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2019年2月15日号 2面・解説

19年度予算案 
デタラメな「増税対策」、
大軍拡、福祉切り捨て…

  財政赤字はいちだんの重荷に

   安倍政権は、一般会計で百一兆四千五百六十四億円となる、二〇一九年度予算案を国会に提出した。「増税対策」、過去最大の防衛費、大幅増の公共事業費などで大企業への奉仕を強める一方、社会保障制度の改悪が続いている。さらに、財政危機はいちだんと深刻化している。世界経済が悪化するなか、政府の対応手段はますます限界をさらしている。


 一九年度予算案は、当初予算としては過去最高の規模である。
 特徴は、十月に予定される消費税増税(八%から一〇%へ)のための対策として約二兆円、五年連続で過去最高となった防衛費、前年から一六%増額となった公共事業費などである。
 防衛費の詳細については1面を参照してほしいが、昨年末に閣議決定した新たな「防衛計画大綱」「中期防衛力整備計画」(中期防)で決まった、約二十七兆四千七百億円規模の大軍拡計画の「手始め」として、五兆二千五百七十四億円もの防衛費が計上された。
 多額の軍事予算は、米国の世界戦略を支えて中国への対抗を強めるものである。併せて、七千億円を超える有償軍事援助(FMS)で、トランプ政権を支える米軍需産業に奉仕するものである。わが国・アジアの平和は、ますます危険にさらされる。

デタラメな「増税対策」
 内外経済の深刻化を基礎に、実質賃金の低下、「格差」拡大、地方の疲弊などで、労働者をはじめ国民大多数の生活と営業はますます厳しい。元々、逆進性が強く低所得者に打撃を与える消費税を増税することは、国民生活をさらに追い込むものである。
 一九年度予算案では、「景気の腰折れを防ぐため」として、二兆二百八十億円を投じて種々の対策が打ち出されている。
 その内容は、中小小売業でのキャッシュレス決済へのポイント還元として二千七百九十八億円、低所得者や子育て世帯向けの「プレミアム付商品券」に一千七百二十三億円、住宅購入者への「すまい給付金」七百八十五億円、自動車取得への軽減税などである。
 だが、キャッシュレス決済の拡大は、クレジットカード会社とそれを傘下に持つメガバンやク、スマートフォン(スマホ)サービス関連のIT(情報技術)大手に多大な手数料収入を与えるものである。
 他方、複数税率の導入によって国民生活は混乱させられるだけでなく、中小零細事業者も多大な負担を強いられる。ポイント還元も、消費水準の高い富裕層ほど利益を得る。さらに、制度の詳細は不明ながら、還元はさまざまな不正の温床となる可能性もある。共通ポイント制が、国民のプライバシーを侵害しかねないものであるという問題点もある。
 世論調査でも、六割以上がポイント還元などの反対しているが、当然である。
 大幅賃上げと消費税増税の中止、さらに消費税の廃止、何より、アベノミクスで儲(もう)けた大企業と投資家に応分の負担をさせ、庶民に還元することこそが、最大の景気対策である。

社会保障制度の改悪続く
 一方、社会保障費は、従来からから続く「年間の伸びを五千億円に抑える」という方針が維持され、各方面で国民負担の増加が続いている。
 今予算案では七十五歳以上の高齢者医療保険料の引き上げ、七十歳以上の高額医療費の負担上限引き上げ、介護保険制度への三割負担の一部導入、生活保護費の生活扶助費の切り下げ、マクロ経済スライドによる年金の実質減額(約〇・五%)、薬価引き下げなどが予定されている。
 これらの結果、六千億円以上の「自然増」が見込まれた社会保障費の伸びは、五千億円を大きく下回る規模に圧縮された。
 安倍政権は「全世代型社会保障」を掲げるが、その実態は、いちだんの社会保障制度の改悪である。第二次安倍政権の成立以降、社会保障費の削減は約四・三兆円に達する。政府内では、後期高齢者の医療費窓口負担の引き上げ、外来受診時の定額負担など、さらなる国民犠牲案が検討されている。
 安倍政権は「幼保無償化」を打ち出し、一九年度予算案で子育て政策が充実するかのように宣伝している。だが、無償化対象からは給食費が対象から外されており、幼稚園では全額負担が続く。羊頭狗肉(ようとうくにく)もはなはだしいものである。
 また、「毎月勤労統計」などの「統計不正」は深刻な問題である。原因究明と厚労相の更迭、関係者の処罰は言うまでもないが、過小給付分は、早急に「延滞利息付き」で補填されなければならない。

