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2019年1月25日号 6面・解説

新防衛大綱、中期防を閣議決定 
アジアの平和脅かす大軍拡策動

  「自主」装い米戦略に全面追随

  安倍政権は十二月十八日、新しい「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」を閣議決定した。「新たな領域」への対処などと、米戦略にさらに追随し、中国に対抗する姿勢をあらわにさせた。他方、米国の衰退と「自国第一主義」を意識し、欺まん的に「自主」を強調してもいる。防衛大綱、中期防の売国的本質を暴露し、アジアの平和を守るために奮闘しなければならない。


 中期防は、今後五年間の防衛費として二十七兆円四千七百億円を想定、最新鋭戦闘機や護衛艦の空母化、ミサイル防衛強化などを図ろうとしている。

「大綱」の情勢認識
 そもそも防衛大綱とは、政府が防衛力整備の方針を示した文書である。内容は、情勢認識や防衛の基本方針、自衛隊整備の方向性、具体的な戦力構成を示す「別表」という大きく三つの要素から構成されている。
 ただ、わが国の外交・安全保障・防衛戦略の総体を示す文書は、こんにちでは「国家安全保障戦略」であり、これは二〇一三年十二月に閣議決定された。今回は改定されていない。
 その上で、新しい防衛大綱が示す情勢認識を検討する。
 五年前の一三年に策定された旧大綱では、国際情勢の特徴として「中国、インド等の更なる発展及び米国の影響力の相対的な変化に伴うパワーバランスの変化により、国際社会の多極化が進行している」としつつ、「米国は、依然として世界最大の国力を有しており、世界の平和と安定のための役割を引き続き果たしていくと考えられる」としていた。
 今回の大綱では、この部分が「中国等の更なる国力の伸長等によるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している」「自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成や影響力の拡大を目指した、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化している」とされた。
 記述の変化の特徴は大きく三つである。一つは「パワーバランスの変化」の動因として中国を強く打ち出していることである。もう一つは国家間の競争の激化を指摘し、対応をめざしていることである。最後に、「米国第一」を掲げたトランプ政権の誕生に伴い、「世界の平和と安定のための役割を引き続き果たしていくと考えられる」という記述が削除されたことである。
 わが国支配層なりに、国際情勢の激変に対応しようとしたものであろう。
 とくに中国に対しては、旧大綱で朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に次いでいた記述順序を第一に「繰り上げ」た。さらに、「透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化」しているなどと、敵視と対抗をあおり立てている。
 朝鮮に対しても、一八年に行われた南北首脳会談や初の米朝首脳会談について一言も触れずに黙殺し、相も変わらぬ敵視姿勢である。
 そして防衛大綱は、米国が「世界的・地域的な秩序の修正を試みる中国やロシアとの戦略的競争が特に重要な課題」としているとし、この米国に奉仕することをあからさまにさせている。

大綱の方向と中期防
 こうした認識の下、防衛大綱は「多次元統合防衛力」という名の下、従来の陸・海・空に加え宇宙・サイバー領域での対応強化と一体的運用の方向性を明記した。これは、旧大綱での「統合機動防衛力」に宇宙・サイバー領域などを加えたものである。全体としては対米劣勢だが、弾道ミサイル戦力を軸に、宇宙・サイバー領域を加えた米軍との「非対称戦」において、一定の範囲では差を狭めつつある中国を意識し、これに全面的に対抗する意図を鮮明にさせたものである。
 以上のような防衛大綱の下、新中期防(一九年度〜二四年度)の予算総額は、現行期間(一三年度〜一八年度)から約二兆八千億円も上積みされ、過去最高となった。最新鋭のステルス戦闘機F35百五機、早期警戒機Eー2D九機、陸上配備型迎撃ミサイルシステム(イージス・アショア)二基、護衛艦二隻(いずも、かが)の「空母化」などが打ち出された。宇宙やサイバー、電磁波攻撃への対応も打ち出されている。迎撃が難しい超音速誘導弾や、水中ドローンの研究開発も進める。F は、購入決定済みの四十二機と合わせて百四十七機と、英国を超える世界第二位の規模となる。航空自衛隊に宇宙領域専門部隊を編成、陸海空共同の組織としてサイバー防衛部隊も編成する。
 こうした大軍拡の結果、米国からの有償軍事援助(FMS)は大幅に増大する。一九年度予算案では早速、前年度比二千九百十一億円も増え七千十三億円が計上された(図)。「米国からの軍事援助」などというが、実態はトランプ政権の背後にいる米巨大軍需産業に日本国民の血税、国富を貢ぐものにほかならない。
 さらに、三年後の国際情勢や技術動向を考慮した「見直し」と称し、さらなる増額の可能性も含まれている(財政事情の極度の悪化にともなう縮減の可能性もあるが)。

