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2019年3月5日号 2面・解説

米中協議が延長に

  米国の死活をかけた要求は続く

   トランプ米大統領二月二十四日、中国との協議で「十分な進展」があったとして、三月二日に予定していた中国製品への追加関税導入の延期を発表した。「貿易戦争が収束するとの期待」(日経新聞)などと報じる向きもあるが、米国の危機は深く、米国による中国への攻勢が終わることはない。日本への要求も激化することは必至である。わが国支配層にとって、対米関係をめぐる矛盾をいちだんと深めざるを得ない。


 米中はワシントンで四日間にわたって閣僚級協議を続けた。米中両首脳は昨年十二月の首脳会談で、九十日間の期限で通商問題を協議すると決め、三月一日が期限となっていた。
 トランプ米政権が昨年五月、鉄鋼とアルミへの輸入関税導入を発表した。七月には、産業機械など三百四十億ドル相当の輸入製品に二五%の追加関税、八月には化学品などに百六十億ドル相当に二五%の追加関税を課し、九月には食料品など二千億ドル相当に一〇%の関税を上乗せしてた。
 こうした米国による矢継ぎ早の対中攻勢は、大きな山場を迎えていた。

輸入拡大で譲歩示した中国
 中国は一千万トンの大豆、トウモロコシ、小麦、牛肉や鶏肉などの農産物をはじめ、液化天然ガス(LNG)や半導体など六年間で一兆ドル(約百十兆円)規模の米国産品の輸入拡大を約束、譲歩を示した。中国は、外国投資規制の緩和も申し出た。
 また、米中は人民元の安定でも合意した。米国は、中国が人民元安に意図的に誘導して自国の輸出企業の競争力を高めていると難クセを付けていたが、ここでも屈服を迫った。
 これらの合意より、米政権は三月二日に予定していた中国製品の関税引き上げも猶予することで合意した。二千億ドル分の中国製品への関税を現行の一〇%から二五%に引き上げる計画は延期され、残りの二千六百七十億ドル分の輸入品に関税を課すこともない。トランプ大統領は、猶予期間を「一カ月程度」としている。

米国の要求は終わらず
 ただ中国は、国有企業などへの産業補助金では、米国の要求には応じなかった。
 米国は、すでに二五%もの高関税を課している五百億ドル分の輸入品と、他の現行一〇%の関税を撤廃する意思も示していない。米国が仕掛けている中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)の排除や孟副会長への訴追については、公式には撤回する意思を示さなかった。合意項目にある「通貨安誘導の否定」も、具体的な内容は不明だ。
 ライトハイザー通商代表部(USTR)代表は、米国製品の追加購入では「解決できない。新たなルールが必要だ」と、攻撃の手を緩めないことを宣言した。彼が例示したのは知的財産の侵害などだが、対中要求を恒常化するための「仕組みづくり」も求め、「違反」した場合の「罰則規定」まで要求した。
 まして、米国は南シナ海における「航行の自由作戦」の強行、台湾問題、新疆ウイグル自治区の「人権」問題などでも対中攻勢を強めており、これらで何らかの合意が成立したわけではない。
 米国が中国の譲歩に満足したわけではない。「延期」はつかの間のことで、対中攻勢は今後も続く。