国民各層にも重大な悪影響
 そのほか、国民諸階層の生活・営業にも悪影響を与える。
 「国土強靱(きょうじん)化」の名の下で拡大される公共事業は、大企業の輸出拠点としての「国際戦略コンテナ港湾」の拡充などを含むものである。これは、国民生活の向上ではなく、多国籍大企業の利益に奉仕するものである。
 熊本地震など被災者生活再建支援法に基づく支援金は三百万円が最高のままで、生活再建にはきわめて不十分な水準である。せめて、五百万円に引き上げるべきである。昨年の西日本豪雨による被害を教訓に、国主導による災害対策を早急に強化すべきである。
 環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)で存亡の危機にある農業分野には「対策を打つ」としつつ、その実態は、企業の参入拡大を含む大規模化の促進である。日本農業を支えてきた家族農業は、ますます切り捨てられる。売国農政の転換こそが必要である。
 東海地方を中心に発生した、豚コレラへの対策と畜産農家への支援策も緊急の課題である。
 中小企業や個人事業主に対しては、事業承継税制の拡充が図られた。だが、この狙いは、企業の再編・統合で「新陳代謝」を促すことである。そのため、親族外の承継であるM&A(合併・買収)に重点が置かれ、全国の「事業引継ぎ支援センター」で相談体制が強化される。これでは、地域経済を支えている中小零細企業を守ることはできない。
 また、この税制変更は、働き方改革の進展で雇用関係を個人事業主扱い(労働者ではない)に変更する流れが進むなかでのことである。個人事業主扱いされた労働者の大部分は待遇が悪化し、団結権などの保障されない。税制変更が労働条件の不利益変更の口実とされないようにしなければならない。
 エネルギー政策では、小型原子力発電所の開発予算を計上された。東北地方をはじめ甚大な被害をもたらした東日本大震災と福島第一原発事故を経てもなお、原発にしがみついている。すべての原発の廃炉と、自然エネルギーの拡充こそが求められている。

財政危機はますます深刻化
 わが国は、国と地方の累積債務が国内総生産(GDP)の約二四〇%に達している。
 今年度予算案が可決されれば、ここに新規国債発行額三十二兆七千億円が加わる。すでに、二〇年度に予定されていた「基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化」は二五年度に先送りされたものの、その達成さえほとんど不可能で、政府・与党さえ信じていない。
 財界は、先進国中最悪の財政状況への危機感を深めている。
 小林・経済同友会代表幹事は、財政危機や技術革新における立ち後れをあげて「日本が二度目の敗北に直面している」と述べるほどである。
 安倍政権が今予算案で「増税対策」などの政権浮揚策を行おうとしているのは、四月の統一地方選、さらに夏の参議院選挙、あわよくば衆参同日選挙を見据えてのものである。
 だが、国債への信認失墜を機に、「日本発」の金融危機さえ想定できる情勢である。
 この問題は、内外の経済危機、米中対峙(たいじ)などの安全保障環境と併せ、安倍政権を揺さぶり続ける。
 一九年度予算は、米国と財界にさらに奉仕し、国民諸階層に犠牲を押しつけるものである。わが国の危機も深刻化する。
 安倍政権を打ち倒し、独立・自主、国民大多数のための政権を打ち立てることこそ、打開の早道である。(K) 


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