で最高である。

「警告」は発せられたが…
 FRBが一五年末以降、利上げを行ったのは、何より、こうしたバブルを恐れて「軟着陸」を図ろうとしたからである。
 だが、レバレッジド・ローンやハイイールド債への資金流入はさらに増加した。こうした債券は、投資家に支払われる金利が変動するため、FRBの金利引き上げによってさらに上昇、投資家はそこに群がったのである。その結果は、すでに見た通りである。
 それでも、こうした怪しげな金融商品に投資家が群がるのは、「ゼロ金利」に代表されるように、こんにちの資本主義の利潤率が著しく下がり、投資家は多額の資金でわずかな利ざやを得る(結果としての利益は大きい)ことに血眼になっているからである。
 当然ながら、金融当局者はこうした事態に危機感を深めた。
 昨年十一月、連邦公開市場委員会(FOMC)では、「レバレッジド・ローンの拡大が、与信能力の後退に対する経済の脆弱性を高めた」と指摘している。カーニー・イングランド銀行総裁も「レバレッジド・ローンの成長ぶりは金融危機前のサブプライムローンを彷彿(ほうふつ)とさせる」と指摘、国際決済銀行(BIS)による四半期報告書でも「米景気が後退期に入れば、レバレッジド・ローンの借り手である企業のデフォルト(債務不履行)増加などで、投資家は損失を被ることになる」と指摘している。
 レバレッジド・ローンやハイイールド債は持続不可能な状態となっており、昨年末からは同市場からの資金引き揚げが起こり、価格が急落している(図)。最近はやや持ち直したが、額面を上回って取引されているレバレッジド・ローンはわずか〇・九%にすぎず、額面割れが大部分となっている。
 一九年には、米エネルギー企業が発行した債券の総額一千九百億ドル(約二十兆円)分が満期を迎える。世界経済の成長鈍化がますます鮮明となり、市場環境が不安定さを増すなか、エネルギーを中心とする「ゾンビ企業」が資金を借り換えられるかどうか、きわめて不透明となっている。
 仮に借り換え不能が続出すれば、企業倒産が大量に起き、労働者は路頭に迷うことになる。

破裂すれば日本に波及
 レバレッジド・ローンやハイイールド債が破裂すれば、日本も「他人事」ではない。
 日本の銀行は、レバレジッド・ローンの三分の一相当を購入しているとされる。格付けが「高い」CLOでは、邦銀の購入割合は四分の三にも達しているという。
 黒田日銀による「異次元緩和」以降、邦銀は国債を日銀に売り、日銀当座預金を約七倍に膨らませた。邦銀は、これ以上当座預金を積むと、日銀に金利を支払わざるを得なくなる。そこで、米国発の怪しげな債券に手を出したのである。
 米金融機関が資金引き揚げを進めるなか、邦銀は未だ債券の大部分を保有し続けている。とくに、地銀による海外貸出が拡大している。日銀による緩和政策開始以降、都銀の海外貸出は一・五になったが、地銀に限れば二・六倍にも膨れ上がった。この伸びをけん引したのが、レバレジッド・ローンである。
 さらに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)やゆうちょ銀行も、ハイイールド債などへの投資が可能となり、購入を進めている。
 リーマン・ショック当時、それ以前のバブル崩壊の影響で、邦銀は米欧金融機関ほどに高リスクの債券を保有しておらず、損害は比較的軽微であった。だが十年後のこんにち、欧米の金融機関に代わり、邦銀が高リスクを背負い込んでいる。問題は、次の危機時に邦銀がうまく「足抜け」できるかということである。受け皿(債券の購入者)が登場する前に債券価格が暴落すれば、邦銀、とくに地銀の経営はたちどころに揺らぐ。すでに疲弊をきわめている、地域経済への悪影響は避けがたくなる。
 レバレッジド・ローンなどの「爆薬」は、わが国経済を直撃する可能性がある危機である。
 先進的労働者は、資本主義の危機を見抜き、破局に備えなければならない。(O)


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