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2019年2月25日号 2面・解説

ペンス米副大統領が欧州訪問

  中ロへの対抗策して孤立深める

   ペンス米副大統領が二月中旬から欧州を訪問した。副大統領は、訪問先で中国、ロシア、イラン、とくに中国へのハイテク分野での圧力を力説、正当化した。内外の危機に焦っての行動だが、逆に、ドイツとの意見の違いが深刻化するなど、米国の孤立をさらに深める結果となった。


 ペンス副大統領は二月十三日から、欧州を歴訪した。

中国対抗への同調迫る
 最初の訪問地であるポーランドでは、米国が同国と共催する中東の安全保障問題を扱う国際会議に出席した。会議には、サウジアラビアなどの湾岸諸国、イスラエルなど六十カ国が参加した。イラン、ロシア、パレスチナは欠席した。
 ペンス副大統領の演説では、中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)製機器を次世代通信規格(5G)から締め出すことを正当化した。
 さらに、イランを「中東最大の脅威」と糾弾し、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)にたとえることまでして、欧州諸国が「核合意」から離脱することを要求した。
 副大統領はイランと敵対するネタニヤフ・イスラエル首相とも会談、同盟関係の強化を確認した。一方、二〇一七年末にエルサレムをイスラエルの首都と承認して以降、パレスチナ自治政府・人民が反発を強めていることを考慮し、パレスチナへの経済支援も表明して懐柔を策動した。
 さらに副大統領は、ドゥダ・ポーランド大統領との会談で、同国がファーウェイの社員を「スパイ容疑」で逮捕したことを「歓迎」した。ペンス副大統領は、ポーランドが米国の要求に応えて軍事費を拡大させていることに「特別な絆を築いている」と「蜜月」を強調、他の欧州諸国にも同調を迫った。
 英国のEU離脱が決まるなどで、米国の欧州に対する影響力が相対的に低下するなか、ロシアとドイツに挟まれた戦略上の要衝でもあるポーランドを、欧州における走狗(そうく)に育てようという狙いからである。ドゥダ大統領は、米軍基地の受け入れ案も表明している。

ミュンヘン会議でも敵視
 ペンス副大統領は、ドイツで十五日から開かれたミュンヘン安全保障会議(MSC)にも出席した。同会議は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国と非加盟の中・東欧諸国、ロシア、中国などの政治家、軍人らが参加し、毎年開かれている。
 この会議は、公式リポートのタイトルが「大いなる難問 誰が事態を収拾するのか」であった。世界資本主義の危機と米国による中国への攻勢、米欧矛盾の激化、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効可能性、英国の欧州連合(EU)離脱など、世界と欧州をめぐる環境が激変するなか、支配層でさえ先行きが見通せなくなっていることが暴露されている。
 開催国のメルケル・ドイツ首相は、イラン、シリア政策などにおける米国の「自国第一主義」を強くけん制し、「ロシアを含む世界的な協調」を訴えることで、ロシアとドイツの間で建設中のガスパイプライン「ノルドストリーム2」計画の正当性を訴えた。トランプ大統領がドイツからの自動車輸出を批判していることについても、独BMWの最大の工場が米サウスカロライナ州にあることを指摘して反論した。
 対するペンス副大統領は、核戦力を中心とする軍備増強などによる「力による平和」を公言した。中国が「米国経済と世界経済に負担を与えてきた」などと決めつけ、「構造的な問題に取り組むべき」と要求した。中国ハイテク企業を「脅威」と名指しして圧力を正当化するとともに、参加国にもファーウェイ製品を「排除するよう求める」と威圧した。併せて、南シナ海問題、「一帯一路」、「人権」問題などを取り上げ、米中関係を「再定義」することを訴えた。事実上、中国に、米国の「風下に立ち続ける」ことを求めたのである。
 また、クリミア半島やサイバー問題を取り上げてロシアに「責任をとらせる」と非難、「何年間もINF全廃条約に違反した」と断じた。同国を「エネルギー供給国として信頼性を欠く」と決めつけ、メルケル首相の呼びかけを拒否した。
 また、イランを「残忍な革命体制」などと決めつけ、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)にも「過ちを繰り返さない」と述べて支持を求めた。