ドル支配の限界が背景
 米国は年三千八百億ドルもの貿易赤字を抱えている。米国は、一九七一年のニクソン・ショック以来、さらに九〇年代のルービン財務長官によるドル高政策以降は本格的に、諸外国、とくに日本、最近では中国からの資金流入によって貿易赤字を埋め、余った資金をお得意の金融商品などに再投資して利ざやを稼いできた。だが、リーマン・ショックを機に、この手口も限界に達した。
 米国は、膨大な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)に耐えきれなくなった。
 この危機を背景に、空前の格差、銃犯罪、麻薬、人種問題など、米国内の各種矛盾は著しく激化している。それは「米国第一」を掲げるトランプ政権を誕生させるまでになった。
 二〇〇〇年代に入って以降の中国の急速な台頭も、米国の危機を深めている。
 中国は、近い将来に米国を追い抜く経済大国となることが確実である。中国自身も二〇四九年に「社会主義の現代化強国」を実現するという国家目標を掲げ、「一帯一路」構想やハイテク産業育成のための「中国製造二〇二五」を打ち出し、経済・政治・軍事に渡る台頭を強めている。中国は、米国にとって最大の貿易赤字相手国でもある。
 米帝国主義にとって、中国を抑え込んで世界支配を維持することが、差し迫った課題となったのである。
 ペンス米副大統領は昨年十月、中国に対して事実上の「宣戦布告」ともいうべき宣言を突きつけた。ルトワック戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーは、中国の体制転覆の意図さえ公言している。
 中国への強硬策においては、米与野党間に違いはほとんどない。次期大統領選挙でトランプ以外の政権が発足したとしても、米国の対中攻勢はやまない。
 米帝国主義は、自らすすんで「(中国に次ぐ)第二位」に甘んじることはない。かくして、かつて日本に対して行った市場開放要求や「構造改革」要求などよりも激烈なものとならざるを得ないのである。

両国の国内事情が決する
 今回、トランプ政権が延期を決めたのは、対中制裁が「ブーメラン」となって米国企業の収益や農民の経営を圧迫、トランプ政権への不満が高まっていたことがある。中国が米国債の購入を減らす、あるいは手放せば、米政府の財政難はさらに険しいものとなる。
 また、「ロシア疑惑問題」などの追及は厳しさを増し、政権内の矛盾も激化している。
 二〇二〇年の大統領選挙での再選を狙うトランプ大統領にとって、この段階で、一定の「成果」をアピールした方が得策だと判断したのである。国内の事情次第で、以降の態度も変化する。
 すでに経済成長が落ち込んでいる中国は、米国製品の大量購入などで譲歩しつつ、構造問題は長期戦で、自主的改革と併せて「やり過ごす」戦略であったのであろう。短期的には、「大きな譲歩」は政権の求心力維持のためにも避けたかったことだろう。
 こうした点から今回の米中合意は、時間稼ぎに成功したともいえる。だが、米国の要求には際限がない。
 当面の米国産品の輸入拡大一つとっても、その実行と国内政策の整合性をとらなければならない。
 譲歩を重ねれば、一九九〇年代以降の日本のように米国にいちだんと収奪され、国内矛盾が激しくなりかねない。まして、米国が求める国有企業への補助金の撤廃・削減は、国有企業で働く労働者や関連企業の生活と営業はもちろん、共産党統治の根幹に関わる問題である。中国にとって譲れない問題である。
 米中協議にとどまらぬ両国関係の帰すうは、本質上、双方が国内を抑え、安定させられるかどうかにかかっている。

無策、展望なき安倍政権
 米国による対中攻勢は、世界経済にも大きな影響を与えずにはおかない。国際通貨基金(IMF)の試算では、米国が二五%への追加関税を行い中国が報復措置をとった場合、米国の経済成長率は〇・三ポイント、中国は〇・九ポイントも押し下げられる。
 中国による輸入拡大措置が、大豆などの国際市況や新興国経済に与える可能性も指摘されている。
 日本にとって、米国と中国が第一位、第二位の貿易相手国であるというだけではない。米国向けに限らず、中国による輸出の約二%(約三・八兆円)分の付加価値は、日本で生み出されているとの試算もある。これは、日本の年間輸出額の約五%に相当し、その中心は情報通信機器である。
 米国による対中関税が、「中国経由」で日本経済に悪影響を与えるのである。
 また、トランプ政権は日本への通商要求を強める構えも見せている。ライトハイザーUSTR代表は三月にも来日を予定、事実上の自由貿易協定(FTA)である日米物品貿易協定(TAG)交渉を急ごうとしている。ライトハイザー代表は為替問題にも言及している。「円安是正」となれば、その背景であるアベノミクス、日銀による金融緩和政策も転換を迫られる。
 安倍政権は、米国からの要求に抗しきれるか。
 わが国の進路が問われている。独立・自主の政権でこそ、危機を打開することが可能なのである。(O) 


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