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2018年11月15日号 3面・解説

外国人労働者の受入拡大

全労働者の低賃金化を招く

  安倍政権は出入国管理法(入管法)改「正」案を閣議決定し、今国会での成立をもくろみ、来年四月からの施行をめざしている。
 閣議決定された法案は、新たな在留資格「特定技能」を複数創設することで、単純労働者の受け入れを拡大するものである。受け入れ枠は「五年で三十四万人」とされたが、その後は不明である。受け入れ業種も建設業、農業、介護、宿泊、外食など「十四職業」とされてはいるものの、詰められていない。社会保険制度など、受け入れ態勢もまったくない。
 国会でも「各省庁が検討・精査している」(山下法相)と述べるのみで、「生煮え」法案である。
 以上のようなデタラメな状況であるため、この時点では、細部にわたる批判には限界がある。いずれにしても、出入国管理体制のみならず、わが国労働政策の大きな転換である。

わが国財界の要求
 外国人労働者の受け入れ拡大は、わが国財界の要求である。
 経団連は二〇〇三年年頭に発表した「活力と魅力溢(あふ)れる日本をめざして」(奥田ビジョン)で、「外国人も日本においてその能力を発揮できるよう、日本社会の扉を開いていく」と明記された。
 この段階で念頭におかれている外国人労働者に単純労働者が含まれるのかどうかについては、必ずしも明確ではない。それでも、現在の法案に道を開くものではある。
 その後のリーマン・ショックを経て、世界、わが国の危機はさらに深まった。国際競争、市場と資源の争奪戦が、急速な技術革新を伴いながら激化している。
 こんにち日本では、「人手不足」を理由とする倒産が一七年まで四年連続で増加している。少子化と労働力不足の深刻化が叫ばれている。
 安倍政権はこれを口実に、「深刻な人手不足が経済成長を阻害している」(安倍首相)などと言い、外国人労働者の受け入れ拡大で「日本は豊かになる」と宣伝しているのである。今回の法案の骨格は、六月に決定された「骨太の方針二〇一八」で示された。

正体は低賃金層の拡大
 では、なぜ「人手不足」なのか。
 わが国労働者の賃金は一九九〇年代末から下落し続け、安倍政権が「好循環」を叫んだこんにちでも、実質ベースで下がり続けている。なかでも、介護や運輸などの業界は低賃金構造が定着している。これが、「人手不足」の根本原因である。
 賃金を大幅に引き上げてこそ、こうした業界への就業希望者は増える。さらに、長時間労働の規制、福利厚生の充実や非正規社員の正規化などを進めることで失業者は減少し、高齢者や子育て中の女性の就業も増加するのである。中長期的には、人口減少に対する効果的な対策にもなる。
 こうした抜本的施策を行わず外国人労働者の受け入れ拡大を急ぐのは、弥縫(びほう)策にさえならない。
 政府は「日本人と同等以上の報酬を支払う」などとしている。金融やハイテク部門に従事するごく一部の労働者には該当したとしても、単純労働者に対しては当てはまらない。財界が欲しているのが「労働力」一般ではなく、「低賃金の労働力」だからである。
 外国人労働者の受け入れで、日本人を含む労働者間の競争を激化させ、賃金水準を押し下げ、労働条件を押し下げて、コストを削減しようというたくらみである。これによって「企業が一番活躍しやすい国」(安倍首相)を実現し、多国籍大企業が国際競争に勝ち抜く条件整備を進めようというのである。
 しかも現在、世界的な技術革新によって、中長期的に、労働者の職は人工知能(AI)などに奪われていく。外国人労働者の受け入れ拡大は、わが国労働者にとっては「ダブルパンチ」となるのである。

外国人含む待遇改善を
 留学生、あるいは技能実習生などの形をとった外国人労働者は、現実にわが国経済を支える存在である。その数は、百二十八万人(一七年十月時点)と過去最高で、総労働人口の二%を占めている。しかも、この五年間で約六十万人も増加している。
 だが、かれらの多くは「最低賃金以下」「半監禁生活」など、きわめて劣悪な労働条件を強いられている。リーマン・ショックや東日本大震災後、かれらは真っ先に犠牲となった。各所で、労働者の「逃亡」が相次いでいるのは、自らを守るための当然の行動である。
 すでに日本で働いている外国人労働者の待遇を抜本的に改善することも、重要な課題である。これ抜きの受け入れ拡大は論外である。
   *  *  *
 安倍政権は参議院選挙前に法案を成立させ、詳細は官僚の裁量で決めていこうとでもいうのであろうが、可能かどうか。
 安倍政権が「移民政策ではない」などと強弁するのは、国民大多数、とくに支持基盤である保守層の反発を恐れるがゆえである。
 「骨太の方針二〇一八」でわざわざ「移民政策ではない」と念を押し、政府も同様の答弁を繰り返しているのは、そのためである。在留資格「特定技能」に、家族の同行を認めないなどの非人道的な規定を盛り込んでいるのも、何とか移民政策との区別を図ろうという悪あがきである。ダマされてはならない。
 労働組合は、自らの賃上げ・待遇改善の闘いと結びつけて、入管法改悪案との闘いに立ち上がらなければならない。    (K)


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