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2018年11月5日号 2面・解説

日中首脳会談

対米従属下の「改善」は限界

  安倍首相は習近平主席との会談で、日中関係について(1)競争から協調へ、(2)パートナーとして脅威にならない、(3)自由で公正な貿易体制の発展という「三原則」を提示した。

経済協力中心に合意
 両首脳は、数々の問題で合意した。
 経済面では、通貨交換(スワップ)協定の再開と規模拡大、先端技術や知的財産保護を協議する枠組みの新設、証券市場を巡る包括協力、第三国へのインフラ投資での共同案件策定、約四十年続いた中国への対政府開発援助(ODA)の終了などで合意した。福島第一原子力発電所事故以来続く日本産食品の輸入規制について、中国は「緩和を積極的に考える」と回答した。
 外交・安全保障面では、「海難救助協定」に向けた合意、朝鮮半島の「非核化」、防衛当局による「海空連絡メカニズム」会合の開催、東シナ海のガス田開発協議の早期再開をめざすこと、三万人規模の青少年交流の実施などが決まった。
 また、習主席の来日についても「真剣に検討する」と答えた。
 全体に、経済面での合意が並ぶ一方で、安全保障面の前進はきわめて乏しかった。緊急時に防衛当局が連絡を取り合う「ホットライン」の開設時期は決まらないままで、ガス田協議についても、従来の表現に「早期」が加わったにすぎない。朝鮮半島の「非核化」に関しては、その内容さえ一致できていないことは言うまでもない。
 長年の懸案である歴史認識問題については、議論になった形跡さえない。

日中双方の事情
 安倍首相は訪中に先立ち、「日中関係を新たな段階へと押し上げてまいります」(所信表明演説)などと息巻いていた。会談後は、日中関係が「競争から協調へ」と向かったなどと、「成果」を強調している。
 安倍政権は今回の首脳会談を通じて狙ったことは何か。
 日中平和友好条約締結から四十年を迎えるなか、七年もの間、首相が中国を公式訪問できないという異常事態を終わらせることで有権者に外交「成果」を印象づけ、政権維持と延命に役立てる意図があった。
 国民大多数の生活苦に加え、自民党総裁選で露呈した地方の不満の高まり、閣僚の相次ぐスキャンダルなどで政権の求心力低下が顕著となっていただけに、これは切実であった。
 なかでも、中国主導の「一帯一路」への参画などで財界に利益を保証する必要があった。五百人という財界訪問団が同行したのは、このためである。
 併せて、対中関係の強化で、日米物品貿易協定(TAG)や為替要求など、米国の対日要求を相対化させるもくろみもあった。
 中国側の狙いは、「貿易戦争」など米国からの攻勢が全面化するなか、とくに経済面で日本の協力を引き出し、日米の間にくさび打ち込むことである。とくに、先端技術における米中競争が激化するなか、日本の協力は不可欠であった。
 これは、習政権の基盤安定のためにも重要であった。

中国抑え込みを図る米国
 他方、米国は台頭する中国を抑え込んで世界支配を維持しようと、全面的攻勢に打って出ている。なかでも、中国の技術発展戦略である「中国製造二〇二五」を阻止しようとしている。
 昨年末、トランプ政権は「国家安全保障戦略」で、中国とロシアを、自らの支配に挑む「修正主義勢力」と決めつけ、対抗することを宣言した。ペンス副大統領は十月初旬、「中国は米国の民主主義に介入している」とまで難クセを付けた。ルトワック米戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーは、ペンス演説を「国家声明」と断言、「米中対立は中国共産党政権が崩壊するまで続く」と述べ、米国による攻勢の長期化と、中国の「体制転覆」まで公言している。
 知的財産権を口実とする対中制裁と追加関税、台湾問題や新疆ウイグル自治区の「人権」を口実とした揺さぶり、「航行の自由」を掲げた南シナ海での軍事挑発などは、こうした対中国、アジア戦略に基づくものである。
 すでに前オバマ政権時代から、米中関係はサイバー領域を含む「広義の戦争状態」にあった。この関係はいちだんと緊張し、近い将来における両国の軍事衝突さえ考えられる情勢となっている。
 このような制約下、日中首脳会談が打算的、実利主義的なものとなったのは当然であった。