米戦略への露骨な追随
 こんにち、リーマン・ショック後の世界経済の危機はさらに深まっている。成長率はさらに低下、そのわずかな成長さえ、官民が膨大な債務を積み上げることで維持されている。新たな金融危機が迫っている。
 巨大インターネット系企業など、ごく一握りの多国籍大企業、大金持ちにばく大な富が集積する一方、全世界人民の生活は極度に悪化、格差は絶望的なまでに開いている。
 労働者階級をはじめとする全世界人民は既存の政治・政党への不満と怒りを高め、各国では階級矛盾が激化している。国・地域によっては、内戦・暴動、デモやストライキ、大量の難民発生などとしてあらわれている。ブルジョア民主主義の枠内でさえ、欧州を中心に、いわゆる「ポピュリズム勢力」が台頭、政治を揺さぶっている。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権も登場した。衰退する米国は世界支配を維持するため、中国に対する経済・政治・安全保障にわたる全面的な攻勢を強め、抑え込もうとしている。
 米国は一七年末に策定した国家安全保障戦略で、「同盟」という言葉を八十五回も使い、日本、欧州、アジア諸国との同盟を「国際安全保障の支柱」と位置付けた。これは、台頭する中国に対抗するには米国単独では不可能で、「公平な負担」という名の下、同盟国に負担を強いて行おうという意思表示にほかならない。
 翌一八年一月には、「国家防衛戦略」において「長期の戦略的競争」という表現を用い、米中関係が「競争」関係にあることを明言した。さらにペンス副大統領は十月初旬、「中国は米国の民主主義に介入している」などと非難、事実上の「宣戦布告」まで行っている。
 米中関係は、米国による知的財産権を口実とした中国製品に対する広範な追加関税に始まり、通信大手・華為(ファーウェイ)などの排除と中国からの投資規制、南シナ海での「航行の自由作戦」など、際限がない。
 新大綱とそれに基づく中期防は、この米戦略に追随するものである。
 新大綱・中期防の策定に対し、アーミテージ元米国務副長官は「称賛に値する」と大歓迎している。米共和党系シンクタンクのランド研究所のジェフリー・ホーナン氏も「米政府は歓迎するだろう」と、同様の態度である。
 さらにアーミテージは、「日本は、(アジアで)指導的な立場を取り続け、伝統的な米国の役割の多くを果たさなければならない」と、わが国のさらなる負担、米戦略への貢献を要求しているのである。
 FMSの異常な増大は、この米国の要求に即したものである。中国への対抗を口実に、防衛装備品の購入を求めるトランプ政権、米軍需産業の意向をくんだのである。すでに、特定秘密保護法や集団的自衛権のための安全保障法制、武器輸出三原則の撤廃などを矢継ぎ早に進めてきた安倍政権は、憲法九条改悪も急ごうとしている。
 中国は新大綱・中期防に対して「強烈な不満と反対」を表明した。韓国政府も、「日本の防衛・安保政策は平和憲法の基本理念の下、域内の平和と安定に寄与する方向で透明に進められなければならない」とけん制している。当然の反応である。
 米戦略に追随した軍事大国化策動は、アジアの平和を脅かし、わが国の国際的孤立を招くだけである。

「自主」装う欺まん
 警戒すべきは、安倍政権がこうした米戦略追随の軍事大国化策動を、「主体的・自主的」という欺まんをあおって推し進めていることである。
 大綱は、防衛力を「主体的・自主的に強化していかなければならない」などと、「主体的・自主的」という表現を五回、「主体的」に限れば八回も繰り返している。
 中国に対する態度にも、同様の態度が垣間見える。
 すでに述べたように、中国の抑え込みを策する米国への追随は明らかであるにもかかわらず、中国が「世界的・地域的な秩序の修正を試み」ているということを「米国の認識」などと、客観性を装っている。
 あたかも、日本は米戦略と無関係に軍事力を増強し、中国への対抗をめざしていないかのようである。日中首脳会談の開催など、日中関係の「改善」を図る手前、摩擦の増大を避けたいというもくろみもあろう。米戦略に追随し、中国に対抗する「自由で開かれたインド太平洋戦略」についても、「構想」と言い換える姑息(こそく)な策動を行っている。
 わが国支配層内の対米・対中関係での深刻なジレンマを反映してもいる。
 「対中国」だけではない。安倍政権は一二年の成立前後から、「強い日本を取り戻す」と呼号、最近では「戦後外交の総決算」を掲げるなど、わが国の「独立」を実現するかのような欺まんを繰り返している。
 対ロシア外交でも、プーチン大統領との首脳会談を繰り返すことで、北方領土が返還されるかのような期待をあおっている。
 昨年末、「国益」を掲げて国際捕鯨委員会(IWC)から脱退したり、国際関係においては日常茶飯事である軍隊間のレーダー照射をことさらに騒ぎ立て、元徴用工問題などと併せ、韓国への排外主義をあおっているのも、わが国の「自主」「独立」「強い日本」を演出するためである。
 欺まんを演じることで対米追随の売国性を隠し、経済危機に対する国民の不満をそらそうとしているのである。
 これは、年末に株価が急落するなどアベノミクスが限界をさらし、消費税増税や社会保障制度の相次ぐ改悪などで国民の不満が高まるなか、国民の大国意識をあおることで政権浮揚を図ろうとする狙いも込められている。
 だが、安倍政権が「自主」「主体的」などと繰り返そうが、その実態は対米従属の枠を一歩も超えるものではなく、欺まんにすぎない。こうした欺まんは、政権の弱さの反映でもある。
 それでも、安倍政権の欺まんは、国民諸階層の支持をひきつけるのに一定程度貢献している。国民生活の危機が深まるなか、安倍政権が比較的高い政権支持率を維持できている根拠の一つが、「強い日本」の演出による大国意識の発揚である。
 統一地方選挙、さらに参議院選挙が迫り、衆参同日選挙も想定されるなか、安倍政権はますます欺まん的な策動への依存を深めている。
 労働組合、先進的労働者は、安倍政権の欺まんを見抜き、その策動が対米従属の枠内にすぎないことを暴露しなければならない。
 支配層・財界内でさえ、米中摩擦の影響が深刻化するなか、対米矛盾がますます深まっている。
 労働者階級は、広い戦線をつくって闘わなければならない。      (K)


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