戦略外交強めるペンス
 副大統領による行動は、台頭する中国を抑え込み、自らの世界支配を維持する戦略に基づいたものである。米国は一七年十二月の「国家安全保障戦略」(NSS)で、中国とロシアを「修正主義勢力」と決めつけ、対抗する意思をあらわにさせた。
 ペンス副大統領は昨年十月、ハドソン研究所での演説で「米国の民主主義に干渉している」などと、中国に対して事実上の「宣戦布告」を行った。政権のブレーンであるルトワック戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーは、中国の体制転覆の意図さえ公言している。
 中国に対する追加関税などの「貿易戦争」、南シナ海や台湾問題などでの圧力、新疆ウイグル自治区などの「人権」問題なども、こうした戦略に基づくものである。
 程度の差はあれ、米与野党の間にこうした戦略についての差はない。
 「ラストベルト地帯」など産業と地方の衰退、「格差」拡大と「人種戦争」、政府機関の閉鎖などで米国内の矛盾が激化するなか、米帝国主義による策動はいちだんと死活をかけたものになっている。むろん、来年に迫る次期大統領選挙を意識したものでもある。

孤立深める米国
 ペンス副大統領は、ポーランド訪問、さらにミュンヘン安保会議での発言で、中国・ロシアなどへの対抗をいちだんとあらわにさせた。しかも、「米国第一主義は米国の孤立を意味しない」と開き直り、「国際指導体制とは米国が決めて同盟国がそれに従うことを意味している」などと粋がった。
 だが、米国はますます孤立しており、世界を従わせる力もない。
 ラブロフ・ロシア外相は「米国の路線が混乱を助長している」と反論、中国も「(米国が求める条約の)多国間化に反対する」「力による政治は拒絶すべき」(楊政治局員)と語った。楊政治局員は「企業に『バックドア(裏口)』を仕組んだり情報を集めたりするよう求める法律は中国にはない」と、ファーウェイ問題でも反論した。
 敵視されたイランのザリフ外相は、すぐさま「憎悪に満ちた批判であり、妄想」と反論。イラン、ロシア、トルコは米国に対抗して十四日、ロシアのソチで首脳会議を行い、シリア内戦への対応で連携を確認して米国を強くけん制した。
 同盟国の欧州諸国も、米国と異なる態度を強めている。ファーウェイ問題をめぐっては、ヤンガー英国情報局秘密情報部(MI6)長官がファーウェイ製品を採用しても「リスクは管理可能」と明言した。背景には、「(ファーウェイ製品を排除すれば)多額のコストをもたらし、数カ国で5G通信網の導入が遅れる」(英携帯通信大手ボーダフォンのリード最高経営責任者[CEO])という要求がある。
 ドイツも、ファーウェイによる欧州研究所の新設を受け入れるなど、米国と一線を画している。圧力を受けているスロバキアも「脅威とみなさない」との方針を示している。ニュージーランドも、機器の採用については「独自に決める」と表明した。
 米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのアングロ・サクソン系五カ国は「ファイブ・アイズ」という「スパイ同盟」をつくっている。正式な決定ではないものの、英国(あるいはニュージーランドも)がこのような態度を打ち出したことで、米国主導のスパイ同盟も揺らぐこととなった。
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 こうしたなか、わが国の安倍政権は、「世界で唯一」といってよいほど、トランプ政権に追随している。トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦するという、あきれるほどの「提灯持ち」外交である。河野外相はMSCで中国を念頭に、「法の支配などの基本原則と国際秩序が挑戦を受けている」などと訴えた。
 こうした態度は、わが国の国際的孤立を招くばかりである。日米安保条約を破棄し、国の進路を転換させなければならない。
 中小国・人民、ときに米帝国主義の世界支配をよしとしない帝国主義国の一部との連携して、わが国の進路を転換させるべきときである。      (O) 


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