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2018年11月25日号 2面・解説

安倍政権の欺まん的外交

対米従属の枠内で期待できない

  安倍首相は日中首脳会談に続き、日ロ首脳会談で北方領土返還に道筋がついたかのように宣伝している。これらの外交は、米国の衰退と米中対立を横目に見た、安倍政権なりの対応ではある。だが、しょせんは対米従属の枠内でのもので、「自主性」などではなく、政権浮揚を策したものにすぎない。


  安倍首相は十月二十三日、所信表明演説で「戦後日本外交の総決算」などと言い、日中関係の正常化、日ロ平和条約の締結、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との諸問題解決などに取り組む考えを強調した。だがその実態は、ますます欺まん性を深めている。

対ロシア外交、領土返還の幻想あおる
 安倍首相は十一月十四日、シンガポールでのプーチン・ロシア大統領との会談で、「日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させることで一致した」などと述べ、北方領土返還に向けて「前進」したかのように宣伝している。
 安倍首相は、国民の悲願である北方領土問題に「必ずや終止符を打つ」などという。だが、問題の前進は何ら保証されたものではない。安倍政権が、仮に歯舞・色丹諸島という「二島」の「引き渡し」で平和条約を締結するとなれば、「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という従来の政府方針の変更、後退となる。
 何より、北方領土問題は「米国の意向次第」である。
 一九五六年の日ソ共同宣言に際して、米国は「ソ連に譲歩して択捉・国後を諦めるなら、沖縄に対する日本の潜在的主権は保障できない」(ダレス国務長官・当時)とどう喝して、日ソの離間を策した。
 安倍政権は「領土問題の解決」を口実に対ロ関係を重視してきたが、中国の大国化に対抗して「中ロ同盟」を阻止、分断する意図も持っている。併せて、ロシアの資源や市場を確保しようとしている。
 この範囲では、米国も安倍政権の行動を黙認しているが、それをはみ出せばどうか。
 こうした実態を知っているからこそ、プーチン大統領は「引き渡し後に米軍を駐留させないこと」を求めたのである。だが米国からすれば、日本の「全土基地化」に例外を設けることとはきわめて困難である。万が一、「非武装化」を認めるとしても、日本に(通商問題などで)よほどの譲歩を求めるに違いない。
 こうして、安倍政権の事実上の政策転換で「四島返還」はほぼ不可能となった上に、歯舞・色丹の二島「先行」返還さえ危ういのである。

対中国「関係改善」で合意したが限界付き
 十月末の日中首脳会談では、「新たな時代」の日中関係構築で一致、「競争から協調へ」などの三原則を確認したとされる。日中与党交流協議会は、「『一帯一路』を含む経済協力の推進」で合意した。
 「一帯一路」への参画を含む中国との関係改善は、わが国がアジアで生きていく上で不可欠なことであり、こうした合意は悪いことではない。
 こうした合意をテコに、安倍政権は、尖閣諸島問題などで悪化していた日中関係を打開したかのように宣伝している。
 だが実際は、日中首脳会談では、経済面ではともかく、安保分野ではほとんど進展がなかった。
 安倍政権は中国との「関係改善」を口にしながら、それ以上の力を割いて、中国に対抗する外交と軍備増強を進めている。
 集団的自衛権のための安保法制、南シナ海への自衛隊派遣と米軍との共同訓練の強化、南西諸島への自衛隊配備、特定秘密保護法、オーストラリアなどとの安保協力強化など、矢継ぎ早である。「敵基地攻撃能力」確保や、憲法九条改悪も策動している。
 日中首脳会談の前後にも、欧州を歴訪、さらにインド、オーストラリアなどとの首脳会談を行い、「インド太平洋戦略」の促進で合意した。朝鮮との首脳会談を策動しているのも、拉致問題の打開による政権浮揚というだけでなく、「対中国」を主軸に据えた米国のアジア戦略を補完する意図からである。

