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2019年2月5日号 2面・解説

施政方針演説/
マスコミは「安全運転」と報じるが…

  「統計不正」以外にも難題山積

  第百九十八通常国会が一月二十八日、召集された。安倍首相は施政方針演説で、毎月勤労統計の不正処理について陳謝して「低姿勢」を演出した。他方、「アベノミクスは今なお、進化」「戦後日本外交の総決算」など、米戦略に追随して国民生活とアジア・日本の平和と安全をないがしろにする態度は鮮明である。四月の統一地方選、夏の参議院選挙、さらには衆参同日選挙をも念頭に置いた欺まんでもある。だが、安倍政権を取り巻く内外環境は厳しい。安倍政権の弱みを突き、闘いを前進させなければならない。


 施政方針演説は、年頭、次年度予算案の国会提出と同時に、政権の基本方針を示すものである。第二次安倍政権の成立後、七回目となる。
 今回の演説についてマスコミは「安全運転」などと評しているが、その実、安倍政権の内外政策がますます行き詰まっていることが示されたものである。

アベノミクスのウソ暴露
 施政方針演説は、発覚した「統計不正」について、「おわび」「検証」で乗り切ろうとしている。それで済まされる問題ではない。
 安倍政権は、二〇一二年、旧民主党政権下で進んだ国民生活の悪化を打開すると主張、併せて「強い日本を取り戻す」と連呼して登場した。
 アベノミクスの「三本の矢」ーー日銀による異次元の金融緩和、景気対策のための財政出動(機動的財政政策)、多国籍大企業に利益をもたらす成長戦略(未来投資戦略)が実行された。国民大多数の生活と営業がさらに悪化する一方、内外大企業と投資家は膨大な利益を得、格差」は米国に近づくほどに開いた。
 今回、「統計不正」の発覚によって、安倍政権が「好循環」宣伝の根拠にしてきた経済「成長」や名目賃金の「上昇」なども「不正の産物」であったことが明らかになった。
 安倍首相は施政方針演説で、六年間の「成果」を延々と述べ、性懲(こ)りもなく「アベノミクスは今なお、進化」などと述べた。だが、「ウソまみれ」の実態が暴露され、内外環境の危機の深まりと併せ、「進化」どころか継続さえ危うい。

「総決算外交」繰り返す
 安倍首相は昨年秋の臨時国会における所信表明演説に続き、「戦後外交の総決算」を掲げた。
 あたかも、戦後の対米従属外交を転換させるかのようである。安倍首相は、安全保障政策について「わが国自身の主体的・自主的な努力」であると力説した。
 だが、首相が「わが国の外交・安全保障の基軸は、日米同盟」と明言した通り、実態は対米従属の枠内にすぎない。日米物品貿易協定(TAG)交渉などの売国交渉や、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設を「進める」などと、対米従属外交と「自由で開かれたインド太平洋」構想をさらに推進するとした。
 安倍政権が「自主性」を喧伝する際に利用している北方領土問題では、ロシアとの交渉を「加速」するという。だが、日ロ首脳会談では、ほとんど前進がなかった。安倍首相は国会答弁で「(北方領土は)固有の領土」という表現さえ使わないほどロシアへの「配慮」に腐心しているが、今後も領土問題を打開するあてはない。
 また安倍首相は、中国との関係を「完全に正常な軌道へと戻りました」と述べ、「日中関係を新たな段階へ押し上げる」などとした。米国が対中攻勢をいちだんと強化するなか、対米追随の枠内で中国の信頼を得られるはずもない。日中関係の「改善」は、きわめて一時的・限定的である。
 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との国交正常化も、南北融和の流れに背を向け続ける限り、国交正常化さえおぼつかない。安倍首相は、悪化している日韓関の改善について、「対朝鮮」での連携に触れただけで、元徴用工訴訟やレーダー照射問題などの打開の方向を一切示さなかった。
 対米従属外交では、アジアの信頼を得られるはずもないのである。

