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2018年12月5日号 3面・解説

またも緊迫するクリミア情勢

緊張の根源に米国の干渉

   ロシアの警備当局は十一月二十五日、同国とクリミア半島を結ぶケルチ海峡を通過し、アゾフ海に入ろうとしたウクライナ海軍の艦船を攻撃し、三隻を拿捕(だほ)した。裁判所は、乗組員の二カ月勾留を決定した。
 これに対抗して、ポロシェンコ・ウクライナ大統領は戒厳令を発動した。

米国の干渉への反撃
 今回の事態の本質を理解するには、ウクライナ内戦と二〇一四年のクリミア半島のロシアへの編入、さらにそれに先立ち、米国がロシアとその周辺国に系統的な干渉を行ってきたことを見なければならない。
 冷戦崩壊後、米国はジョージア(グルジア)、ウクライナなどの旧ソ連諸国への干渉、を強めてきた。北大西洋条約機構(NATO)の「東方拡大」と、いわゆる「色の革命」がそのテコであった。ロシアには、中国に認めた世界貿易機関(WTO)加盟を認めなかった。それは、核大国であるロシアを孤立させて弱め、自らに対抗できないようにすることで、米国の世界支配を維持するためである。
 だが、ロシアは〇八年の南オセチア紛争(八月戦争)で反撃に出た。これに続いたのが一三年の米欧の干渉による反政府運動の活性化(ユーロマイダン)、ヤヌコーヴィチ政権の退陣と、翌年の「反ロ派」ポロシェンコ政権の成立、これを契機としたウクライナ東部紛争である。
 ロシア人が多数を占めるウクライナ東部二州は「半独立」的状態となり、さらにクリミア半島は住民投票を経てロシアへの編入を決議した。米欧はロシアへの制裁を発動した。
 今回の拿捕事件に先立ち、ウクライナ軍幹部はアゾフ海内に新たな海軍基地を開設すると発表した。一九年三月に大統領選を控えたポロシェンコ大統領も、対ロ強硬策で政権浮揚を図る必要があったのである。
 米国やNATOも、ウクライナへの軍事支援や黒海への艦隊派遣などを強化している。クリミアに対するロシアの支配をけん制するとともに、東部内戦での優位を確保するためである。
 ロシアにとっては、新海軍基地を通して米欧からの支援物資が持ち込まれることを阻止する必要があった。プーチン政権は五月、アゾフ海上の橋を開通させた。これによってアゾフ海へのアクセスをより完全なものとし、クリミア半島への実効支配を強化して対抗しようとした。ウクライナのアゾフ海周辺地域には、鉄鋼や穀物の輸出拠点が集中している。これを揺さぶる狙いもあった。
 以上、ロシアの態度は大国主義的なものではあるが、基本的には米国に対する反撃である。緊張の元凶は、ロシアと周辺国への干渉を続けた米国にある。

大局的に米世界戦略に打撃
 今回の事態により、二十カ国・地域(G20)の首脳会議に合わせた米ロ首脳会談は中止された。ヘイリー米国連大使は、国連安全保障理事会で「ごう慢な行動」とロシアを非難、ポンペオ米国務長官はポロシェンコ大統領に「強い支持」を伝えた。
 すでに米国は台頭する中国を「第一の敵」と定め、政治・経済・安全保障のすべてに渡り全面的な攻勢を仕掛けている。この角度から、本来、中ロの同盟を防ぐためにも対ロ関係の一定の「改善」を必要とするようになった。中距離核戦力(INF)全廃条約からの「脱退」は、ロシアよりも中国への対抗を意図したものである。トランプ大統領の「親ロ的」言動は、決して偶然ではない。
 だが、ロシアの行動を認め、ウクライナの「反ロ」勢力への支援を止めることはできない。米国の中ロ分断策は、手直しを余儀なくされている。
 ロシアにも事情がある。
 プーチン政権にとって、米欧からの制裁が続き、年金問題などで支持率が低下するなかで妥協的態度をとることは、政権の求心力を弱めることになってしまう。併せて、シリア内戦やイランの核開発問題など、中東政策をめぐる米国との対立も抜き差しならない。プーチン政権は米国の「中ロ分断」の狙いを見抜いている。中ロは必ずしも「一枚岩」ではないとはいえ、上海協力機構(SCO)や合同軍事演習の実施、経済協力などで連携を強めてもいる。
 米国がロシアへの対抗を強めざるを得なくなっていることで、中国に対抗する世界戦略の実行はより複雑化し、大局的には困難を増すことになった。  (O)


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