対米従属に縛られた日本外交
 対中、対ロ外交に限って述べたが、このほかにも、朝鮮との首脳会談を画策してもいる。
 安倍政権はこれらを、あたかもわが国の進路の課題を解決し、戦後の対米従属政治から抜け出して自立をめざすかのように装いつつ進めている。二〇一二年の総選挙で掲げた「強い日本」がそれである。
 だがこれは対米従属の枠内で、米世界戦略に追随してのものである。同時に、世界中に権益を保有するようになった、わが国多国籍大企業の要求でもある。
 安倍政権がうたう北方領土問題の解決、さらに日中「関係改善」にいささかも幻想は持てない。
 戦後日本は、米国の政策に規定され、日本はこれに縛られてきた。
 こんにち、衰退を早める米帝国主義は、深刻化する国内矛盾を打開し、世界支配を維持するための巻きかえし策を強めている。昨年末に策定した「国家防衛戦略」では、中国とロシアを、自らの支配を脅かす「修正主義国家」と規定、対抗することを明言した。第一の標的は中国で、知的財産権などを口実にした中国への制裁を強化している。とくに、成長戦略である「中国製造二〇二五」を阻止しようとしている。
 ペンス米副大統領は十月初旬、中国を強く非難する演説を行い、「長期にわたる対決」を明言した。米欧のマスコミは、これを「新たな冷戦の前触れ」と評したが、まさに宣戦布告に等しいものであった。
 トランプ大統領も、中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明、オバマ前政権が末期に着手した核兵器増強計画をさらに強化することを表明した。
 こうした米戦略のスポークスマンとして、エドワード・ルトワックらが対日世論操作を強化し、「米中の対決は習近平政権、共産党の体制が終わるまで続く」とまで宣言している。
 米中関係は、対立の長期化、さらには武力衝突の可能性さえはらんで、アジア情勢は緊迫の度を増している。

安倍政権による欺まん外交を暴露せよ
 米国のアジア戦略は、日本の負担と協力なしには実現できない。
 九月の日米首脳会談では、事実上の自由貿易協定(FTA)である日米物品貿易協定(TAG)交渉で合意した。
 わが国の主権は、ますます危うくなっている。これは、わが国労働者階級をはじめ、財界を含む支配層にとってさえ、耐えがたいものとなりつつある。
 安倍政権が、対中国、対ロシアなどで、一定程度「自主」を見られるような対応を取っているのはこうした情勢の反映でもある。さらに、自民党幹部さえ、「(日米安保条約が)今後も安定的なものであるかどうか、かなり疑問」と発言するような事態である。支配層内部の分岐は、いちだんと広がることになろう。
 安倍政権は、対米従属政治から抜け出すどころか、米国に引きずられてアジアでの緊張を高めている。「戦後日本外交の総決算」というのであれば対米従属こそ総決算しなくてはならない。
 安倍政権による、対米従属の対アジア、対ロシア政策では、わが国とアジアの平和を守ることはできない。米国の危険な策動を許さず、アジア諸国と共生する自主外交が必要である。そのためには、独立・自主の政権を樹立することこそ、早道である。
 対米従属の歴代政権は、沖縄返還や日中国交正常化などの民族的課題が「解決」するかのような欺まんを演じ、幻想をあおって広範な人びとをひきつけ、政権維持を図ってきた。野党、労働組合などはこうした策動を暴露できず、政権・与党の欺まんを許し、広範な中間層の支持を奪われてきた。
 こんにちの安倍政権の策動も同様である。各種世論調査の結果を見ても、日中首脳会談、さらに日ロ首脳会談の結果を「評価する」有権者が多数であり、これらが政権浮揚に一定程度貢献していることは疑いない。
 だが、すでに述べたように、安倍政権の策動は国の進路をめぐる課題を解決するどころか、日米同盟の枠内を一歩も出るものではないのである。
 議会内野党は安倍政権の欺まんを暴露することもできず、安倍と同様の「日米基軸」に縛られ、真の政策的対抗軸を立てることさえできないでいる。国際情勢の激変、米中対立の激化という現実を認識し、わが国の将来を模索するべきである。その努力をせず「日米同盟は大事」という認識にとどまるのであれば、政党としての責任を果たすことにはならない。
 先進的労働者・労働組合は、安倍政権の欺まん的外交を暴露し、広い戦線をつくり、国の進路をめぐる課題で最先頭で闘わなければならない。    (K)


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