政権の環境は悪化
 安倍政権を取り巻く内外環境は悪化の一途である。
 世界経済の成長鈍化はいちだんと鮮明になっている。リーマン・ショック後、中央銀行による緩和政策と財政出動に伴い、官民の債務を拡大させることでかろうじて維持されてきた成長は限界に達した。再度の金融危機が迫っている。
 「第四次産業革命」と呼ばれる急速な技術革新は、企業・国家間の争奪を著しく激化させている。
 資本主義は末期症状を呈している。
 人民の生活はますます悪化し、フランスの「黄色いベスト運動」など、各国での階級矛盾が激化している。これに規定され、国家間対立も深刻化している。二十カ国・地域(G20)などの国際協調は崩れ、合意文書に実効性はない。
 トランプ政権は「米国第一」を掲げ、台頭する中国を抑え込むための攻勢を強化している。アジアでの争奪と軍事的緊張が激しさを増している。
 わが国経済は先進国中、最悪レベルの低成長が続いている。ここに、金融危機の接近などの危機が襲いかかろうとしている。米国による中国への圧力も、日本経済に重大な影響を与える。米連邦準備理事会(FRB)による利上げが一段落付いたことで、円高傾向も忍び寄りつつある。

安倍政権の対応策は限界に
 安倍政権による危機対応策は、すでに限られている。日銀による「異次元の金融緩和」は限界に達し、世界最悪水準の政府累積債務も解決のあてはない。
 安倍首相は、第二次政権以降、名目GDPが「六十兆円増えた」などと誇っているが、政府債務は百七十五兆円も増えている。
 安倍首相は「二〇二五年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化目標の実現に向け、財政健全化を進める」などと述べたが、政府・与党でさえ信じていない。
 この状況下で、十月には消費税再増税が予定されている。安倍首相は「全世代型社会保障への転換」を掲げ、「高齢者の皆さんへの福祉サービスを削減するとの意味ではまったくない」などと述べたが、社会保障費は年五千億円以上のペースで削減され続けているのが実態だ。さらに「十二分な対策」で増税への「国民の理解と協力」を呼びかけたが、国民生活の実態からすれば、増税の条件はない。反発の高まりは不可避である。
 安倍政権の抱える難題はこれだけではない。
 安倍首相が「かつてなく強固」と誇る日米同盟でさえ、米国からの対日要求や対中攻勢の激化によって、わが国財界・支配層内に動揺が広がっている。
 例えば、米国とその要求に屈した安倍政権の策動により、携帯各社は中国・ファーウェイ(華為技術)製品の排除を決めているが、「ファーウェイはコストも安く、技術的には先の世代を見ている」(宮川・ソフトバンク副社長)とジレンマを隠していない。
 憲法九条改悪でさえ、安倍首相はあくまで固執する姿勢を捨ててはいないものの、施政方針演説では「議論が深められるのを期待」などと、昨年の「実現の時を迎えている」から大きくトーンダウンせざるを得なかった。
 何より、内外環境の激変のなかで財界は危機感を深め、安倍政権への不満を募らせつつある。小林・経済同友会代表幹事は、財政危機や技術革新における立ち後れを例に「日本が二度目の敗北に直面している」と危機感をあらわにし、自らが支持してきた安倍政権に対する態度も「非常に問われている」と言わざるを得ない。
 財界の期待に応えられないと判断されれば、早晩、政権は立ちゆかなくなる。 

政権延命策に懸命だが
 安倍首相は、七回も「平成の、その先の時代」と繰り返すなど、二〇年の東京五輪を超えての政権維持に腐心している。安倍政権は、一九年度予算、天皇の代替わり演出、さらに日ロ外交や大阪でのG20首脳会議などで政権浮揚を図るもくろみのようである。
 今夏の参議院選挙と同時に、衆議院の解散・総選挙を行うこと可能性も報じられている。
 だが、統一地方選挙では、福岡県知事選など「保守分裂」に陥るところが目立っている。地方経済の衰退が深まるなか、矛盾が深まっていることを示している。その後の参議院選挙と併せ、自公与党の勝利は保障されていない。
 資本主義が末期症状を呈し、階級対立が激化する世界である。階級対立の激化は、いずれ日本にも訪れざるを得ない。
 労働運動の真価が問われている。先進的労働者、活動家は、激動に耐え、切り開ける革命政党を育て、鍛える歴史的任務に立ち上がるべき時である。 (O)


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