幻想あおる安倍政権
 日中首脳会談後、経団連は「高く評価する」(中西会長)ともちあげ、日中首脳による「自由で公正・透明なビジネス環境の一層の整備」などへの「強力なリーダーシップの発揮」を期待している。
 世論調査によると、安倍首相の中国訪問の結果を「評価する」という意見は七一%と、「評価しない」の二〇%を大きく上回った(日経新聞)。一定の有権者が、安倍政権による対中関係改善を「歓迎」し、「自主」外交として「評価」したものと思われる。
 だが、今回の首脳会談による種々の合意に際し、安倍政権は米国に十分な「配慮」を示したことを忘れるべきではない。
 厳しさを増す米中関係を念頭に、習主席が「自由貿易を堅持し、開放的な世界経済を推進しなくてはならない」と主張、「米国一極の体制に反対」とも述べた。それに対して、安倍首相は「米中両国が対話を通じて摩擦を解消すべき」と応じるのみであった。
 そのほかの経済合意についても、米国の国益に触れないよう、必死の「努力」をしたことが報じられている。日中両国の合意や財界関係者によるフォーラムに「一帯一路」という名前が明示されなかったのは、その一例である。
 日中首脳会談直後に日印首脳会談を行い、「アジア太平洋戦略」で合意することで中国へのけん制を再確認したのも同様である。
 それでも、米国は日中両国の接近に対する警戒を解いていない。
 日中通貨スワップ協定の再開について、米国から「非公式に不快感が示された」(米ロイター通信)という報道もある。
 九月の日米首脳会談では、第三国による「不公正な貿易慣行」への対処での「協力推進」が約束された。これは名指しはしていないが、中国が念頭にある。今後、米国がこの合意をタテに、難クセを付けてこないという保証はない。
 商業新聞によれば、「三原則」における両首脳の合意があったのかどうかさえ、疑念が抱かれている。
 安倍政権が幻想をあおったところで、わが国が対米従属に縛られる限り、対中国関係の改善はあらかじめ「限界付き」なのである。

ジレンマ深める支配層
 衰退する米国が策動を強め、対日圧力も激化するなか、わが国支配層は対米関係をめぐって動揺を深めている。
 自民党の閣僚経験者さえ、「(日米安保条約が)今後も安定的なものであるかどうか、かなり疑問」と発言する事態である。
 商業新聞も「従来の米国追従は万能な解とは言えなくなった」(日経新聞)と認めざるを得ない。
 支配層の主流は強大化する中国を恐れ、独力では対応できないと考えて日米同盟の強化で対処しようとしている。先のような見解を述べた「日経新聞」は、その翌日には、対中関係の強化が、米国の怒りと制裁を招いた東芝機械ココム違反事件(一九八七年)という「苦い記憶がよみがえる」ことになりかねないと恐れている。「産経新聞」に至っては、日中首脳会談は「誤ったメッセージを国際社会に与えた」と警鐘を鳴らしている。わが国財界も、合意した日中経済協力について「米側からクレームが来てもおかしくない」(ロイター)と述べているという。
 わが国支配層に染みついた、「恐米論」とでもいうべき奴隷根性である。
 このようなわが国支配層、安倍政権には、「米国の承認する範囲」を超えた対中関係の改善・発展など、できるはずもない。
 安倍首相の振りまく「日中関係の新たな段階」はあり得ない。中国、アジアとの関係改善・発展を願う人びとは、安倍政権に幻想を持つことは禁物である。
 中国をはじめアジアとともに歩む国の進路を実現する上で、もっとも確実な保証は、対米従属の安倍政権を打ち倒し、独立・自主で国民大多数のための政権にとって替えることである。
 その中心勢力は、労働者階級である。国民各層の中心として、安倍政権を暴露し、倒す闘いの先頭に立たなければならない。(O)


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